ー魔王が倒された後の世界で転生した引きこもりニート、仲間からも裏切られ追放されるが成功失敗を繰り返しながら努力で成り上がりたいと思いますー

灰色の鼠

文字の大きさ
1 / 2

プロローグ

しおりを挟む


 そこは白い部屋だった。
 天井も、床も、なにもかもが白。
 目がおかしくなるほどの純白空間だ。

 真ん中にはちゃぶ台があった。
 周りが白いのに、それだけは何故だか木質を失わせない色のままである。

「………この紙は?」

 ちゃぶ台には置き手紙があった。
 表には〇〇と俺宛の名前が書かれていた。

 中身を確認する。
 綺麗な文字で書かれている内容を読む。

『————』

 紙を封筒に戻す。
 内容は、見覚えのあるものだった。
 読むだけですべてを悟った。

 周囲をまた見渡す。
 すると、無かったはずの場所に扉が突然現れた。

 なんの躊躇いもなくドアノブを回す。
 そして扉を開き、白い部屋の外へと出た。


 そこは異世界だった。






 ————




 俺の人生は、田舎村の赤ん坊から始まった。
 名前は『キュリム・アランソン』
 四つん這い歩きしか出来ない赤ん坊である。

 前世は25歳のニート。
 金持ち一家で親のスネをかじる生活をした結果、追い出されてしまった。
 そのまま途方にくれていたら車に轢かれて死んだ。

「あー、あー!」

 家はとある王国の辺境にあった。
 両親、二人とも元はベテラン冒険者。
 母親はまだ子供っぽい見た目だ。
 たぶん、父はロリコンなので目をつけたのだろう。
 だけど成人なんて遥か前の話らしいので、うちの母親はいわば合法ロリなのだ。

「俺らの息子も、将来は冒険者だな」

 父は俺を膝の上に乗せながら言う。
 おいおい、将来冒険者って危険極まりないか。

 日本人と比べたら、中世ヨーロッパに限らず海外は家族をなにより大切にする習慣があるって聞く。
 なので子離れ、親離れをせず同居することが多いっていうのに早々に旅立たせるのかよ。

「そうね、私たちの息子だもん。きっと立派な冒険者になって帰ってくるわ」

 母も同意の様子だ。
 不安だ、冒険者になりたいわけではないし出来れば楽に生きていきたい。
 異世界なら魔物と戦うんだよな。
 痛いのはヤダな。

 今のうちに鍛えとくべきか。
 そうすれば良いラインまで行ける気がする。
 前世はなにかある度に挫折してあきらめてきていたが、今回はスケールが全くの別物。
 死ぬのが、あまりにも安易な世界なのだ。


 ―――



 一年後、冬。
 家は二階建てで敷地が広い方。
 庭には気が生えており枝にブランコが繋がれていた。
 父が調子にでものって作ってくれたのだろう。

 窓の外では雪かきをする父がいた。
 度々、家を通過する人と仲良さげに挨拶している。
 さてはこの村の人気者だな、このこの。

 冗談はさておき、父や母は本当に人気者である。
 どんな仕事をいまやっているのかは分からないが。
 夜になると、たまに父は剣のような武器を手に持ってから家の外で待っている大勢の男たちと何処かにいってしまったりする。

 返ってくる時はいつもボロボロだ。
 まるで何かと戦ってきたような負傷を受けて朝、帰宅してくるのだ。
 心配そうにしていた母とキスをしてから、父は俺を見て泣きそうな顔をしながら抱きしめてくれる。
 父の体はたまに鉄臭い。
 なにをしてきたのかは大体想像できる。

 村のために、家族のために戦ってきたのだ。
 妻がいるというのに、子供が産まれてきたのに戦い続けているのだ。
 人を疑ってばかりの俺は、初めて人に尊敬の感情を抱いた。

 かっこいい。
 ある程度大きくなったら父に剣を教えてもらおう。
 将来の目標はイケメン剣士だ!


 と張り切ったものの魔法にも興味を持つようになった。
 たまに家に訪ねてくる若そうな女性がいた。
 母の古き友人で魔術師らしい。

 迷うな……。
 そっちもかっこいいし、どっちの職業にもなりたい。


 あれから三年後。
 四歳になった。
 誕生日には剣を貰った。
 やはり剣士こそ男のロマン。


 ―――



 庭にあるブランコに座る。
 俺がまず、するべきことは情報収集だ。
 なんにも知らないまま、この世界で生きていくのはマズい。
 攻略サイトを見なければクリアできないクエストだってある。
 どれだけ凄腕のプロだろうと事前情報がなければ筋肉もただの肉塊である。

 前世、アプリゲームで遊んだ引っ張ってぶつけるゲームもそうだった。
 ましてやここは現実世界。
 死ねばコンティニューなんてものは無い。

 よって専念しなければならない。

 家の本棚から持ってきた本を手に取る。
 読み書きは母が教えてくれたおかげである程度は読めた。

 簡単な歴史本である。

 魔力を宿す『魔族』、魔力をまだ宿していなかった『人族』が分断された時代が始まり。
 魔族は『精霊大陸』を人族は『アズベル大陸』支配領域していた。
 人族は権力、資源をめぐって当たり前のように領土同士争い傷つけあっていた。
 比べて魔族は平和な種族である。
 獣人、小人、エルフ、龍、精霊、巨人、悪鬼《ゴブリン》等々。
 互いの領域には最低限の干渉を果たさない。
 そんなルールがあった。
 おかげで争い事は長年も起きていない。
 平和な大陸だ。

 そんな大陸に一人の白髪の少女が産まれた。
 母親が魔族、父親が人族である。
 そのせいで物心ついた時まで誰からも真に愛されたことがない。
 外を出歩くだけで白い目を向けられる。
 いじめられ、悪口を言われてしまう。
 ひどい話だ。

 しかし、あるキッカケで少女は誰からも差別を受けなくなったのだ。

 遠い世界。
 ここではない神の世界から女神が降りてきたのだ。それは少女に何でも願いが叶うという種を託すためである。

 少女の願い。
 それは世界が『白くて綺麗で、平和な未来』になること。
 種を大地に植え
 種は大陸の中央土地を覆うほどまでの大木に成長した。
『魔力』と呼ばれる物質を常に撒き散らしておりその範囲は海を越えるほどまでに至り、そのおかげで人族たちも魔力を身に宿すようになったという。

 成長した木は『精霊樹』と命名された。
 その管理者である少女はいつのまにか大陸全土の魔族に愛される存在となり『大賢者ミア』という愛称をつけられたとのことだ。
 少女の名は『ミア・ヴランシュ・アヴニール』である。

 そこからはページが千切られたように失くなっているため、続きが読めなくなっていた。

 これが人族の魔力の起源か。
 奥深いというか、御伽噺《おとぎばなし》のようだな。

 本を閉じて現実に戻る。
 絵本のように簡単な文ばかりだったな。
 さては子供向けの本だなこりゃ。

 ブランコから降りる。
 ちょうどその時、顔になにかが当たった。 

「ぶわっ!?」

 水々しい感覚に、へんな臭い。
 家の敷地の外を見ると子供の集団がいた。

 見るからに悪ガキの烏合の衆だ。
 リーダーらしき男の子の手には泥団子が握られていた。

 あ、転生して最初のイジメに遭ってしまった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです

忠行
ファンタジー
魔法使いが無双するファンタジー世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか忍術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです。むしろ前の世界よりもイケてる感じ?

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

処理中です...