65 / 69
見聞録
嘘つきさんは甘い蜜を吸っていたい ⑭
しおりを挟む
トリクシーやホラッパたちの次の行き先は、早々に決定する。
前々から訪問を予定していた国へ、トリクシーたちは護衛と共に赴いていた。
これが、偽物の聖女に成りすましているトリクシーの、最後の浄化訪問となる。
トリクシーはこの先の未来を想像し、心の中では緊張していた。自然と口数も減る。
「聖女様、お疲れではございませんか?」
「大丈夫です。いつも気遣ってくれてありがとう」
声をかけてきたホラッパに、トリクシーは努めて優しくほほ笑み返した。
「いえいえ、当然のこと、です」
段々と消え入りそうな声量で、ホラッパは視線を彷徨わせる。
大型客船で訪問国に到着するなり、港で待機していた国の使者たちと合流。
使者たちの案内に従い、トリクシーたちはそのまま目的地へ向かっている。その際、港町の住人たちからそれなりに歓迎されたものだ。
いつもであれば、港町に留まるなり、民との交流を図る。たっぷり休憩を取り、誰かから盛大なもてなしを受けただろう。様々な物品を貢がれたはずだ。
しかし、今回に限ってはそれがなかった。正確には、国の使者たちによって、それが阻まれた。
欲をてんで満たせなかったホラッパたちとしては、やはり面白くないらしい。
長い距離をひたすら歩くことを嫌がるホラッパは、陸地に足をつけてからずっと歩きっぱなしでいることが、特に我慢できないようだった。事あるごとに、トリクシーに休憩しないか促してくる。その度、トリクシーはホラッパの訴えをやんわりと退けた。
トリクシーたちが現在いるのは、森の中。
冬とあって、殺風景かといったら、そうでもない。
深みのある緑の葉がついた木や草が目につく。
森の中を流れる小川からは、心地よいせせらぎの音。小川の周囲の岩や石は苔むしており、ささやかな風情がある。
訪問国では、真冬でも滅多に降雪がない。そんな気候故の、自然風景が広がっていた。
「あと十分ほどで目的地へ到着しますが、ご休憩なさいますか?」
先導していたきつね目の使者が、トリクシーたちに振り返る。
喜びを見出した顔でホラッパが口を開いた途端、雷鳴が轟いた。
耳をつんざくような大音量に、国の使者とトリクシー以外はみな仰天する。
「何やら雲行きが怪しくなってまいりましたね。先を急いだ方がよろしいと思いますが、それでもこちらで少し休まれますか?」
きつね顔の使者は糸目と口で微笑を演出しながら、再度確認した。
使者とトリクシー以外は、曇り空を見上げて不安そうな表情に変わっていく。
わずかに目を細めつつ、トリクシーが使者に目を向けた。
「いいえ。果たすべきことを早く済ませなければなりません。雲行きが怪しいなら尚更、みなさんのためにも先を急ぎます」
「かしこまりました」
トリクシーの返事に、使者たちは揃いも揃って満足そうな顔をする。
それには今まで平然を保っていたトリクシーも、内心カチンときた。しかし、それを決して表情には出さない。今は何よりも無事目的地へ到着することが優先だ。
一行は再び歩き始める。
先ほどの雷鳴もあってか、ホラッパは休憩する意欲がごっそり消えたようだ。黙りこくって足を動かしている。
森の中は、騒々しくない。
けれども、騒がしい音がトリクシーたちの耳に届けられていないだけで、実際には騒々しい状況になっている。
そのことを知っているのは、トリクシーと使者たちだけだ。
トリクシーを亡き者にしようと躍起になっている連中が、森のどこかで次々と倒され、捕縛されている。
先ほどの雷鳴も、自然現象ではない。
遠くにいるとあるモンスター四匹が、悪者たちに容赦なく雷撃を見舞ったのだ。
そんな騒然・殺伐とした状況を知りながら、どうして呑気に休憩など取れよう。
トリクシーが心の中で使者に恨み言を放ったのも無理はない。
先ほどの使者の発言は、トリクシーにとって皮肉でしかなかった。これから迫る大詰めへのプレッシャーを軽減するためのちょっとした冗談だったとしても、悪趣味だ。
苛立ちをどうにか抑え込めば、今度は緊張がトリクシーを占領する。
失敗は絶対に許されない。
トリクシーは小さく息を吸って吐き出した。頭の中でもう一度計画を思い出し、背筋を伸ばす。
「到着いたしました」
事務的に告げた使者に、トリクシーは一瞥もしない。真っ直ぐ見つめるは、使者たちのいる場所の奥。
木々や草が生えていない土肌のエリア、そこが目的地だった。
目的地の中央には、地面に埋め込まれたような歪な黒い物体がある。地面から突き出している部分は、縦も横も五メートルほどありそうだ。
黒い鉱物のようなそれは、魔瘴を封印したものである。
魔瘴は、かつて世界を混沌に陥れた負の存在。その禍々しさを表現するかのように、黒い塊の内部で黒々とした煙のようなものが蠢いていた。
「それでは、穢れを払います」
よく通る声で言うと、トリクシーはいつものように単身で魔瘴の封印結界へ近づく。
後戻りは、もうできない。
偽物の聖女としての役目を全うすべく、真剣な表情で一歩一歩踏みしめていった。
前々から訪問を予定していた国へ、トリクシーたちは護衛と共に赴いていた。
これが、偽物の聖女に成りすましているトリクシーの、最後の浄化訪問となる。
トリクシーはこの先の未来を想像し、心の中では緊張していた。自然と口数も減る。
「聖女様、お疲れではございませんか?」
「大丈夫です。いつも気遣ってくれてありがとう」
声をかけてきたホラッパに、トリクシーは努めて優しくほほ笑み返した。
「いえいえ、当然のこと、です」
段々と消え入りそうな声量で、ホラッパは視線を彷徨わせる。
大型客船で訪問国に到着するなり、港で待機していた国の使者たちと合流。
使者たちの案内に従い、トリクシーたちはそのまま目的地へ向かっている。その際、港町の住人たちからそれなりに歓迎されたものだ。
いつもであれば、港町に留まるなり、民との交流を図る。たっぷり休憩を取り、誰かから盛大なもてなしを受けただろう。様々な物品を貢がれたはずだ。
しかし、今回に限ってはそれがなかった。正確には、国の使者たちによって、それが阻まれた。
欲をてんで満たせなかったホラッパたちとしては、やはり面白くないらしい。
長い距離をひたすら歩くことを嫌がるホラッパは、陸地に足をつけてからずっと歩きっぱなしでいることが、特に我慢できないようだった。事あるごとに、トリクシーに休憩しないか促してくる。その度、トリクシーはホラッパの訴えをやんわりと退けた。
トリクシーたちが現在いるのは、森の中。
冬とあって、殺風景かといったら、そうでもない。
深みのある緑の葉がついた木や草が目につく。
森の中を流れる小川からは、心地よいせせらぎの音。小川の周囲の岩や石は苔むしており、ささやかな風情がある。
訪問国では、真冬でも滅多に降雪がない。そんな気候故の、自然風景が広がっていた。
「あと十分ほどで目的地へ到着しますが、ご休憩なさいますか?」
先導していたきつね目の使者が、トリクシーたちに振り返る。
喜びを見出した顔でホラッパが口を開いた途端、雷鳴が轟いた。
耳をつんざくような大音量に、国の使者とトリクシー以外はみな仰天する。
「何やら雲行きが怪しくなってまいりましたね。先を急いだ方がよろしいと思いますが、それでもこちらで少し休まれますか?」
きつね顔の使者は糸目と口で微笑を演出しながら、再度確認した。
使者とトリクシー以外は、曇り空を見上げて不安そうな表情に変わっていく。
わずかに目を細めつつ、トリクシーが使者に目を向けた。
「いいえ。果たすべきことを早く済ませなければなりません。雲行きが怪しいなら尚更、みなさんのためにも先を急ぎます」
「かしこまりました」
トリクシーの返事に、使者たちは揃いも揃って満足そうな顔をする。
それには今まで平然を保っていたトリクシーも、内心カチンときた。しかし、それを決して表情には出さない。今は何よりも無事目的地へ到着することが優先だ。
一行は再び歩き始める。
先ほどの雷鳴もあってか、ホラッパは休憩する意欲がごっそり消えたようだ。黙りこくって足を動かしている。
森の中は、騒々しくない。
けれども、騒がしい音がトリクシーたちの耳に届けられていないだけで、実際には騒々しい状況になっている。
そのことを知っているのは、トリクシーと使者たちだけだ。
トリクシーを亡き者にしようと躍起になっている連中が、森のどこかで次々と倒され、捕縛されている。
先ほどの雷鳴も、自然現象ではない。
遠くにいるとあるモンスター四匹が、悪者たちに容赦なく雷撃を見舞ったのだ。
そんな騒然・殺伐とした状況を知りながら、どうして呑気に休憩など取れよう。
トリクシーが心の中で使者に恨み言を放ったのも無理はない。
先ほどの使者の発言は、トリクシーにとって皮肉でしかなかった。これから迫る大詰めへのプレッシャーを軽減するためのちょっとした冗談だったとしても、悪趣味だ。
苛立ちをどうにか抑え込めば、今度は緊張がトリクシーを占領する。
失敗は絶対に許されない。
トリクシーは小さく息を吸って吐き出した。頭の中でもう一度計画を思い出し、背筋を伸ばす。
「到着いたしました」
事務的に告げた使者に、トリクシーは一瞥もしない。真っ直ぐ見つめるは、使者たちのいる場所の奥。
木々や草が生えていない土肌のエリア、そこが目的地だった。
目的地の中央には、地面に埋め込まれたような歪な黒い物体がある。地面から突き出している部分は、縦も横も五メートルほどありそうだ。
黒い鉱物のようなそれは、魔瘴を封印したものである。
魔瘴は、かつて世界を混沌に陥れた負の存在。その禍々しさを表現するかのように、黒い塊の内部で黒々とした煙のようなものが蠢いていた。
「それでは、穢れを払います」
よく通る声で言うと、トリクシーはいつものように単身で魔瘴の封印結界へ近づく。
後戻りは、もうできない。
偽物の聖女としての役目を全うすべく、真剣な表情で一歩一歩踏みしめていった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる