無能の勇者の英雄譚 —世界に蔑まれた俺、契約した腹ペコ女神に《星々》を操る魔術を伝授したので成り上がってみせた—

灰色の鼠

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第2話 「無能の烙印を刻まれて」

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 夢は届かないからこそ特別だと誰かが言った。
 だからこそ、次の夢を見出し果てなる幻想を駆け巡らなければならない。
 それが幾度も繰り返され、分岐の最期を知る者は誰も居ない。

 憧れこそ目標を生むが、実現は最果てである。
 どうして、俺はもっと早く気がつかなかったのか。




 ———





 村を出てから一ヶ月が経つ。
 俺は相変わらず、モニカの期待に応えられずにいた。

 主な仕事内容は資金の管理、荷物運び、武器の手入れ、索敵、料理など多々あって苦労しているが、問題点はそこではなかった。

 皆は俺のことを無能と口揃えて言うのだ。
 原因は俺であり、認めてはいる。

 旅立った日。
 一度だけ微弱な虚無の孔と遭遇をしたことがある。
 思い返せば、あの日から俺への非難と侮蔑が始まったのだ。



「おいネロ! なにゴタゴタしているんだ!? 勇者なんだろ! 魔獣ぐらい簡単に凌いでくれよ!」

 優男ベリアの発する怒声に体をビクらせながら、持ったことのない実剣をなんとか手にしようとする。
 しかし、剣を握りしめた俺は、反射的な拒絶によって武器を投げ捨ててしまった。

「なにやってんだ!!」
「駄目、俺じゃ戦えない、剣を握れないよ……」
「剣を握られないってどういうことなの? 子供だって持てるぐらいの重量なのよ!」

 モニカは咎めず、すぐに駆け寄ってきて背中をさすってくれた。

「違うんだ……みんな……俺は」

 真実を告げようとした。
 なのに、それは叶わない。
 魔獣たちが戦闘領域となった町の人々を選別するように殺し、攫っていく。
 早く終わらせないと、犠牲者が増えてしまう。

「モニカ! そんな奴なんてほっとけよ! 戦えないような生半可な奴を気にかける暇なんてないぞッ!!」
「そうです! 初陣は誰しも恐れるものです!」
「ええ……そうね。ネロ、ごめんね。怖いのなら隠れていて、守ってあげるから」


 燃え盛る炎が町を飲み込まんばかりに渦巻き、その中でも必死に戦い抜くモニカを前に俺は絶望した。
 なんで、剣をにぎれないんだよ。

「なんでッ……!」



 結局、半分以上もの犠牲者が出てしまった。
 大損害を受けてしまった町の復興は不可能となり、モニカは初めて失敗を犯してしまった。

 俺に気にかけたせいだ。
 なのに彼女は責められることはされない。
 失敗したのにも関わらず、責任者から報酬を受け取ったのだ。

 そして彼女が俺の傍で告げた小声に、俺は更なる罪悪感に苛まれた。

「犠牲者が出たから慌てたけど……それでも報酬がちゃんと貰えるだなんて、ラッキーね」
「そうそう。誰かのせいでタダ働きになるかと思ったけど、別に今回は仕方ねぇな」


 救えなかった命よりも、金という概念に執着していたモニカ達に俺は良からぬ思いを抱いていた。

 それでも口にすることはなかった。
 ただ着いていくだけだ。
 危険な領域だろうと、戦場だろうと、魔獣の群れだろうと、武器を握らず自分にできる精一杯のことをするだけだった。

 剣や弓、槍を持つと俺は無意識に拒絶してしまう。
 俺にできることは囮や補給ぐらいだ。

「お前も戦えよウソノロが!!」

 それを許さなかったベリアは、疲労しきった俺の頭を蹴り上げた。
 歴戦の戦士だけあって命を取り留めるのも幸運な打撃に、俺はなす術なく倒れてしまう。
 最初こそモニカが止めてくれたのだが、俺が無能っぷりな行動をとり失敗するたびに彼女はどこか冷たい目を向けるようになっていた。

 もう片方、眼鏡の少女カレンも俺を見限ったのか言葉を交えることは無くなっていた。





 俺の無能という汚名は仲間達にだけではなく、世界全土に広がる範囲にまで広まってしまっていた。


『戦うことを拒む臆病者』
『偽りに塗り固められた悪魔』
『偽善者』
『責務を全うしない裏切り者』

『無能の勇者』


 誰しもが口を揃えて、行くさき俺を責めた。
 虚無の孔が現れるたび、人々を前にしてなお俺は剣を握らずモニカたちに最低限の支援を行い続けた。

 終わりを迎えると、決まって石を投げつけられる。
 一方そのすぐ側でモニカ達は人々に感謝されていた。


 ある極寒の夜。
 勇者モニカ達のために盛大なパーティーが行われた。
 それでも俺だけは歓迎されず会場の外で待たされることになった。

 従う必要もないのに、俺は凍えるような寒さの中でもなんとか堪えてみせるのだった。

「貴方が無能の勇者ネロ殿ですか。お会いできて光栄でございます」

 白いローブを纏った集団が現れた。
 その正体を胸の紋章を目にしてすぐ確信する。

 勇者をも信仰する『神聖国』教団の者たちだった。

「精霊教団が俺に何の用ですか……」

 物騒な雰囲気を放つ教団を前にして、なんとかして逃げられるよう構えるのだった。

「無論、精霊教の神たるミア様の意に反する者に天罰を与えに来たのです………捕らえよ」

 背後なら重い何かがのしかかる。
 気づけば複数もの教団によって押さえつけられていた。

 地面に這い蹲り、そのリーダーたる男を見上げる。

「くそっ! 離せ! 話しやがれ!!」
「貴方に主導権はございませんよ。大人しく捕らてくれていれば、楽だというのに」

 侮蔑をするような眼光を浴びせられ、胸の奥が潰されるような感覚に襲われる。

「立場を理解していないようですが。我々は秩序を維持するために行動しているに過ぎません。貴方こそ、その秩序を崩壊しかねない邪鬼であると判断したからこそ罰を与えるのです」
「くッ……」

 コイツらがほざく秩序の定義がなんなのかは、検討も付かない。だけどそれに反する行いをした覚えはない、できる精一杯のことをしてみせただけだ。

 だけど、コイツも俺を無能だと蔑むのか。
 剣を握れない勇者だから、人を守る力がないから。

 俺を責め立てるのか。

 否定はしない、出来ないんだ。
 責務から逸脱したからこうなっている。
 何も出来ないからこそ罪なんだ。

 だからといって、こんな仕打ちを易々と認められる筈もない。


「その罰はなんなんだ? 死刑か?」
「死罪など安易に終わるような刑は執行致しませんよ。無能の烙印を刻み、貴方を良しとしないこの世界で生かしておくのが罰でございます。誰にも受け入れない、手を差し伸べることのない空虚な人生に貴方は耐えられるでしょうか」

「あらあら、何事かと思ったらヤバイことになってるわね」

 料理の盛りつけられた皿を持ってきたモニカが、押さえつけられている俺を見つける。
 教団が全員、一斉に彼女に頭を下げた。

「真の勇者たる方が罪深き者であろうと食事を運んでくるとは、なんとも慈悲深いのでしょうか」

 モニカに助けを求めるため叫ぶ。

「モニカ! こいつら、おかしいんだ! 俺に罰を与えるとか、罪人とか! 見ず知らずの冤罪をかけているんだ! たすッ……」
「黙れよ、無能」

 皿に盛りつけられた料理が全部、俺の頭上にこぼれおちた。
 正確にいうとモニカにかけられたのだ。

「そろそろ気付いてくれないかしら? アンタにもう眼中はないし、助ける気なんて無い。焼くなり煮るなりされなさい。アンタがどうなろうと私に関係はないし」

 モニカの冷酷な言葉に打ちひしがれ、ようやく抵抗する気力を失ってしまう。
 立ち去る彼女の背中を見つめながら、溢れてきた涙を堪えきれず隠そうと蹲る。


 俺への罵倒がそこらから聞こえてくる。
 それが全部、身勝手で醜い言葉のように思えた。
 耳を塞ごうと、目を瞑ろうと逃げ場は何処にもない。

 英雄に俺はなれなかった。
 結局それは夢物語でしかない、実現なんて最初から出来ない空虚だったんだ。






 仲間に裏切られた。

 夢も行き場も失った。

 他者への信頼も俺は、失ってしまっていた。
『無能の勇者』という烙印を刻み込まれ、吐き気も催す残酷な世界で俺の冒険が始まるのだった。
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