無能の勇者の英雄譚 —世界に蔑まれた俺、契約した腹ペコ女神に《星々》を操る魔術を伝授したので成り上がってみせた—

灰色の鼠

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第4話 「腹ぺこ女神の召喚」

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「どうして父さんの所有物をアンタが持っているんだ? どういう関係なんだ?」

 老人に問い詰める。
 まさか、父と関連した人物と遭遇するだなんて思ってもいなかった。

「そうさな。このリグレル王国王都にある魔術学院グランシャリオン最上階教室の管理者アルフレッドとだけ名乗らせてもらおう」

 グランシャリオは、世界に一つしかない最高魔術学院。
 多くの魔術師が輩出されたそこは身分を問わず、実力や知識のある者だけが認められる競争場である。

 学院は塔のような構造になっており、最上階の教室にたどり着いた者は二十人もいないと言う。
 その教室を受け持つ者と直面できるだなんて、砂漠で宝石を見つけ出すと同等に稀だ。

「身分がどうあれ俺に関係はない。聞きたいことはどうして父さんの本をアンタが持っていることのみだ。まさか、事前に正体を知ってあの草原で俺を拾ったのか?」
「有名だからのぉ。嫌でも顔は覚えるし、友人の息子ならば尚更じゃよ。其方の父は未来を見据える魔眼を持っておる、このぐらいは予測はしていたのじゃろう」

 魔眼と聞き驚く。
 母に言われたことがないぞ、そんな代物まで使えるとはますます父の偉大さが身に染みてくる。

「儂に託したのだ。それは人々のためでもあるが、なにより息子を想って書き記した世界に一つしかない書物なのじゃ」
「どうして俺が、俺を蔑む奴らのために……」
「長年、儂は色々な勇者をこの目に見てきた。中には責務を全うしようとせず、大勢の者を死なせた奴もおった。しかし、其方は違う。まだ捨てきれない夢があるのじゃろう。違うかい?」

 こんな糞溜な世界のために勇者としての責務を全うする? 馬鹿馬鹿しい、たとえ名声を取り戻したところで俺を見捨てた奴らは掌返しをするに決まっている。

「……」

『私もネロの側に並べられる大人になるね!』

 滅びゆく世界じゃ、彼女に向ける顔が無いな。

「力が手に入るのか?」
「もちろんだとも。必ず其方の役に立つことを保証しよう」

 本に綴られた文章を読んでいく。
 その中でも特に気になった『女神の依代』のページに目を通した。

 魔法陣が記されたページ。
 不思議がりながら、指で触れてみる。

「!!」

 突然、俺の手から擦り抜けるようにして本が落ちる。
 床に落とした本を拾おうとはしなかった。
 光っている、表紙と中身が光っている。

 魔法陣が点滅するように発光を繰り返していた。
 目を瞑り、老人を背中にして後ずさりする。

「おいアルフレッド、本が光りだしたぞ? どういうことだ……俺はなにもしていないぞ」
「儂も知らんよ! 極力読まないようにしてたから、こんな仕掛けがあるだなんて!」

 ピキッと鏡が割れるような音がした。
 本から放たれる光に耐えきれず、目を両手で覆う。

「ぐぬぬ……!」

 声が聞こえる。
 老人ではない、もっと若い声だ。

 本がパタリと、目を瞑っている間に閉じるような音が聞こえる。
 明るさも元通りに戻ったのか、瞼裏でも眩しくない。

「———お主が」

 そっと目を開ける。
 相変わらずそこに広がっていたのは本棚。

「———だーかーらー! お主!」

 声が聞こえる方に視線を移動させた。
 どこにも居ない、気味悪がりながら呼んでくる声を必死に探し出そうとする。

 もう少しだけ視線を下の方へと向けた。

「うおっ!!!!!?」

 驚きのあまりに変な声を出してしまった。
 そこに居たのは、小さな少女だった。

 パッツンとしている白銀の髪。
 もみあげが肩まで垂れているが、後ろ髪はそれ以上に腰まで長く伸びており所々三つ編みだ。
 蒼い瞳で見上げてくる、ひらひらスカートの少女と目が合ってしまう。

「そこまで驚くこと無かろう? さっきから呼んでいるというのにキョロキョロしおって。無礼にも程があるぞ」

 年配の口調で話す少女に警戒を強める。
 体も強張ってしまう。
 ただ者のではない、物凄いプレッシャーを小さな体から放っていた。

「子供か………いや何者だ?」
「はっ、なにを言う。それはお主が呼んできたからだろう。そうでなければ妾は此処には居らぬぞ?」

 不思議な子供だ。
 正体は分からないが、只者ではないことは確かだ。

「そこのお主!」

 俺に指差しながら少女が接近してきた。
 逃げようと考えたが、敵意はこれっぽちも感じられない。

「何処ぞの奴に似てると思ったのじゃが、まさかエミリオ殿の息子かいな? 一目で分かったぞ、物凄く似ているからな!」

 少女は嬉しそうにしていた。
 まさか父との関係者とまた会えるとは。
 そもそも、こんな幼いくせに父を知っているだなんてますます怪しい。
 魔族の類であれば年齢に見合わない外見は納得できるが。

「お主の父には世話になっておる。和の大国のいざこざから解放してもらえたからのぉ」
「勝手に話を進めているところ悪いが、名前ぐらい名乗ったらどうだ? 初対面だというのに馴れ馴れしくて気が狂うんだよ」
「むぅ、息子の癖にエミリオとは性格がま反対なんじゃな、まったく」

 捻くれたくて捻くれたわけではない。
 誰からも嫌われているのに、いつも通りにしている方が異常だ。

「だが、女子《おなご》のような容姿は親子揃って可愛いのじゃな。妾はとにかく可愛い物が好きじゃ。すなわちお主に妾はこの瞬間、一目惚れをしたのかもしれん」
「冗談を言うな。誰が子供と恋愛ごっこなんて……」

 俺の呆れた返事に、少女は小馬鹿にするかのように笑った。

「何を言う! 別に恋愛感情などあるわけ無かろう! お主ら人間が小動物を愛でるような感情と同じじゃよ!」

 喋っているだけでも苛ついてくる。
 こんなにも小さな子供に主導権を取られるほどムカつくこと無いな。

「フフフ、悪いな妾だけ楽しんで。さっそく名乗らせてもらおうかの」

 まるで此処が我が家かのように少女はすぐ側に設置されたフカフカのソファーに座りこみ、足を組んだ。

「妾こそが創始者の純血統たる上級女神アリアンロッドである! 月と運命を司る妾がどうしてお主の眼前におるのか疑問に思っておるじゃろう」
「それ以前にお前が女神である事が信じられないんだが……」

 しかし、老人に渡された書物の中身を思い出す。
 たしか女神の依代とか書いてあったな、もしかして召喚を行うための魔法陣だったのか。
 だとすればアリアンロッドが突然現れた訳も辻褄が合うな。

「いや、なんでもない。話を続けてくれ」
「言われずとも続けるとも。まず妾を召喚したということは天体魔術の単語を目に留めたはずじゃ。あらゆる星の事象や概念に干渉を果たすことで利用が可能となる至高の魔術じゃ。お主の父が言うには、剣が握られなくなったらしいではないか」
「ああ……正解だ。おかげさま周囲からは無能の勇者っていう憎たらしい呼ばれ方をされる状況だ」

 父の未来視の内容を聞かされたのか。
 それほどまで信用されているのか、それとも策略なのか。

「原因は呪いか。それもかなり強烈な奴じゃな。出来事の再現というヤツじゃろう。呪いの元凶なら、お主はもう存知ていると思うが?」
「巨大な眼球だ。青い炎を纏っている球体みたいな形をしている」
「ふーん。思い当たる奴は居ないのぉ。しかし、呪いの解き方ならある」
「あるのか!?」

 とっさにアリアンロッドに掴みかかる。
 思った以上に軽く、身体を持ち上げてしまった。

「落ち着けばかもの! その前にお主には天体の魔術を伝授させんとならん。武器が握られないのなら、それに対抗する術が無くてはな。妾はそのために呼び出されたんじゃ。ネロ、お主と契約を交わし何時だろうと守護することをエミリオと誓った。そしてなにより天体の魔術を習得させ、虚無の孔を斥けることが妾の存在意義なのじゃ!」

 持ち上げた状態のアリアンロッドが突然、額を重ねてきた。あまりにも近い彼女の瞳に、驚き離れようとするが彼女に頭を押さえつけられてしまう。

「たとえ拒もうと知らん! 妾との契約は絶対じゃぞ!」

 今度は額が発光を始め、変な模様が浮かび上がる。
 アリアンロッドも同じだ、お互い額に模様が現れ直視をしてすぐ消滅した。
 満足したかのような表情でアリアンロッドは俺の掴んだ手から擦り抜ける。

「契約は完了した。これから宜しく頼むぞネロ」
「なにを勝手に契約を交わしているんだ! 俺はまだお前を信用していないし、養う気は毛頭ないぞ!」
「女神との契約を嫌がる奴は初めてじゃな。文句を垂れるより先にして欲しいことがあるのじゃが、改めて頼むぞ」

 頼みを聞くって、身勝手な女神だ。
 契約は無効に決まっているだろうが、こっちの意見を少しは聞きやがれ!

「腹が減った、死にそうじゃ」
「は?」
「なにか料理を作ってくれ。それまでは寝ておるぞ」

 顔面から床に倒れる女神アリアンロッド。
 相当な飢餓状態だったのか腹が大きく鳴っている、てか女神はなにを食べるんだ? 
 人間と同じ食事でもいいのか?



 ひょんなことから俺は、父の残した書物から現れた女神と望んでもいない契約を交わしたのだった。
 あまり乗り気ではない、天体の魔術が何なのかも分からない。
 謎だらけの女神に呆れながらも、俺は老人に頼んで台所で夕食の準備をするのだった。
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