続・思わぬ収穫? ~見聞録~

七月 優

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見聞録

観光できる地下世界 ⑥

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「そうおっしゃられてしまうと、それの正体が気になって仕方ありませんね」
「だろう?」

 困ったような顔のエヴラールに、マーキスはしたり顔だ。
 一方、リースは拍子抜けしたのか、目を瞬かせている。

「こちらも尽力しているのだが、中々に探し出せなくて、正直手を焼いているんだ」
「そうでしたか」

 にこにこ顔のマーキスとエヴラールは、どこか楽しんでいる気配もある。
 そんな中、探検に勤しんでいたメンバーが、リースのもとに戻って来た。最初に出会ったエリチョクが、座っているリースを引っ張り立たせる。一生懸命こっちこっちと意思表示しながら、リースをどこかへ連れて行こうとしていた。

「わっ! ちょ、ちょっと待って。エリチョクっ ―――― 」

 突然の行動に慌てふためくリースは、後半しどろもどろに意味不明な言葉を発した。
 そんな光景を、エヴラールやマーキスたちは子どもを見守る目つきで眺めている。

「リース、彼らの誘いを無下にしてはいけないよ」
「ああ。私たちは構わないから、自由に行動してくれ」

 エヴラールだけでなく、マーキスからも援護射撃が繰り出されれば、リースの行動は決まったようなものだ。

「すみません。お言葉に甘えさせていただきます」

 申し訳なさそうな顔をしてリースは会釈すると、エリチョクたちに連行されていく。
 そのまま、リースはエリチョクたちや妖精たちと共に、マーキスたちが掘った一か所の穴の中に消えていった。一見、リースと戯れたいエリチョクたちが彼女を連れ去った風にしか見えない。

 マーキスの部下の誰一人、彼らの身を案じて後を追おうとする者はいなかった。いや、追うことを禁じられていることを、エヴラールは理解している。

「マーキス様の策士振りは、今もご健在ですね」

 エヴラールはぽつり、マーキスを褒め称えた。

「ん? それはどのことを示して言っているのかな?」

 マーキスはにやにやしながらの、揶揄い口調である。
 エヴラールは降参という風に、少し肩を落とした。

「ここ周辺にアレ・・の封印結界が隠されていると、我が国にまで噂を流したのは、マーキス様でしょう」
「如何にも。その様子では、最初から知っていたのではないのだな」
「はい。ここでマーキス様にお会いした瞬間、私たちは手の平の上で転がされていたことを察しました」

 エヴラールは溜息交じりに、困ったように笑うしかない。
 そんな若輩者の素直な態度に、マーキスはくつくつと喉の奥を鳴らした。

「エヴラールたちを出し抜けたのなら、私もまだまだ捨てたものではないな」
「はい。ご勘弁もとい手加減して欲しいものです」
「それは嬉しい誉め言葉だ」

 苦々しさを吐露するエヴラールに、マーキスはご満悦である。

「それにしても驚いたよ。ロムト国が一枚絡んでいる気はしていたが、まさか希望の光が彼女だったとはな」
「はい。弟が選んだ彼女がそうだったなど、我々も夢にも思っていませんでした」
「最初から気づいていたわけではないのか」

 エヴラールの告白に、マーキスは目を見張った。

「はい、その通りです。弟すら、結婚の準備を進めるまで知りもしませんでした。彼女自身、自分にあんな力があるとは、ひた隠しにしてきましたしね」
「賢明な判断だ。いくら貴殿たちが信用に足る者たちといえど、どこから情報が流出するか分からないからな」
「そうですね。私もそれで良かったと思っています。でなければ、彼女の命は既になく、弟は一生愛する伴侶に出会えない運命だったでしょうから」
「そうか。エヴラールたちが弟を可愛がっているのは、変わりないな」
「もちろんです。イオには、酷い命運を託しました。我々が関与できない、どうしようもなかったこととはいえども、自分たちの情けなさと悔しさは一生忘れることなどできません。生きて戻れるか怪しかった苦境を耐え抜いて、弟は無事使命を果たし生還した。だからこそ、弟をより一層可愛がらないわけがないのです」

 憤りすら感じる家族愛と兄弟愛を、エヴラールは垣間見せる。
 それには、マーキスも重く受け止めざるを得なかった。

 エヴラールたちは、彼の実弟でありリースの夫にかなり厄介な問題を、かつて背負わせた。それは生死を問われるレベルの重要な案件だった。その厄介な問題を、リースの夫は仲間と共に無事解決して見せたのが、約四年前の夏のことである。

「熱く語ってしまい、失礼しました」
「よい。常時すました顔で感情を隠されるよりは、よっぽどいいとも。感情を殺しすぎては、大切なものを失うこととてあるだろう」
「はい」

 余裕を見せるマーキスに、エヴラールは冷静さを取り戻していく。

「ここだけの話だが・・・・・・」

 そう切り出したマーキスに、周囲は話題の変換を察知する。

「孫にはほとほと困ったものだ。我が国の魔瘴・・の封印結界を、こんな場所に勝手に移動して埋めたなど、最近まで知りもしなかった。消滅できないからといって、観光地近くのここを選び埋め隠すなど、全く何を考えているのか分らんよ。暗黒時代が終わったからと、魔瘴の危険性を孫は軽視しすぎている。巷では、他国の魔瘴の封印結界に限界が来ている話も聞くじゃないか」
「おそらく、嫌な過去の遺物を永久に隠ししのぎたかったのでしょう」

 俗にいう「臭い物に蓋をする」に近しいことを、マーキスの孫はやってのけたようなものだ。
 エヴラールはマーキスの苦労を知り、同情するばかりである。

「そうだがな。だからとて、こんな場所に埋め隠すなど、愚の骨頂だろう? おまけにそれを指示した孫も、埋め立てた連中も、その正確な場所の記録すら残しておらんかった。それでこの有様だ」
「そうでしょうか? 全てが愚かとも言い難いのでは?」
「なぜそう思う?」

 予想外のエブラールの呟きに、マーキスは訝し気な視線を送った。

「ある意味この場所は、盲点をついていると言えなくもないでしょう。魔瘴を狙う良からぬ思想の連中からすれば、なんの手掛かりなしに、この国一番の観光地付近に魔瘴が隠されているとは考えにくいはずです。また、埋め立て隠した正式な場所を記録として残さなかったのは、本気で永久に隠すつもりだったからではないでしょうか? 私の予想ですが、呪いなどを駆使して、埋め立てに関わった者たちの記憶を消す徹底振りだったのではありませんか?」

 エヴラールの説明に、マーキスはふうと大きく息を吐いた。

「記憶操作に関しては当たっている。だが、孫を買い被りすぎだ。私には孫がそこまで考えていたとは到底思えん」

 やれやれと首を横に振るマーキスに、エヴラールは黙るしかない。
 マーキスの孫が本当にどこまで考えていたのかは、本人のみぞ知るところ。
 そこまでの意図など絶対になかったと豪語する姿勢のマーキスに、反対の可能性をこれ以上示唆しても無駄だとエヴラールは悟る。

「ついこの前、サーヴィッ国を皮切りに、それなりの数の国が、自国の魔瘴の封印結界がものの見事に消え去っていたことを表明したのは、よく知っているだろ?」
「ええ」

 マーキスの断定とも取れる指摘に、エヴラールは苦笑して同意した。
 同時に、リースは今ここに不在であることで救われたことを、エヴラールはつくづく思う。もしこの場にリースがいたら、この前彼女自身でやらかしたことの後悔に苛まれ、またくよくよと立ち直れそうになくなっていたに違いないのだから。
 リースはサーヴィッ国で、それほどの大失態を犯していた。

「隠居した身にも、風の噂で、魔瘴を消す手段を持つ者が現れたのではないかと耳に入って来た。私自身、それが完全に流言だとは思えなくてな。信じてみる価値があるとの予感がよぎった。それで、我が国の魔瘴の封印結界の現状を把握しようとしたら、この状況を知ったというわけだ」
「そうだったのですね。ですが、どうしてあのような噂を流したのですか? 危険な賭けでもあったはずです」

 エヴラールは引っかかっていた疑問を口にする。
 それに対して、マーキスは平静を保ち答えを明かした。

「そうだな。まずは、魔瘴の封印結界を掘り起こすのが、思いの外難航したことが一つ。他国の魔瘴の封印結界を秘密裏に消滅していっている者であれば、中々の強運の持ち主なのではないかと推測はできた。まあ、なんだ。我々も楽ができるならそれに越したことはない。見つけてもらえるなら、見つけてもらおうと思ったわけだよ。情けない話だがな」
「そうでしたか」
「あとは、やはり自分の目で確かめたかったからだ。名乗りもせず姿も現さず、こっそり魔瘴を消して回る親切な存在が如何なるものか、見極めたい想いは消せなかった。私だって、好奇心くらいあるさ」

 照れて子どもっぽく笑うマーキスに、エヴラールは静かに頷く。

「また、エヴラールが懸念していた危険性はこちらで必ず防ぐつもりだった。そのための彼ら精鋭部隊さ」
「それは納得いたしました。先ほども迫真の演技でしたから。彼女の前で無用な殺生をせずにいていただき、感謝しております」
 
 エヴラールは軽く会釈し、礼を尽くす。
 マーキスとエヴラールに認められた彼らは、各々静かに二人の気持ちを受け取った。
 
「もしかしたら、中には演技ではなく、本気でエリチョクと妖精たちに手も足も出なかったものもいるかもしれんぞ」

 半ば冗談、半ば本気でかっかと笑うマーキス。
 それには、彼の部下数人がとほほといった表情になった。

「また、彼女の血のつながった家族を明かさずにいていただいたこと、誠にありがとうございます」
「それなんだが・・・・・・。どうして、彼女がヤナギの孫だと伏せられているのだ?」

 先ほどの種族の話の際、マーキスはリースに、自身がリースの祖父と面識があることを、それとなくほのめかした。
 にもかかわらず、リースはとんとそれに気づかなかった。それどころか、リースは彼女自身の祖父が誰であるか、全く知らない様子を示したのである。
 その際、実をいえばマーキスは内心面食らっていた。
 今とて戸惑いの表情を、マーキスは浮かべている。

「話せば長くなります。実は、彼女は老師だけでなく、血のつながった身内を誰一人知らないままなのです」

 眉を八の字にしてエヴラールが告げた内容に、マーキスだけでなく、彼の部下たちも驚きを隠せなかった。

「それは一体どういうことだ? 長くともいいから話して聞かせてくれ」
「承知しました」
 
 前のめり気味に真相を知りたがるマーキスに、エヴラールは即座に了承する。
 リース不在の中、彼女の知りたくもない事実が、エヴラールによって語られていった。
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