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第9話 「凶悪勇者の刃」

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「クッソ! クッソが!」

 勇者ヒューゲルは慌てていた。
 世間では役立たずで人でなしの勇者として知れ渡ってしまった。
 このまま国から逃げたとしてもロクな目には合わないだろう。

 これも全部、あのアルフォンスを追い出してしまったことにある。
 どうしてヤツは自分の力量を隠していたのか。
 もしも包み隠さず能力を発揮していたのなら考え方も変わっていたのに。

 いや、勇者の称号を与えられた身。
 それを覆すような逸材を前にしていたら妬んで、迷わず追放していたはずだ。

 どっちみち詰み《罪》である。

 一方の聖女アリスは自分の考えが間違っていたと、適当そうに反省しながら帰省してしまった。
 レイラはアルフォンスと縁を取り戻すためにどっか行ってしまった。

「おい、みろよ屑勇者だ」
「あんまり大きな声出すなよ。聞こえられるぞ」

 街を歩いていると、この様だ。
 昔のように称えたり、チヤホヤしたりはない。
 酒場に行くと陰口の嵐。
 冒険者ギルドではほかの冒険者に喧嘩を売られることなんて日常茶飯事だ。

「いい女いるか?」
「申し訳ありませんが勇者ヒューゲル様、今日は閉店ですのでお引き取りを」

 パーティの女たちが出ていったせいで四六時、欲求不満だった。
 行きつけの風俗でも除け者扱いである。

 イライラが募り。
 その矛先が次第にかつて追放したアルフォンスに向けられるようになっていた。

「ん、あれは……」

 王城付近に知っている人物がいた。
 とっさにヒューゲルはそばの建物で身を隠し、様子見する。

「レイラと……アルフォンスなのか?」

 呆然と呟きながらも頭の中では、何が起きているのかは大体は想像できていた。

 レイラが泣き崩れている。
 それを見てみぬフリをする元恋人のアルフォンス。
 姿は幼い、少女にも似たものになっているが雰囲気と奴にしか持つことのできない『本』が腰にかけてあった。

 縁を戻そうと懇願するレイラだがアルフォンスはきっぱりそれを断る、というより一言も喋らずまるで彼女がいない存在のような扱いである。

 ざまぁみろ、とヒューゲルは思った。
 裏切っておきながら自分だけが幸せになろうなんざ甚だしい。

 所詮は田舎娘。
 憧れの勇者が甘い声をかけるだけでコロッと落ちるような馬鹿女だ。
 そうやってこれから先、幾度なりと後悔すれば良いというある意味『呪い』をヒューゲルはレイラにむけていた。

 アルフォンスが城下町に下りていく。
 ひとまずバレないように跡を追う。

「………あの野郎、ぜってー殺す」

 隙を見せた時は背後から一斬りだ。
 魔王を倒した英雄だとか大層な御身分として世の中に知られられていたが、アイツも所詮は生身の人間。
 結界とやらを張られる前に、一撃で仕留めてやる。

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