3 / 52
魔法使いの同居人
3話
しおりを挟む
図書館がある北校舎と生徒用昇降口がある南校舎とは、渡り廊下で繋がっている。
日中は教室移動の生徒たちでそれなりに交通量は多いが、放課後にもなると人影はまばらだった。
バックの中には図書館で見繕ったジャンルの異なる三冊の本が入っている。選考基準は涼川さんの意見を参考にして、どれもドラマや映画の原作となった話題作ばかりだ。
渡り廊下の窓からは夕陽が差し込んでいる。夕方とは思えない明るさだ。窓枠の向こうには校庭があり、白いユニフォーム姿の野球部員が白球を追っている。金属バットに球が当たる甲高い音が聞こえた。
その音に交じって、背後から足音が迫ってきた。足音の感覚から追ってきた人物が小柄であることがわかる。
「千花くん!」
振り向くと小さな肩を上下に揺らし、息を切らした雨森比奈がいた。
同級生である彼女だが、ピンクのリボンで結ばれたツインテールと背の低さが相まって年下のような幼さがあった。フレームの厚い眼鏡も子供が大人びようと背伸びをしているようにしか見えない。
首からデジタルカメラを下げ、手にはアルパカのキャラクターが印刷された手帳を持っている。
中学時代は同じクラスだった雨森さんとは、高校生になってからも会えば立ち話をする程度の関係が続いていた。
「これからおかえりかな?」
「そうだよ」
答えた後で、眼鏡越しの雨森さんの瞳が爛々と輝いていることに気づく。何か話したいことがあるみたいだ。
「雨森さんは何しているの?」
待ってましたと言わんばかりに目を見開くと、雨森さんは両手でカメラを前にかざした。
「新聞部の取材だよ!」
「『新聞部』って、まだ正式な部活動として認められたわけじゃないんでしょ?」
「そうなんだよね。部として認定されるには最低でも三人の部員が必要みたいでさ。あと一人足りないんだよ」
「新聞部、二人になったんだ?」
「うん。あたしと千花くん」
やはりな、と僕は心の中で頭を抱える。
「いつ僕が新聞部員になったのさ」
「うーん、新聞部を立ち上がったときかな」
「本人に自覚がないんだけど」
僕の抗議に、やれやれと言わんばかりに雨森さんは肩をすくめる。
「新聞部とそれ以外の人間の違いは知ってる?」
「新聞を書くか書かないかじゃない?」
「違うよ。ジャーナリスト魂を持っていれば誰しも新聞部なのさ。つまり魂を持っている千花くんはすでに立派な新聞部ってわけ」
「そんなもの持った覚えはないよ」
「職員室の奥にある用途の不明な小部屋。あの部屋に何があるのか気になったことはないかな?」
「ないね」
「毎日のように校内に出没する犬。あの子がん何故この学校に来ているのか知りたくはないかな?」
「ないね」
「それはね、君の中に流れるジャーナリストの血が騒いでいるからなんだよ」
「人の話を聞かない人間でもジャーナリストを名乗っていいものなの?」
最近は雨森さんに会うたびに勧誘を受けている。孤軍奮闘する雨森さんを応援したい気持ちはあるけれども、興味のない部活に入ってあげるほどではない。ぜひとも僕を巻き込まない形で夢を叶えてほしい。
「以前も話したけど、生徒会の副会長をしながら部活動に参加するのは難しいよ。それに僕らは受験生なわけで、今さら部活動を立ち上げる時間はないと思うけど」
「だって、やりたくなっちゃったんだもん」
雨森さんはそっぽ向く。拗ね方まで子供じみている。
「名前を貸すだけなら考えてみるからさ。とりあえず最後の一人が集まったらまた連絡してよ」
僕が精一杯の譲歩を見せると、満面の笑みに変わる。
「ほんと⁉ 約束だからね」
「考えてみるだけだから。過度な期待はしないように」
念を押したつもりだったが、都合の悪いことは聞こえていないようだった。「がんばるぞ」や「忙しくなるな」などと独り言を呟いている。
「何か、部員を集める策はあるわけ?」
僕の問いかけに雨森さんは得意げに胸を張ると、「新聞部の名を学校中に知らしめる画期的なアイディアを思い付いたの」と答えた。
「へー、どんな?」
「噂の人形遣いの正体を暴くんだよ。それを記事にすれば、学校中の人が新聞部の活動にくぎ付けになること間違いなし」
「確かに宣伝効果は抜群だろうけどさ」
「人形遣いなんて実在すると思ってるの?」と続けようと思ったが、真剣な目をする雨森さんに水を差すこともないかと思い直す。
「まあ、頑張ってよ」
「千花くんのためにも頑張るから。新聞部の活躍を乞うご期待!」
そう言うと、手をぶんぶんと振りながら走り去ってしまった。廊下には嵐が過ぎ去ったような静けさが戻っていた。
きっと雨森さんはうじうじと悩んだりしたことないんだろうな。羨ましい気持ちで、駆けていく雨森さんの背中を見えなくなるまで見つめていた。
日中は教室移動の生徒たちでそれなりに交通量は多いが、放課後にもなると人影はまばらだった。
バックの中には図書館で見繕ったジャンルの異なる三冊の本が入っている。選考基準は涼川さんの意見を参考にして、どれもドラマや映画の原作となった話題作ばかりだ。
渡り廊下の窓からは夕陽が差し込んでいる。夕方とは思えない明るさだ。窓枠の向こうには校庭があり、白いユニフォーム姿の野球部員が白球を追っている。金属バットに球が当たる甲高い音が聞こえた。
その音に交じって、背後から足音が迫ってきた。足音の感覚から追ってきた人物が小柄であることがわかる。
「千花くん!」
振り向くと小さな肩を上下に揺らし、息を切らした雨森比奈がいた。
同級生である彼女だが、ピンクのリボンで結ばれたツインテールと背の低さが相まって年下のような幼さがあった。フレームの厚い眼鏡も子供が大人びようと背伸びをしているようにしか見えない。
首からデジタルカメラを下げ、手にはアルパカのキャラクターが印刷された手帳を持っている。
中学時代は同じクラスだった雨森さんとは、高校生になってからも会えば立ち話をする程度の関係が続いていた。
「これからおかえりかな?」
「そうだよ」
答えた後で、眼鏡越しの雨森さんの瞳が爛々と輝いていることに気づく。何か話したいことがあるみたいだ。
「雨森さんは何しているの?」
待ってましたと言わんばかりに目を見開くと、雨森さんは両手でカメラを前にかざした。
「新聞部の取材だよ!」
「『新聞部』って、まだ正式な部活動として認められたわけじゃないんでしょ?」
「そうなんだよね。部として認定されるには最低でも三人の部員が必要みたいでさ。あと一人足りないんだよ」
「新聞部、二人になったんだ?」
「うん。あたしと千花くん」
やはりな、と僕は心の中で頭を抱える。
「いつ僕が新聞部員になったのさ」
「うーん、新聞部を立ち上がったときかな」
「本人に自覚がないんだけど」
僕の抗議に、やれやれと言わんばかりに雨森さんは肩をすくめる。
「新聞部とそれ以外の人間の違いは知ってる?」
「新聞を書くか書かないかじゃない?」
「違うよ。ジャーナリスト魂を持っていれば誰しも新聞部なのさ。つまり魂を持っている千花くんはすでに立派な新聞部ってわけ」
「そんなもの持った覚えはないよ」
「職員室の奥にある用途の不明な小部屋。あの部屋に何があるのか気になったことはないかな?」
「ないね」
「毎日のように校内に出没する犬。あの子がん何故この学校に来ているのか知りたくはないかな?」
「ないね」
「それはね、君の中に流れるジャーナリストの血が騒いでいるからなんだよ」
「人の話を聞かない人間でもジャーナリストを名乗っていいものなの?」
最近は雨森さんに会うたびに勧誘を受けている。孤軍奮闘する雨森さんを応援したい気持ちはあるけれども、興味のない部活に入ってあげるほどではない。ぜひとも僕を巻き込まない形で夢を叶えてほしい。
「以前も話したけど、生徒会の副会長をしながら部活動に参加するのは難しいよ。それに僕らは受験生なわけで、今さら部活動を立ち上げる時間はないと思うけど」
「だって、やりたくなっちゃったんだもん」
雨森さんはそっぽ向く。拗ね方まで子供じみている。
「名前を貸すだけなら考えてみるからさ。とりあえず最後の一人が集まったらまた連絡してよ」
僕が精一杯の譲歩を見せると、満面の笑みに変わる。
「ほんと⁉ 約束だからね」
「考えてみるだけだから。過度な期待はしないように」
念を押したつもりだったが、都合の悪いことは聞こえていないようだった。「がんばるぞ」や「忙しくなるな」などと独り言を呟いている。
「何か、部員を集める策はあるわけ?」
僕の問いかけに雨森さんは得意げに胸を張ると、「新聞部の名を学校中に知らしめる画期的なアイディアを思い付いたの」と答えた。
「へー、どんな?」
「噂の人形遣いの正体を暴くんだよ。それを記事にすれば、学校中の人が新聞部の活動にくぎ付けになること間違いなし」
「確かに宣伝効果は抜群だろうけどさ」
「人形遣いなんて実在すると思ってるの?」と続けようと思ったが、真剣な目をする雨森さんに水を差すこともないかと思い直す。
「まあ、頑張ってよ」
「千花くんのためにも頑張るから。新聞部の活躍を乞うご期待!」
そう言うと、手をぶんぶんと振りながら走り去ってしまった。廊下には嵐が過ぎ去ったような静けさが戻っていた。
きっと雨森さんはうじうじと悩んだりしたことないんだろうな。羨ましい気持ちで、駆けていく雨森さんの背中を見えなくなるまで見つめていた。
0
あなたにおすすめの小説
クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる
グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。
彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。
だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。
容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。
「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」
そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。
これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、
高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。
甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。
平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは──
学園一の美少女・黒瀬葵。
なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。
冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。
最初はただの勘違いだったはずの関係。
けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。
ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、
焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
黒に染まった華を摘む
馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。
高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。
「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」
そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。
彼女の名は、立石麻美。
昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。
この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。
その日の放課後。
明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。
塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。
そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。
すべてに触れたとき、
明希は何を守り、何を選ぶのか。
光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。
隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが
akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。
毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。
そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。
数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。
平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、
幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。
笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。
気づけば心を奪われる――
幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!
怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う
もぐのすけ
青春
神童と言われた天才サッカー少年は中学時代、日本クラブユースサッカー選手権、高円宮杯においてクラブを二連覇させる大活躍を見せた。
将来はプロ確実と言われていた彼だったが中学3年のクラブユース選手権の予選において、選手生命が絶たれる程の大怪我を負ってしまう。
サッカーが出来なくなることで激しく落ち込む彼だったが、幼馴染の手助けを得て立ち上がり、高校生活という新しい未来に向かって歩き出す。
そんな中、高校で中学時代の高坂修斗を知る人達がここぞとばかりに部活や生徒会へ勧誘し始める。
サッカーを辞めても一部の人からは依然として評価の高い彼と、人気な彼の姿にヤキモキする幼馴染、それを取り巻く友人達との刺激的な高校生活が始まる。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる