続・思わぬ収穫? ~見聞録~

七月 優

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見聞録

嘘つきさんは甘い蜜を吸っていたい ⑭

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 トリクシーやホラッパたちの次の行き先は、早々に決定する。
 前々から訪問を予定していた国へ、トリクシーたちは護衛と共に赴いていた。
 これが、偽物の聖女に成りすましているトリクシーの、最後の浄化訪問・・・・となる。

 トリクシーはこの先の未来を想像し、心の中では緊張していた。自然と口数も減る。

「聖女様、お疲れではございませんか?」
「大丈夫です。いつも気遣ってくれてありがとう」

 声をかけてきたホラッパに、トリクシーは努めて優しくほほ笑み返した。

「いえいえ、当然のこと、です」

 段々と消え入りそうな声量で、ホラッパは視線を彷徨わせる。

 大型客船で訪問国に到着するなり、港で待機していた国の使者たちと合流。
 使者たちの案内に従い、トリクシーたちはそのまま目的地へ向かっている。その際、港町の住人たちからそれなりに歓迎されたものだ。
 いつもであれば、港町に留まるなり、民との交流を図る。たっぷり休憩を取り、誰かから盛大なもてなしを受けただろう。様々な物品を貢がれたはずだ。

 しかし、今回に限ってはそれがなかった。正確には、国の使者たちによって、それが阻まれた。
 欲をてんで満たせなかったホラッパたちとしては、やはり面白くないらしい。
 長い距離をひたすら歩くことを嫌がるホラッパは、陸地に足をつけてからずっと歩きっぱなしでいることが、特に我慢できないようだった。事あるごとに、トリクシーに休憩しないか促してくる。その度、トリクシーはホラッパの訴えをやんわりと退けた。

 トリクシーたちが現在いるのは、森の中。
 冬とあって、殺風景かといったら、そうでもない。
 深みのある緑の葉がついた木や草が目につく。
 森の中を流れる小川からは、心地よいせせらぎの音。小川の周囲の岩や石は苔むしており、ささやかな風情がある。
 訪問国では、真冬でも滅多に降雪がない。そんな気候故の、自然風景が広がっていた。

「あと十分ほどで目的地へ到着しますが、ご休憩なさいますか?」

 先導していたきつね目の使者が、トリクシーたちに振り返る。
 喜びを見出した顔でホラッパが口を開いた途端、雷鳴が轟いた。
 耳をつんざくような大音量に、国の使者とトリクシー以外はみな仰天する。

「何やら雲行きが怪しくなってまいりましたね。先を急いだ方がよろしいと思いますが、それでもこちらで少し休まれますか?」

 きつね顔の使者は糸目と口で微笑を演出しながら、再度確認した。
 使者とトリクシー以外は、曇り空を見上げて不安そうな表情に変わっていく。
 わずかに目を細めつつ、トリクシーが使者に目を向けた。

「いいえ。果たすべきことを早く済ませなければなりません。雲行きが怪しいなら尚更、みなさんのためにも先を急ぎます」
「かしこまりました」

 トリクシーの返事に、使者たちは揃いも揃って満足そうな顔をする。
 それには今まで平然を保っていたトリクシーも、内心カチンときた。しかし、それを決して表情には出さない。今は何よりも無事目的地へ到着することが優先だ。

 一行は再び歩き始める。
 先ほどの雷鳴もあってか、ホラッパは休憩する意欲がごっそり消えたようだ。黙りこくって足を動かしている。

 森の中は、騒々しくない。
 けれども、騒がしい音がトリクシーたちの耳に届けられていないだけで、実際には騒々しい状況になっている。
 そのことを知っているのは、トリクシーと使者たちだけだ。
 トリクシーを亡き者にしようと躍起になっている連中が、森のどこかで次々と倒され、捕縛されている。
 先ほどの雷鳴も、自然現象ではない。
 遠くにいるとあるモンスター四匹が、悪者たちに容赦なく雷撃を見舞ったのだ。

 そんな騒然・殺伐とした状況を知りながら、どうして呑気に休憩など取れよう。
 トリクシーが心の中で使者に恨み言を放ったのも無理はない。
 先ほどの使者の発言は、トリクシーにとって皮肉でしかなかった。これから迫る大詰めへのプレッシャーを軽減するためのちょっとした冗談だったとしても、悪趣味だ。

 苛立ちをどうにか抑え込めば、今度は緊張がトリクシーを占領する。
 失敗は絶対に許されない。
 トリクシーは小さく息を吸って吐き出した。頭の中でもう一度計画を思い出し、背筋を伸ばす。

「到着いたしました」

 事務的に告げた使者に、トリクシーは一瞥もしない。真っ直ぐ見つめるは、使者たちのいる場所の奥。
 木々や草が生えていない土肌のエリア、そこが目的地だった。

 目的地の中央には、地面に埋め込まれたような歪な黒い物体がある。地面から突き出している部分は、縦も横も五メートルほどありそうだ。
 黒い鉱物のようなそれは、魔瘴を封印したものである。
 魔瘴は、かつて世界を混沌に陥れた負の存在。その禍々しさを表現するかのように、黒い塊の内部で黒々とした煙のようなものが蠢いていた。

「それでは、穢れを払います」

 よく通る声で言うと、トリクシーはいつものように単身で魔瘴の封印結界へ近づく。
 後戻りは、もうできない。
 偽物の聖女としての役目を全うすべく、真剣な表情で一歩一歩踏みしめていった。
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