サ終直前のネトゲで推しに急接近されましたが、現実の自分がクソダサ陰キャのため最後の思い出だけ作って逃げようと思います

二一

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5月2日 最後の伝説

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 ゲームの世界において、落下の結果は様々だ。特になにもなく進む場合と、落下距離によってダメージを受ける場合、または落下を和らげる手段がある場合。ARK LEGENDはそのうしろ2つの複合で、落下直前に回避行動をすることでタメージを軽減させることができる。
『いたたた……』
 別に自分が痛いわけでもないのについつい言葉に出てしまう。体力ゲージが半分になったのを確認しつつ、ユーリの姿を探した。
『ユーリ、大丈夫……そうだな』
 振り返ったところで、きれいに起き上がったユーリが走って合流する。パーティは2人と2人に分かれてしまった。
『うしろ見とらんかった。ごめん』
 謝るユーリに大丈夫だと笑い返して、さてどうしようかと考える。
『とりあえず、お香焚くね』
 敵に遭遇しないようにするアイテムを発動させ、崖によりかかる。
『合流してくれるかな』
『ウワバミさん、着地苦手って言うとったもんなぁ』
 2人でこの森を行動するのが困難なのは向こうも同じだが、ウワバミがいれば移動魔法を使うことができる。つまり、どうにかして合流しなければならない。いちばんは、同じ崖を落下してもらうことだが、ウワバミは落下後の着地が驚くほどに下手なのだ。
『あ、ミキニャからウィスコードにメッセきた』
 ユーリの動きが一瞬止まる。
『こっち来るから、待っとってやって』
 カナタが入れない場所でのやり取りに、忘れかけていた傷がまた少し疼く。
『よかった。じゃあ、ウロウロするとお香の効果なくなるし、ジッとしとこうか』
 うなずき合って、崖に背中をもたれかけた。
 ふと、視点を動かして高い崖のさらに上を眺める。
『カナタ、なにしとん?』
『空見てる』
 ユーリが誘われるように同じ空を見上げた。
『昨日、結局城下町でボーッとしたまま終わっちゃったんだ。そのとき塔の上から夕焼けになってく空見ててキレイだなって……けど、現実だと空なんかわざわざ見ないなーとか考えてた』
『ホンマやな。俺も空とか見ぃひんわ……どうせビルばっかりやし、そういやどんな色しとんのかなぁ?』
 しみじみとつぶやきながら、ユーリの視点はまだ空を眺めている。
『昔な……俺、じいちゃんとばあちゃんに育ててもらったんやけど、店にいっつも来る常連のおいやんがおって……』
『店?』
『焼き鳥とラーメンだけのちっこい店やっとってん。そこに週3日くらいくる、何しとるかよう分からんおいやんおってんけど』
 不意に飛び込んできたユーリの生い立ちに、ドキリとした。
『そのおいやんがいっつも言うとったの……人は余裕があるときは上を向いて歩くけど、のうなったら下ばっかり見よる……ほやから、上見ときやって』
『なんか、深いね』
『俺はまだ小学生で、上ばっかし見よったら転けるやんとかヘリクツ言って……』
 いつもより落ち着いたユーリの声が耳に心地良い。効果音で入る小鳥のさえずりもまた、この空気にマッチしているように思えた。
『そのあと、しばらくおいやんが来んようになって、2年くらい? ふらっと来たとき、どないしとったん、て聞いたら……上ばっかし見とったら転けてもたって、たまには下も見やんとアカンわって笑っとった』
『どうなってたか聞いてもいいとこ?』
 おずおずと聞き返すと、ユーリがかすかに笑った。
『知らへん。おいやんはなんも言わんかったし、ばあちゃんの顔がいらんこと聞くなって言っとった。そやから、なんのオチもないんやけど、空見るって考えたら急に思い出してん』
 やっと空から視線を戻したユーリと目が合う。カナタの大好きな顔がカナタを見つめてにっこりと笑った。
『俺、は……下ばっかり見てる気がするなぁ……』
 空は思い出せないのに、いつもの道でアスファルトが割れているところなんかは、なぜか覚えているのだ。余裕がないのだろうか。そもそも、翼は自信を持って「ある」と言えるものがない。つまり、なにもないのだ。
『俺も。今度、外出たら、空見てみぃひん?』
『うん……』
 次、外出たら……翼が次に外に出るのは連休明けの7日で、このゲームが終わる直前だ。きっとこんな穏やかな気持ちで見ることはできない。
『……終わりたくないなぁ……』
『カナタ……』
 膝を抱えてうずくまったカナタの背中を、ユーリが優しく撫でてくれている。
 終わりたくない。この世界から離れたくない。
『カナタ、お願いがあるんやけど……』
 遠慮がちなユーリに、思わず顔を上げた。またウィスコードのIDを聞かれるのかとわずかに身構える。しかし、ユーリの口からは、予想外の言葉が出た。
『5日の午前中ってログインできへん?』
『午前中? なんで?』
 今のスケジュールでいくと、カナタもユーリも午後から夜中にかけてログインするため、午前中は遅くまで寝ている。
『10時くらいでえぇんやけど……理由は聞かへんと……ってのはアカンかなぁ』
 理由はきっとあるのだ。だけど、言えない?
 どういうことだろう。あたりまえに疑問はあったものの、翼にはそれを断る理由もない。
『10時だったら起きてるし、いいよ。なんか分かんないけど楽しみにしとく』
 カナタの返答にユーリが一瞬黙り込んだことから、それはもしかすると楽しくない何かなのかも知れないと、少し怖くなった。
『ユーリー! カナター!』
 声が先に届き、画面の端に走るミキニャの姿と、そのうしろからウワバミが現れた。
『待たせてすまんな』
『いやいやいや。俺がしょーもないミスで落ちたんやから……ホンマ、すみません!』
 謝るウワバミに、ユーリが慌てて謝る。その姿は土下座せんばかりに頭が低い。
 ともあれ、無事揃ったから急ごうと、ミキニャがせっつく。すでに景色はオレンジがかっていて、もうまもなく夜がくる。
『ハーミット城へ戻るぞ』
 ウワバミが杖を高く掲げる。移動魔法だ。そう、時間がないのだ。
 次の瞬間、4人はハーミット城がある街の入り口に立っていた。
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