サ終直前のネトゲで推しに急接近されましたが、現実の自分がクソダサ陰キャのため最後の思い出だけ作って逃げようと思います

二一

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5月2日 最後の伝説

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『みんな装備は外したかニャ』
 恐らくは疲れもあいまってのハイテンションでミキニャが先導する。やっと4人揃ったお昼過ぎ、パーティは最果ての森という終盤のエリアに向かっていた。
『ユーリとミキニャはまだいいけど、俺とウワバミさんは結構恐怖だからね』
 ついつい主張してからウワバミとうなずき合う。戦士であるユーリと武闘家のミキニャは革の服にアクセサリーなし、神官のカナタと魔法使いのウワバミは布の服に木製の杖だ。物理攻撃系のふたりはともかく、そもそも防御力のないカナタたちは丸裸と変わらない。しかも、この森には特殊攻撃系のモンスターが山のように出現する。
『短時間で友好度マックスにするには、これしかないって言ったのはカナタニャ。死ぬ気でがんばるニャ。大毒蛾が出たら秒でマックスニャ!』
『大毒蛾が出たら即逃げするよ!』
『なんでニャ!?』
『装備もナシでさすがに勝てへんわ!』
『だったら、ウワバミさんに風のブーツ装備してもらうニャ。最初に毒無効化の魔法で1ターンは稼げるニャ。そのあいだに装備したらいいニャ!』
『……儂の装備はできんがの……』
『やられたら次ターンでカナタが復活の呪文唱えるニャ』
『鬼やな……』
 合流してすぐにコマから教えてもらった作戦を提案すると、ミキニャが一も二もなく飛びついた。ログイン時間が限られているミキニャには切実なのだ。そして、紅一点のミキニャがさらに鬼畜な作戦を展開する。猫耳の少女はいつもと変わらないはずなのに、どこか目が据わっているように感じるのは気のせいだろうか。
 しかし、それが最も効率的なこともみんな分かっていた。
『それにしても、カナタ。よくこんな作戦気ぃついたなぁ』
 素直に褒められて、どこか気まずい気がした。コマから教えてもらったと返事しようとして、慌てて止める。それをすれば、交換条件を含めた経緯を話すことになるだろうし、そうすればユーリには断ったウィスコードのIDを交換したことも話さなければ不自然だ。カナタはあまりウソが得意じゃない。
『……Qtube見てたらやってる人がいてて……』
『ほぉ。いろいろあるんじゃの。儂らにはありがたい』
『分かったから早く行くニャ』
 背中をミキニャの手のひらが押している。時間がないと叱られ、男性キャラ3人が素直に謝った。
『……儂とカナタは、強化支援と回復に努める。敵は任せたぞ』
 森の入り口に立ったウワバミの声はいつになく硬い。金紋章パーティがようやくクリアできるほど高難易度エリアに、あえて惰弱装備で挑む自殺行為なのだから当然だ。
 しかし、ミキニャががっつりパーティに入れるのは今日と、次はサ終直前しかなく、つまり今日が唯一のチャンスで、どうしても友好度をマックスにしなければならない。
『とにかく、みんな「命だいじに」やで』
 戦闘終了時に一人でも欠けていたら友好度が下がってしまう。ユーリのかけ声を合図に、4人は最果ての森に突き進んだ。
 そこからしばらく、阿鼻叫喚の戦闘が続いた。なんども回復を繰り返すたび、精神的に疲労が溜まっていく。
『あかん。回復できてるはずやのに、どんどん疲れてく気ぃするわ……』
『俺も復活呪文回数が過去一なのは確実だよ』
『つまり、1日で死んだ回数も過去一ニャ』
『こりゃ、老体にはハードすぎる……あと、何戦じゃ?』
 魔物の出現しないエリアで小休止をしながら、現実の人間も水分補給などに努める。翼も、今年始めて部屋のエアコンを動かし、そのカビ臭さに顔をしかめながらも、背に腹は代えられないと、手汗で滑る手をなんども拭った。
『敵にもよるけど、うまくいけばあと2戦かなぁ』
 2戦で終わってくれという強い願望を含ませた。フィールド移動時の全力疾走時間のような疲労パラメータは、戦闘時には設定されていない。それなのに、なぜかみんなのアバターは深い疲労が蓄積されているように感じられた。
『どないする? ここでしっかり休憩するか、一気に行ってから休憩するか』
『はいはいはーい! 一気に終わらせたいニャ。休むと気合いがどっか行きそうニャ』
 元気よく挙手したミキニャの声が、語尾にいくにつれ萎んでいく。
『儂もミキニャに賛成じゃ』
『俺も』
 止まると走れなくなる。そんな妙な感覚を全員が共有していた。
『ほな、最後。ふんばろか』
 ふんっと立ち上がったユーリに続いて、みんなが気合いを入れ直した。アイテムの残りをチェックして、また森の中を進んでいく。
 あと、1戦――。
 カナタの予想どおりに友好度があがり、終わりが見えたことに全員がテンションを上げたそのときだった。
『は!? ウソ……』
 全員がもれなく呆然としていたなかで、辛うじてミキニャが声をあげる。一瞬、固まっていたパーティが、その声を合図に、戦闘モードに入った。
『……!!』
 すかさずウワバミが毒無効の呪文を唱える。これで3ターンのあいだは、敵の毒に冒されない。
『なんで今なんや!? 出るならもっとはよ出てきぃや!』
『気合いニャ! ここで死んだら後戻りニャ! それだけは嫌ニャーーー!』
『俺も、これ以上はムリ!』
 この森でプレイヤーに最も嫌われている大毒蛾は、とにかく巨大で、出現すると画面の大半が隠れてしまう。その一撃目は毒の鱗粉と決まっていて、パーティでいちばん素早さのパラメータが高いウワバミがそれを防いだ。残りの3人はそのターンを犠牲に、外していた装備を身につける。
 が、装備が後回しになってしまったウワバミが、大毒蛾の物理攻撃にダウンした。
『ウワバミさんっ!』
 半泣きでウワバミを復活させ、ユーリが特殊攻撃で大毒蛾の攻撃を遅らせる。ミキニャが2回攻撃のアイテムをウワバミに使い、ウワバミがさらに速度アップの補助魔法を重ねた。
 大毒蛾の攻撃で必殺技のパラメーターも一気に溜まっていく。
『ウワバミさん! 火属性かけてくれへん!?』
 ユーリの頼みにウワバミが火属性アップの補助魔法をかける。
 ミキニャが2回攻撃のアイテムをふたたびウワバミに使う。
 カナタはパーティのHP・MP全回復のアイテムを惜しみなく使った。
『いっっっっっっけぇーー!』
 ユーリの叫び声と同時に、最高位の必殺技が炸裂する。大毒蛾に大ダメージを与え、1ターンの行動不能効果が発動した。
 畳みかけるように、ウワバミが火属性の大魔法をかけ、ミキニャもマックスになった必殺技を叩き込む。
 そこでやっと大毒蛾を倒すことができた。
『死ぬかと思ったニャ……』
『儂は死んだがな』
『友好度は?』
 立ち尽くす全員がパーティのパラメータを確認する。
『マックスや!』
『やったニャ! これで進めるニャ!』
 疲れも忘れてはしゃいでいたところに、空気を読まない敵が出現する。
『装備ばっちりやったら怖くないしな!』
 ドヤ顔のユーリが大剣を振りかぶる。そこは、ちょうど崖の際で……。
『ユーリ! ちょっと待って!!』
 カナタの叫び声は間に合わなかった。
 ユーリの大剣が敵をなぎ払い、衝撃で後方へと身体が動く。その身体を止めようと、カナタはユーリと崖とのあいだに飛び込んだ。障害物があれば勢いを削げるからだ。
『カナタ!』
『ユーリ!』
 ミキニャとウワバミの声と同時に、カナタとユーリは崖の下へと落ちていった。
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