3 / 7
第2話 「無能の烙印を刻まれて」
しおりを挟む夢は届かないからこそ特別だと誰かが言った。
だからこそ、次の夢を見出し果てなる幻想を駆け巡らなければならない。
それが幾度も繰り返され、分岐の最期を知る者は誰も居ない。
憧れこそ目標を生むが、実現は最果てである。
どうして、俺はもっと早く気がつかなかったのか。
———
村を出てから一ヶ月が経つ。
俺は相変わらず、モニカの期待に応えられずにいた。
主な仕事内容は資金の管理、荷物運び、武器の手入れ、索敵、料理など多々あって苦労しているが、問題点はそこではなかった。
皆は俺のことを無能と口揃えて言うのだ。
原因は俺であり、認めてはいる。
旅立った日。
一度だけ微弱な虚無の孔と遭遇をしたことがある。
思い返せば、あの日から俺への非難と侮蔑が始まったのだ。
「おいネロ! なにゴタゴタしているんだ!? 勇者なんだろ! 魔獣ぐらい簡単に凌いでくれよ!」
優男ベリアの発する怒声に体をビクらせながら、持ったことのない実剣をなんとか手にしようとする。
しかし、剣を握りしめた俺は、反射的な拒絶によって武器を投げ捨ててしまった。
「なにやってんだ!!」
「駄目、俺じゃ戦えない、剣を握れないよ……」
「剣を握られないってどういうことなの? 子供だって持てるぐらいの重量なのよ!」
モニカは咎めず、すぐに駆け寄ってきて背中をさすってくれた。
「違うんだ……みんな……俺は」
真実を告げようとした。
なのに、それは叶わない。
魔獣たちが戦闘領域となった町の人々を選別するように殺し、攫っていく。
早く終わらせないと、犠牲者が増えてしまう。
「モニカ! そんな奴なんてほっとけよ! 戦えないような生半可な奴を気にかける暇なんてないぞッ!!」
「そうです! 初陣は誰しも恐れるものです!」
「ええ……そうね。ネロ、ごめんね。怖いのなら隠れていて、守ってあげるから」
燃え盛る炎が町を飲み込まんばかりに渦巻き、その中でも必死に戦い抜くモニカを前に俺は絶望した。
なんで、剣をにぎれないんだよ。
「なんでッ……!」
結局、半分以上もの犠牲者が出てしまった。
大損害を受けてしまった町の復興は不可能となり、モニカは初めて失敗を犯してしまった。
俺に気にかけたせいだ。
なのに彼女は責められることはされない。
失敗したのにも関わらず、責任者から報酬を受け取ったのだ。
そして彼女が俺の傍で告げた小声に、俺は更なる罪悪感に苛まれた。
「犠牲者が出たから慌てたけど……それでも報酬がちゃんと貰えるだなんて、ラッキーね」
「そうそう。誰かのせいでタダ働きになるかと思ったけど、別に今回は仕方ねぇな」
救えなかった命よりも、金という概念に執着していたモニカ達に俺は良からぬ思いを抱いていた。
それでも口にすることはなかった。
ただ着いていくだけだ。
危険な領域だろうと、戦場だろうと、魔獣の群れだろうと、武器を握らず自分にできる精一杯のことをするだけだった。
剣や弓、槍を持つと俺は無意識に拒絶してしまう。
俺にできることは囮や補給ぐらいだ。
「お前も戦えよウソノロが!!」
それを許さなかったベリアは、疲労しきった俺の頭を蹴り上げた。
歴戦の戦士だけあって命を取り留めるのも幸運な打撃に、俺はなす術なく倒れてしまう。
最初こそモニカが止めてくれたのだが、俺が無能っぷりな行動をとり失敗するたびに彼女はどこか冷たい目を向けるようになっていた。
もう片方、眼鏡の少女カレンも俺を見限ったのか言葉を交えることは無くなっていた。
俺の無能という汚名は仲間達にだけではなく、世界全土に広がる範囲にまで広まってしまっていた。
『戦うことを拒む臆病者』
『偽りに塗り固められた悪魔』
『偽善者』
『責務を全うしない裏切り者』
『無能の勇者』
誰しもが口を揃えて、行くさき俺を責めた。
虚無の孔が現れるたび、人々を前にしてなお俺は剣を握らずモニカたちに最低限の支援を行い続けた。
終わりを迎えると、決まって石を投げつけられる。
一方そのすぐ側でモニカ達は人々に感謝されていた。
ある極寒の夜。
勇者モニカ達のために盛大なパーティーが行われた。
それでも俺だけは歓迎されず会場の外で待たされることになった。
従う必要もないのに、俺は凍えるような寒さの中でもなんとか堪えてみせるのだった。
「貴方が無能の勇者ネロ殿ですか。お会いできて光栄でございます」
白いローブを纏った集団が現れた。
その正体を胸の紋章を目にしてすぐ確信する。
勇者をも信仰する『神聖国』教団の者たちだった。
「精霊教団が俺に何の用ですか……」
物騒な雰囲気を放つ教団を前にして、なんとかして逃げられるよう構えるのだった。
「無論、精霊教の神たるミア様の意に反する者に天罰を与えに来たのです………捕らえよ」
背後なら重い何かがのしかかる。
気づけば複数もの教団によって押さえつけられていた。
地面に這い蹲り、そのリーダーたる男を見上げる。
「くそっ! 離せ! 話しやがれ!!」
「貴方に主導権はございませんよ。大人しく捕らてくれていれば、楽だというのに」
侮蔑をするような眼光を浴びせられ、胸の奥が潰されるような感覚に襲われる。
「立場を理解していないようですが。我々は秩序を維持するために行動しているに過ぎません。貴方こそ、その秩序を崩壊しかねない邪鬼であると判断したからこそ罰を与えるのです」
「くッ……」
コイツらがほざく秩序の定義がなんなのかは、検討も付かない。だけどそれに反する行いをした覚えはない、できる精一杯のことをしてみせただけだ。
だけど、コイツも俺を無能だと蔑むのか。
剣を握れない勇者だから、人を守る力がないから。
俺を責め立てるのか。
否定はしない、出来ないんだ。
責務から逸脱したからこうなっている。
何も出来ないからこそ罪なんだ。
だからといって、こんな仕打ちを易々と認められる筈もない。
「その罰はなんなんだ? 死刑か?」
「死罪など安易に終わるような刑は執行致しませんよ。無能の烙印を刻み、貴方を良しとしないこの世界で生かしておくのが罰でございます。誰にも受け入れない、手を差し伸べることのない空虚な人生に貴方は耐えられるでしょうか」
「あらあら、何事かと思ったらヤバイことになってるわね」
料理の盛りつけられた皿を持ってきたモニカが、押さえつけられている俺を見つける。
教団が全員、一斉に彼女に頭を下げた。
「真の勇者たる方が罪深き者であろうと食事を運んでくるとは、なんとも慈悲深いのでしょうか」
モニカに助けを求めるため叫ぶ。
「モニカ! こいつら、おかしいんだ! 俺に罰を与えるとか、罪人とか! 見ず知らずの冤罪をかけているんだ! たすッ……」
「黙れよ、無能」
皿に盛りつけられた料理が全部、俺の頭上にこぼれおちた。
正確にいうとモニカにかけられたのだ。
「そろそろ気付いてくれないかしら? アンタにもう眼中はないし、助ける気なんて無い。焼くなり煮るなりされなさい。アンタがどうなろうと私に関係はないし」
モニカの冷酷な言葉に打ちひしがれ、ようやく抵抗する気力を失ってしまう。
立ち去る彼女の背中を見つめながら、溢れてきた涙を堪えきれず隠そうと蹲る。
俺への罵倒がそこらから聞こえてくる。
それが全部、身勝手で醜い言葉のように思えた。
耳を塞ごうと、目を瞑ろうと逃げ場は何処にもない。
英雄に俺はなれなかった。
結局それは夢物語でしかない、実現なんて最初から出来ない空虚だったんだ。
仲間に裏切られた。
夢も行き場も失った。
他者への信頼も俺は、失ってしまっていた。
『無能の勇者』という烙印を刻み込まれ、吐き気も催す残酷な世界で俺の冒険が始まるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる