無能の勇者の英雄譚 —世界に蔑まれた俺、契約した腹ペコ女神に《星々》を操る魔術を伝授したので成り上がってみせた—

灰色の鼠

文字の大きさ
4 / 7

第3話 「無能の勇者はそれでも」

しおりを挟む


 あれから二日後。
 すべてを奪われた俺はボロ着で一人、王都の城下町で徘徊していた。
 他の町に移動する金がない今、俺に必要なのは職だけだった。仕事をしなければ何も買えないし、西にある貧相街の仲間入りだ。

 だが職を探すのは簡単ではない。
 行くところ門前払いを受けまくってしまう。
 人の多い大通り歩くだけで気持ち悪がられるし、罵倒される。

 神聖国がデマを広げたかは知らないが、見覚えのない冤罪が次々と飛び交ってきた。
 それでも構わず働けそうな店を探しては、仕事にありつけようと店主に声をかけた。

「はあ? 仕事をくれだとぉ? こっちは人手不足じゃねぇし必要ねぇよ。だいいち無能の勇者を雇う奴らの神経が理解できねぇ。さあ、行った行った! 邪魔なんだよ!」

 あからさまな嫌悪感で店主は俺を追い出した。
 ここまで悪名が拡散されているだなんて不愉快極まりない、俺がお前らに何をしたって言うんだ。

「チッ、こんな店二度とくるか!」

 立ち去り際に放つ言葉は、自分でも認めてしまうぐらいタチが悪いものだった。
 悪党か、チンピラそのものだ。

 誰も雇わない理由ぐらい自分で理解している。
 昨日一度だけ冒険者ギルドに立ち寄った時、そこにいたベテラン冒険者の男に喧嘩を売られたのだ。
 周りから非難され続けたせいか、簡単に激情してしまった俺はその冒険者と殴り合いを始めた。

 勝てる筈もなく痛ぶられ、どうして自分にこんな事をするのか尋ねると、男は笑いながら言った。

「自分が不幸だからって生意気なんだよ。悲劇の主人公を気取る暇があったら、どう迷惑がかかんねぇか自分で考えやがれ勇者様よぉ!」

 幸運にも骨は折れはしなかったが、全身打撲を負ってしまった。
 こういう時は草原に出て薬草を探す。
 トボトボとしながら回復に使える薬草をアザに貼って放置するだけ、安静にしていなければならないが俺にそんな余裕はなかった。

 街に戻るとしても信用をしてくれる人がいないんじゃ話にならない。
 お腹も空いてきたのか、草原で一人音を鳴らしてしまう。

 料理は得意なので先ほど酒場に行ったのだが、無能の勇者を雇ったりしたら店まで危ういと拒否られたのだ。
 もしここに食材があれば、自分の言葉で閃く。

 森には色んな食材があるではないか。
 あそこならと、町から出てすぐ近くにある森で食べられそうな物を片っ端から探し出してみせた。

 貧相街へと行き、集めた木の実や捕まえた小動物の肉を使えそうな鍋や調理器具と交換してもらった。

 余った食材で料理をしてみる。
 きのこ汁が出来上がり、とりあえず飲んでみた。
 調味料がないせいか薄味だ。
 だけど二日ぶりの食事にありつけた感動で、文句を垂らすことなく完食した。

 楽しみが終わり、虚しさが込み上がる。

 思い出すだけでハラワタが煮えくりかえる。
 町にいる奴らだけではない、きっと全世界にいる奴らはもれなく俺を無能なんだって見下しているんだろう。

 剣を握りしめられない理由。
 それは俺自らの拒絶によってのものだ。
 どういうワケか武器を手に持つだけで、ジュリエットを失ったあの日、あの眼球が何故か目の前に突然と出現するのだ。

 まるで監視でもしているかのように、ジッと俺を見つめて接近してきやがる。
 殺されるのではないかという恐怖に俺はすぐさま武器を話してしまう。

 原因はわからない。
 トラウマが蘇るというより、繰り返されている気がする。
 あれは記憶の映像なんかではない。
 居るのだ、いつまでもすぐ側で。

 眼球は狙いを定めている。
 俺を連れ去ろうとしているんだ、ジュリエットと同じように。

 このままじゃ、虚無の孔に対抗することなんて出来やしない。連れ去られたジュリエットの手がかりなんて夢の果て夢だ。

「はて、そこの君。そんな所で寝っころがってどうしたんだい? もうじき日が暮れるし、危ないぞ」

 一人考えこんでいる俺を見つけて、馬車で街道を走っていた老人が停止して声をかけてきた。
 最初は無視していたが、馬車から降りてきた老人はすぐさま駆け寄って腕を掴んできた。

「なにしやがっ……」

 老人に手をあげることは出来ない。
 躊躇った俺をそれでも老人は引っ張った。

「行き場がないんかい?」
「どうしてそれが分かる」
「長いこと生きてきたからなぁ、目を見ていればな大体のことは予想できるんじゃ」
「それじゃ俺に関わらないことだ。なんたって俺はお前らの大嫌いな『無能の勇者』だからな」

 老人は不思議そうな顔で俺を見つめた。

「困っているのなら遠慮するな。お前さんが誰であろうと関係がない。ささ、こっちに来るんじゃ」
「ちッ……だあっ! わかったよ!」

 あまり乗り気にはなれないが老人に引っ張られて馬車に大人しく乗ってやった。

「俺を何処に連れていくんだ?」
「森を抜けた先には儂の住む館がある。今日はもう遅い、そこで休んでもらうぞ」
「お節介焼きだな……特なんて無いのに」
「それは大きな誤解じゃな。損得など見解の相違じゃろ、儂は誰がどのような事をしてきたなど興味はない。困っているのなら手を差し伸べるだけじゃよ」

 反論できない、俺だってそうだった。
 憧れたが結果になるだなんて思ってもいなかった。

「………」

 館に着くと、老人は荷台にある荷物を入れるように頼んできた。
 自分から連れてきて何をと、断りたいところだったが借りを作るだけじゃロクなことにはならない。
 指示された物置に運び入れると、汗を拭いなら俺は案内された部屋の椅子に腰掛けた。

 この館にいるのは二人しかいない。
 書斎のような場所だ、本がとにかく多い。
 老人は持ってきた茶をテーブルに置くと、俺と向かい合うように座った。

「無能と呼ばれる勇者。事情は分からんが、苦労してきたんじゃな」
「ああ。剣を握れない、弓も引けない。戦えられない勇者がこんな扱いを受けるなんて知らなかったよ」
「虚無の孔に皆恐れ混乱してるからのぉ。昔と比べたら勇者の価値観など落ちてしまっているんじゃ。有り難みを忘れた人々は勇者が強き者であることが常識となってしまった、だから誰しもが其方を非難し始めたのだろう」
「……糞みたいな世の中になったもんだな」


 勇者への価値観か。
 必ずしも賛同はできないが、尊敬していた英雄が腰抜けだと知ればそれは失望するだろう。
 神聖国の悪質なデマも原因の一つだが、人々は何も成そうとせず称号に浸りきっていた俺が気に入らなかったのだろうか。
 称号なんてどうでもいいが、非難の導火線になった理由がそれであることは間違いない。

「しかし儂は考えているんじゃ。恵まれた証に無価値など存在しないと」

 風の圧力が窓を振動させた。
 隙間から侵入する微弱な風が老人の髪を揺らした。

「武器が持てない理由がなんであれ、それは其方の役割ではなかっただけ。其方らしい何かしらの役割があり、力を未だ発揮していないだけではないのか?」
「おい……さっきからその其方其方って、どうかしたのかよ」
「これは敬意じゃ。儂は無能と呼ばれた勇者にまだ可能性があることを信じ、尊敬の念を込めて呼ばせているに過ぎないんじゃ」
「俺に可能性なんて無い。泥を啜る人生がお似合いなだけの屑野郎なんだよ。何も守れず、何も取り戻せない。選定は失敗だったんだよ、俺は勇者なんかじゃない」

 いくら楽観的な話を持ち出そうと、俺はなにもかもを否定しよう。
 そんな俺を見ながら老人は微笑して、ある本を俺に差し出した。

「其方の父親には渡せと言われておる書物じゃ」

 父親って、まさか。
 信じられず老人から本を奪いとり、すぐさま中身に目を通してみせた。
 そこには星の種類や、星座。
 いままで聞いたこともない魔術の法則が書き記されていた。


 ———愛しい我が子へ。
 『神々の残滓』『天体の魔術』『女神の依代』を託そう。たとえ歩き出すたび何かを失いながら、周りから憎まれ疎まれようと、この力でどうか皆んなを救ってほしい。    
           父、エミリオより。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

処理中です...