初恋Returns

二一

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初恋Returns 20

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 いつものように武市のことを話そうとしてためらった。話そうとすると誕生日の出来事が真っ先に浮かんだ。

 いや、むりだろ……。オヤジだって聞かされたところで、どうしていいか困るだろうし。もしかしたら、武市の夢枕に立って止めるよう文句を言ってくれるかも知れない。

 いや、むりだ。俺たち親子を知っている人間は口を揃えて俺たちを似たもの親子だという。つまり俺と同タイプのオヤジは武市に敵わない。

「随分長ぇじゃねぇか。何を話してるんだ?」

 悶々と自問自答を繰り返していたせいで、いつのまにか線香の煙は消えていた。見上げるとすでに立ち上がった武市が、にやにやと俺を見下ろしている。

「なんでもねぇよ」

 武市と目が合わせられない。武市としゃべると、それだけでオヤジにも見透かされてしまいそうで、俺は先に立って走りだした。

「もうよろしいので?」

 来島さんが運転席から降りて俺たちを迎えてくれた。武市はゆっくりと歩いてきている。

 俺は大丈夫とだけ答えて後部座席に乗り込んだ。

 武市はなにをしゃべってきたんだろう。親友の息子に手を出した罪悪感とか、そんなものは感じたりしないんだろうか。そもそも罪悪感があるんだったら武市はあんなことしないよな。

 来島さんの運転するセダンは滑らかに走り出し、俺は遠ざかる景色に心の中でまた来るから、そう呟いた。

 隣の武市はなにやら携帯端末で仕事の指示を出している。ここ数日は、ほとんど家にも戻れないくらい忙しそうだった。それでもこの日だけは忘れずにいてくれるんだ。

 なんとなく昨夜は眠れなくて、今になって睡魔がやってきた。ちょうどいい場所にある、武市の肩にもたれかかる。武市が俺の髪を撫でた。これだけなら昔と変わらない。

 武市のそばは居心地がよくて、俺の唯一の帰る場所で……でも、今は少しだけ悩んでしまう。

「祥真、おい……ついたぞ」

 すっかり熟睡してしまっていたらしい。武市の声で、なんとか目を開ける。見慣れた重厚な木の門が窓越しに見えていた。

「帰りは誰か寄越すから一人で帰るなよ」

 ひとり車から降りた俺に、武市が車内から念を押す。そう、ここから今日は武市と別行動なんだ。

「わかった」

 頷いた俺を残して、黒塗りのセダンは滑らかに走り去っていった。
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