魔法使いの同居人

たむら

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この中に魔女がいる

12話

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 押し殺すようにゆっくりとドアが開く音が、静まり返った夜の空気を揺らした。神経を集中させていなかったら聞き逃してしまっただろう。

 誰かが部屋の中に入ってきた。

 心拍数が上がり、吐き出す息が熱を帯びている。
 気を抜けば呼吸音が侵入者に聞かれてしまいそうだ。

 室内に入って来た人物は慎重に部屋の中を横切る。俺はクローゼットの隙間からその様子を窺っていた。

 暗闇の中、その人物のシルエットがかろうじて確認できた。呼吸の乱れも動きのぎこちなさもない。人を殺しに来たとは思えないほど、その人物は落ち着き払っている。

 タイミングを逃したら返り討ちにあう可能性が高い。
 俺ははやる気持ちを抑えてその瞬間を待った。

 侵入者はベッドの前で立ち止まった。ベッドの上で布団から覗く頭部に狙いを定め、澱みのない動きで片手を掲げた。手には刃物と思われる鋭利な物が握られている。

 その人物がベッドに横たわる獲物に全神経を集中させた瞬間、俺はクローゼットから飛び出した。そのままの勢いで侵入者へタックルする。派手な音を立てて俺と侵入者は床に共倒れになる。

 何か固いものが室内を転がる音がした。侵入者の持っていた凶器に違いない。

 暗闇の中で受け身が取れず、肩から床にぶつかる。痛みが走るが、侵入者を掴んだ腕は離さないよう、腕に力を込める。このまま拘束できなけなければこちらに勝利はない。自分がどんな体制になっているかもわからない中、必死にしがみついた。

 腹部に強烈な痛みが走った。肺の空気がうめき声となって口から漏れ出す。息苦しさから咳きこんでいると、右肩に岩で殴られたような衝撃がやってきた。蹴られたのだと気づくのに数秒の間が空いた。

 その隙に侵入者が体勢を整えているのがわかり、俺はとっさに後ずさり、侵入者との距離を取る。慌てて立ち上がると、同じように立ち上がった侵入者と向かい合う形になった。暗闇のせいで相手の表情が見えない。互いに相手の動きを警戒し見つめ合う時間が続いた。

 俺は相手に気を配りつつ、自分がいる位置を確かめる。侵入者の背後に、開いたままの扉が見えた。ドアと俺との間に侵入者が立っている形だ。これでは逃げることも容易じゃない。

 相手は身じろぎ一つせず、こちらの様子を窺っている。こういう状況に慣れているようだった。長期戦になろうと構わないという圧力を感じる。

 長引くほど経験の少ない俺の方が不利になる。
 状況を変えるため、意を決して相手に問いかけた。

「あなたが犯人だったんですね」

 俺の言葉にも一切反応しない。それでも俺は口を止めない。

「みんなを殺したのはあなただったんですね、灰谷さん」

 数秒の間を空けて暗闇から低い声が返ってきた。

「いかにも、私だ」
「どうしてこんなことをするんですか?」
「言っただろう。俺の目的は魔女をこの世から消し去ることだ。お前たちの中に魔女がいるというのであれば、それが誰であれ、全員殺してしまえば問題は解決する」
「だったら最初の晩に全員殺してしまえばよかったじゃないですか。一晩に一人ずつ、東館の出口に近い部屋にいる人から順に殺していく理由はなんですか?」
「チャンスを与えていたにすぎない。俺としては魔女さえ殺せれば、それ以外の人間まで手をかける必要はないからな。一人ずつ処理していく中でお前たちが魔女を見つけ出せたのならそれに越したことはないというだけの話だ」
「そうですか」

 どうしてそこまで魔女を憎むのだろうか。そんな疑問が俺の脳内を巡った。しかし頭を振ってその疑問をかき消す。いまはそんなことを考えていられる場合じゃない。

「最後に尋ねる。魔女が誰だかわかったか?」

 俺の脳裏に夜子の顔が浮かんだ。彼女が魔女だと告発すれば俺は助かるかもしれない。けれど犠牲者を増やさないために俺は灰谷と対峙することに決めたのだ。彼女を売るつもりなら最初からそうしていた。

「中世のヨーロッパにでもタイムトラベルできれば会えるんじゃないですかね?」
「そうか。それでは当初の計画どおりに任務を遂行させてもらう」

 灰谷が腰を屈め、臨戦態勢に入った。まずい、と思いながらもどう対処すべきなのかがわからず身体が硬直する。逃げ出そうにも灰谷を突破しなくてはそれも叶わない。

 灰谷が迷いなく前進してくる。俺は攻撃から頭部を守るべく両手を顔の前で構えた。

 そのときだった。半開きだった入口の扉が大きな音を立てて開け放たれた。

「ちょっと待った!」

 夜子の声が室内に響いた。
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