最も嫌われている最凶の悪役に転生ー物語の主人公に殺されるエンドを回避するため善行を積みます!ー

灰色の鼠

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第56話 配下の一日 上

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 私の名前はボロス。
 最強と謳われた竜族の生き残りの一人です。
 訳あってロベリア様に仕える直属の最強配下となりました。

 以前まで女や酒にだらしがなく部下の命を何とも思わない冷徹な悪役だったのですが、ロベリア様に魅了され彼の元で自重やらなんやら色々なことを学んでいこうと決心しました。

 さて配下の朝は早いものです。
 特にやることはありませんが黒魔術の魔導書になぜか叩き起こされてしまいました。
 どうやら暇なので遊びに付き合ってくれのことです。
 意味が分かりません。

 丁寧にお断りをするとロベリア様の愛用してらっしゃる、死滅槍を突き付けられました。
 心なしか『死滅槍すっぞ』という言葉が脳裏を過りました。
 命は惜しいので付き合うことにしましたが、魔導書さんと何を遊べばいいのやら見当もつきません。

 そう思った直後に、私の目の前にテーブルとボードゲームなる物が現れました。
 ナニコレやばっ、と困惑する暇もなく突然、背後から迫ってきた椅子に座らせられました。

『人生ゲーム』と呼ばれる初めて耳にしたゲームがテーブルの上に広げられ、ちんぷんかんぷんだったのですが強引にゲームが開始されたのです。
 遊びながら覚えていこう……。

 数時間後。
 借金まみれになり魔導書さんに負けてしまいました。
 魔導書さんは大富豪になったらしく嬉しそうでしたが同時に虚しく見えました。

 現実に一切反映されない、空虚な成功で喜ぶとは滑稽な。
 呆れてロベリア様のような溜息をこぼしました。

 刹那、死滅槍を首に突き付けられました。
 なにこの魔導書、血の気多っ! と内心思いながら謝罪をしたのですが、簡単には許してはくれず本の外へと叩きだされてしまいました。


(はっ……ここは!!)

 ロベリア様のご自宅に出てしまったのです。
 どうやらロベリア様の研究室として使っている狭い部屋のようです。

 恐る恐る周りを見回しますが、誰もいない。
 安心して胸を撫でおろし、雑に机の上に置いてある魔導書さんを見ました。

「中に戻してください。外部に私の存在がバレてしまったらロベリア様にご迷惑がかかると貴女も知っているでしょう? なに? お前ムカつくから外で反省しろだって?」

 魔導書さんはそれっきり反応をしなくなってしまいました。
 なんと恨ましい、ロベリア様が許可さえしてくれれば燃やしているところなのに。

「紙切れのくせに……なんて生意気な……!!!」

 いや落ち着くのです。
 外に出されたからといって誰かに見つかったというわけではありません。
 この時間ならまだロベリア様は寝室にて睡眠中。

 エリーシャ嬢も起きているか微妙な時間。
 ならば気配を殺しながら家の外に脱出をして、魔導書さんが落ち着くまで遠くに行けば―――

「声がしたけど、誰か居んのか?」

 ガチャリ。
 研究室の扉を開けた人物と、目が合ってしまいました。
 ソイツはロベリア様ではなく、エリーシャ嬢でもありませんでした。

 ロベリア様の弟子、首元まで包帯を巻いているアルスでした。

「あっ」

「…………お前、誰だ?」

 竜王絶体絶命のピンチ!!!!

 どうするどうする!?
 ええと、バレてしまった場合のマニュアルはなく。
 魔導書に戻るという手段もなく八方塞がりになってしまいました。

 あ、じゃ。
 殺しちゃいます?

(駄目だよ竜王……ロベリア様が愛弟子の一人を失ったところを見たではないか! あんな顔はもう見たくはない! ここは抑えるのです!)

 じゃあ殺さない。
 私は頭がいいのです。
 この程度の山場、簡単に乗り越えてみせようではありませんか。

「あ、あ、怪しい竜王、じゃな、じゃな、いよ?」

「怪しいな。師匠呼んでくるわ」

「わわ! 待って! 待ってくださいましっ!!」

 慌てて呼び止めると、案外素直に止まってくれました。
 そして不機嫌そうに振り返り、

「だってお前見たことないもん。この町の人じゃねぇな?」

「え、はい……そうです」

「もしかして難民か? なら受け入れもしてるから村長のユーマさん家に行けば入居許可を貰えるかもよ」

「いや、そうではなく説明をするのが難しくて……」

「まさか精霊教団のスパイ!?」

「あんな偽善どもの集まりと一緒にしないでください! ブチ殺しますよっ!?」

「……なんかごめん」

 ロベリア様の築き上げてきた物を壊した元凶どもと一緒にされるのは心外です。
 まあアルス君も反省していることですし大目に見てやりましょう。

「だったら誰?」

「私は、その、ロベリア様のご友人なんです。借り物をしていましてね、遥々遠い国からこの土地まで長旅をしてきたのです。で、家に訪ねてみたのですが当の本人はまだ眠っていたみたいなので、研究所に借りた物を置いてそのまま帰ろうかと……」

「そうか、そうだったのか。けど……本当にそれでいいのか?」

(ん???)

 アルスはどうして、そんな哀れそうな目で見てくるのでしょうか?

「だって師匠に会うため人魔大陸に来たんだろ? 餓鬼の俺でも分かる、過酷な場所だ。借りた物を返すだけって言ってるけど、何も言わないで帰るって虚しくはならないのか?」

「お、おお……ですね?(??)」

「友人だから、しっかり話してみろよ。師匠を起こしてくるからさ」

「ま、待ってください!! それでは私、死滅槍をされて……じゃなく殺されて……!!」

「いいから遠慮すんなって。感動の再会をさせてやるって」

 余計なお世話です!!

 ただでさえエリーシャ嬢含めて誰にもバレるなとの命令を受けているというのに、こんなところを見られてしまったら命が足りません! 死滅槍百連続コース行きです!!

「アルス~朝から騒がしよ……」

 ぬいぐるみを抱いている少女が部屋に入ってきてしまいました。
 そして目が合い、彼女は固まってしまったのです。

 この子、ロベリア様のもう一人の弟子ジェシカではないですか。
 可愛らしいなぁ……じゃない、見惚れている場合ではないのです。

「あ、ハロー……」

「アルス、この人誰?」

「師匠の友人リュウ・オウさん」

「変な名前」

「だろ?」

 名前ではないのですが。
 幸い、子供は竜王の存在を知らないようです。
 不幸中の幸いとはこのことでしょう。
 だけど、何故でしょうか、胸騒ぎがして仕方がありません。

「二人とも~、勝手にロベリアの研究室に入らないようにって言ったじゃない」

 廊下の方からエリーシャ嬢の声が!
 こちらにやってくる足音がしてきました。

「ああ! 来てしまう! 何処かに隠れなければ!」

 研究室の扉を勢いよく閉め、椅子でバリケードしてから隠れられそうな場所を探しますが見つかりません。
 本日二回目の絶体絶命のピンチに慌てふためく私を、アルスとジェシカが目で追っていました。

 魔導書さんは嘲笑っているかのようでした。
 この紙切れ野郎。





 ―――――




 ロベリアの研究室を開けようとしたけど、何かが引っかかって扉が動かない。
 新築なのにと頭を悩ませながら強めに押すと、扉が開いた。
 椅子が塞いでいたみたい。
 ジェシカとアルスの悪戯だろうか?

 さっきまでこの部屋で話し声が聞こえたのだけれど、誰もいない。
 洗濯物を手伝いたくなくて、隠れたのかもしれない。

 私は不思議に思いながらも倒れた椅子を立たせ、ロベリアの研究室を後にした。

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