無能の勇者の英雄譚 —世界に蔑まれた俺、契約した腹ペコ女神に《星々》を操る魔術を伝授したので成り上がってみせた—

灰色の鼠

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第1話 「傲慢な女勇者」

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「ふぅん、ここが目的の田舎村なのね……想像以上に何もないのね」

 大鎌を背負った、金髪の女性が出迎える村人を見ながら言った。

「この王国の南辺境地は自然に恵まれているからね。あまり近代化が進まないのも、それが要因かも」

 同行者の知的そうな優男が、あまり機嫌の良くない女性に説明をした。

「不機嫌な表情は控えたほうが良いと思います。ただでさえ歓迎をされていますし、彼らだって我々の守護対象」

 ローブをきた眼鏡の少女が大鎌の女性を注意した。
 それなのに窮屈そうな表情は何一つ変えず、蔑むような目つきをしたまま村へと足を踏み入れるのだった。

 ちょうど三人が俺の前を通り過ぎる。
 こっちに視線を向けるのではないかと緊張したが、そんな事は無かった。

「よくぞ我々の村に訪れました『朏の勇者』の皆さま! 歓迎いたしますぞ!」

 村長が嬉しそうに勇者と呼んだ大鎌の女性の前に立ち、深々と頭を下げた。

「………んん」
「ど、どうか致しましたか? お気に召しませんでしたか?」

 それなのに気に食わなさそうな顔で大鎌の女性は何かを告げようとした、良いことではないのか優男が慌てた様子で割り込んだ。

「ああっと! すみません! 長旅だったものなので、勇者モニカ様もお疲れの様子で! 申し訳ありませんが、先に休息をとらせていただきますね!」
「要らないわよそんなの。時間を無駄にするぐらいなら、さっさと始めるわよ」

 勇者モニカ。
 大鎌を携えた時、敵は魂を喰われたも当然に死を迎えると言われている偉人。
 総身を確認するが、これといって恐ろしさを際立つような見た目はしていない。

「さ、左様でございます!」
「ほら、並んで並んで。早く来ないと帰っちゃうわよ?」

 手を叩きながら誘導するモニカに、村人の皆は困惑しながら歓迎ムードを忘れ去り、候補者を彼女の前に集めた。
 その一人でもある俺も急いで列の端っこに立った。

「フン、説明をもう受けていると思うけどこれから行われる儀式は勇者の可能性を秘めた者の選定よ。すなわち選定の儀式。ついでにアンタ達の加護も特別に鑑定しちゃうから喜びなさい」

 うおおと、村に歓声が上がる。
 勇者は自分ではないかという予感に昂る候補者たちを、モニカは見渡した。

「『走行の加護』違う」

 突然始まったのか、モニカは一番最初に鑑定した女の子に指を差しながら呆れたような口調で答えた。

「えッ……?」
「貴方、変な加護を秘めているのね。勇者になる才能は微塵もないけど足が速いのは良いことよ? 伝達に向いているかも。ま、好きにすれば?」
「そ、そんな」
「文句があるなら後で直接聞くわよ」

 皮肉をだけ言い残し、女の子の肩を叩いてからモニカは次から次へと鑑定を進める。

「『使い魔の加護』違う、『短縮の加護』違う、『笛吹の加護』違う、『爪牙の加護』違う…………」

 次々と勇者の座から落選していく同郷の皆は、あまりにも大雑把なモニカの鑑定に肩を落としていくのだった。
 中には号泣して家に帰っていく子も。

 複雑な感情に苛まれる中、すぐ俺の隣にいる候補者にモニカは同様の皮肉を浴びせる。

「『釣り師の加護』って、釣りしか限定されない加護とか使えないじゃない? 使えない加護ばかりで嫌になってくるわ、ホントもう最悪。アンタに勇者は一生無理だから家業でも継いで、のうのうと平和に暮らしてなよ?」

 隣の候補者があまりのショックに、膝から落ちてしまう。
 憧れの勇者様に罵倒されるだなんて一生の恥である。
 俺だったらそう思ってしまうだろう、自害をしてしまうかもしれない。

「本当にこの村に勇者の逸材がいるのかしら? ロクな能力を持っている奴が一人もいないし、まともなのは面構えだけじゃない。あーあ、時間を無駄にしちゃった。どーしてくれるの??」

 まるで自分が正当な被害者であることを出張するモニカに、村人の皆に不穏な空気が流れる。
 ようやく皆が理解したのは彼女の傲慢さであった。
 だが悔しさを噛みしめるしかない、なんとかして機嫌を直さなければならない。

 誰しもが抑え込む中、村長が手を挙げた。

「あのぉ、勇者様。申し訳ありませんが儀式はまだ終わっておりませんよ」
「はあ? 何言ってんの、終了よ終了。やる価値もないし私の労力も考えられないのかしら?」
「いえあと一人忘れております故、結論は彼を鑑定してからにしてもらいたいですぞ」

 ずっと孤独で待機していた俺に村長は近づき、肩に手を置いた。

「一人を見ないだけ儀式の失敗に差異はないわ」
「いえモニカ様。儀式は正当に行われなければなりません。勇者となった貴方も契約に従わなければならない立場なのです」
「はぁ、分かったわよ。やればいいんでしょ!」

 眼鏡の少女に促され、仕方ない様子で鑑定眼を発動しながら俺に近づいた。
 途端——— 


「ッ………!!」

 まるで幾万年も肉を貪り散らかした獣を前にしたかのような、体内を駆け巡る衝動に全身を強ばらせた。
 モニカの瞳に反射するのは、揺れる紅い炎。

 モニカは確かに感じていた。
 誰しもが頭を垂れ、憧れ、英雄と認める逸材を彼女は直視していた。

「うそッ……アンタのそれ……『勇ましき炎』じゃない! 正真正銘の勇者の証! アンタだったのね!」

 勇者という言葉が射られた矢のように、俺の胸に突き刺さる。
 長年、憧れた遠い存在。
 勇者と呼ばれる『英雄』に俺はずっとなりたかった。

 正真正銘の証。
 込み上がる高揚が、頬を濡らしていた。
 女性を前にして涙を流すだなんて、男にとって恥ずべきことなのにモニカはそんな俺を受け止めるように抱きしめる。

「やっと出会えちゃったわ! もう、長いこと待たせちゃってゴメンネ!」
「え、あの! ちょっと!?」

 モニカの柔らかい豊満な胸に顔が沈み、抑えきれず勃起してしまう。

「あのネロが!?」
「おおお!! 勇者様の誕生だああ!!」
「なれたんだな勇者に!」

 歓声が湧き上がる。

 年に一度だけこの村にいずれかの勇者が訪れるのだが、勇ましき炎を宿した者は過去十年もいなかった。
 非常に稀な瞬間に、村の皆は拍手する。

 しかし母だけは物静かに笑みをだけ浮かべていた。
 それもそうだ。勇者に選定された者は次の日、故郷から出なければならない。

 国王に会って、世界を巡る。
 心躍る旅になるだろう、だけど肉親に会える機会が無くなってしまう。
 死ぬこともありえる、そんな使命も課せられるのかもしれない。

「貴方の名前、ネロなのね! 気に入っちゃった! 私の仲間になってもらうわよ!」

 強引に引っ張られる。
 あまり女性と絡みのない俺にとって、刺激的すぎる。
 だけど心から決めている子は一人だけ、それがジュリエットだ。

 俺が勇者になれたとして、目的を忘れては本末転倒。

「世界を救うわよネロ!」
「あ……はい。任せてください!」

 これが第一歩だ、父に近づけただなんて慢心はしない。
 世界の来訪者と対峙するとき自分がどのように力を振るえるのか、それはまだ明確ではない。




 だけど、



 まさか、



 彼女こそが、俺を突き落とす要因になるだなんて知る由も無かった———
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