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5月1日 休息日
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『よぉ』
物思いにふけっていたところに、突如会話のリクエストがあった。もしかして、仕事が早く終わったユーリかもと何も考えずに振り返ると、そこにはいつかのコマが細い目をさらに細めてカナタを見ていた。盗賊という身軽さを見せるためか、塔の柵に器用にしゃがみこんでいる。
『このあいだの……』
あのときはその、ごめん。微妙なお詫びを口にしかけたところで、コマが座り込んだカナタの目の前に飛び降りてくる。
『あいつ、アンチェスター山脈まで連れてったぜ』
『ありがと。喜んでた?』
『スゲー喜んでた』
よかった。明日ユーリにも教えてあげよう。そんなことを考えるカナタにコマがまた話しかける。
『そっちはパーティ組めそうか?』
『パーティはいるけど、友好度が間に合うか分かんない。そっちは金紋章、見つかった?』
『あとひとり。とりあえず3人ではマックスになってんだけどなぁ』
リアルのほうでも仲間を募ってるがなかなか見つからない。コマが困ったように頭をかいている。
『見つかっても友好度0からはキツくない?』
カナタたちは直前まで一緒に行動していたおかげで、マックスまではさほど遠くない。
『そこは、多少の無茶してでもなんとかするさ』
『無茶? 闇の洞窟にでも行くとか?』
友好度は一緒に行動するのはもちろん、戦闘を繰り返せばどんどん上がっていく。闇の洞窟はモンスターの巣窟で、嫌になるほど湧いて出てくるのだ。
首を傾げたカナタに、コマがずいっと顔を近づけた。
『おもしろい作戦あるんだけど聞きたい?』
いたずらっ子のような顔は作っているのだろうが、どこか構えてしまう。
『……教えてくれるの?』
『ま、出し抜く意味もないしな』
先着順でもなさそうだし。コマが笑うと、尖った八重歯が覗いた。
『そんかし、条件つき』
『条件?』
身構えたカナタに大したことじゃないと、手のひらがヒラヒラしている。
『もし、俺が間に合わなくて、あんたが間に合ったら、そこに何があったか教えること』
そのくらいいいだろう? コマの条件はなんら不思議じゃない。逆の立場ならカナタだって、最後の伝説の結末が知りたいと思う。
それでも、そのためにはゲーム外で繋がらなければならない。
『どうやって教えるの?』
『そりゃウィスコードとかじゃね?』
やっぱりそうなるか。
翼の中の葛藤が激しく争いを繰り返す。
別に伝説が見つからなくてもいいじゃないかという声と、伝説を見つけてユーリを喜ばせたいという声。
『……テキストと画像とかでも良かったら……』
実際に交流する訳じゃなくて、あくまでも事務的なやり取りなら。望むものが手に入れば、カナタは不要だろうと提案する。
『……もしかして、女の子だったりする? 別にそこまで警戒しなくても、悪さしねぇよ?』
そうくるか。けど、勘違いしたならちょうどいい。
『理由は言えないけど、それでもいいなら、もしたどり着けたらデータ共有するよ』
コマがジッとカナタを見つめている。自分が持つ情報を渡してもいいか思案しているのだ。
カナタとしては、ダメだと言われればそれでいいわけで、気分は楽だ。
『それでいい。メッセするからフレンド許可して』
『分かった』
やがて、通知と一緒にコマのウィスコードIDが送られてきた。今度は、そこに翼のROM専アカウントでフレンド申請をする。
『進展あったら教えろよ。サ終まであとちょっと、情報はお互い多いほうがいいだろ?』
ニカっと笑うコマに頷いて、協力を約束する。情報はカナタたちが進むうえでも大切だ。
『で、俺がやろうとしてる友好度の上げかただけどな?』
コマの言葉に耳をすませる。
『全装備外して最果ての森に行く』
たった一文なのに一瞬なにを言われたのか分からなくなった。
『……は……?』
装備なしで最果ての森?
最果ての森は高難易度の敵が出てくるエリアで、カナタたちカンストプレイヤーでさえ、油断するとゲームオーバーになってしまう。そこで、装備を外す?
『いやいやいやいや! 無理だろ!?』
一気に現実に戻って叫んだカナタに、コマが爆笑している。もしかすると、からかわれたのだろうか。
『だから無茶だって言ったじゃん。けど、難易度が高いほど友好度の上げ幅が大きくなるのは実証済みなんだ。動画とかでもやってたヤツいてたぜ』
コマの説明に、ゴクリと喉が鳴った。カナタたちは、コマに比べると合流さえできれば友好度アップには余裕がある。それでも、あの水路の先になにがあるか分からない状態では、できるだけ早く動けるようになりたいところだ。
『ありがと。ほかのメンバーにも提案してみる』
『がんばれよ。じゃ、俺はもうひとり確保しに行くわ』
『ん。コマさんもがんばって』
『……』
『? どうかした?』
『”さん”はやめよっか?』
さん? コマ、さん?
『あ……なんか、そんなキャラいてたね』
少し古いキャラクターを多分同時に思い浮かべ、微妙な顔を見合わせた。一応まだ初対面に近いし、敬称をつけようと思っただけなのだが。
『じゃ、コマ。よい旅を』
『おぅ! カナタもな』
ニカッと笑ったコマが手を振って、塔からひらりと飛び降りた。身軽な盗賊ならではのアクションだ。
ぼんやりしていた気分がどこか晴れ晴れとしたような気がする。
『早く明日にならないかなぁ』
明日には4人揃って、先に進むことができる。
だけど進むということは、終わりも近づくことだ。
なにをしても、結局は終わりへの行程にすぎない。
みんなでの探索は楽しみだし、ワクワクもしている。だけど、無性に寂しくもなる。
『やだなぁ……』
ふたたび画像フォルダを開けば、そこにはユーリとカナタが笑い合っているスクリーンショットが真っ先に目に入る。それは翼のお気に入りで、うっかり消してしまわないよう保護もかけている。
この時間が続けばいいと今でも思うけど……。
『これがあればいいや、うん。それ以上なんか望んでも意味ないし……』
言い聞かせるようにつぶやいて、きれいなオレンジに染まる街を見渡した。
この日、カナタは街から出なかった。
ただ、世界が暗闇に変わるまで街を眺め続けた。
物思いにふけっていたところに、突如会話のリクエストがあった。もしかして、仕事が早く終わったユーリかもと何も考えずに振り返ると、そこにはいつかのコマが細い目をさらに細めてカナタを見ていた。盗賊という身軽さを見せるためか、塔の柵に器用にしゃがみこんでいる。
『このあいだの……』
あのときはその、ごめん。微妙なお詫びを口にしかけたところで、コマが座り込んだカナタの目の前に飛び降りてくる。
『あいつ、アンチェスター山脈まで連れてったぜ』
『ありがと。喜んでた?』
『スゲー喜んでた』
よかった。明日ユーリにも教えてあげよう。そんなことを考えるカナタにコマがまた話しかける。
『そっちはパーティ組めそうか?』
『パーティはいるけど、友好度が間に合うか分かんない。そっちは金紋章、見つかった?』
『あとひとり。とりあえず3人ではマックスになってんだけどなぁ』
リアルのほうでも仲間を募ってるがなかなか見つからない。コマが困ったように頭をかいている。
『見つかっても友好度0からはキツくない?』
カナタたちは直前まで一緒に行動していたおかげで、マックスまではさほど遠くない。
『そこは、多少の無茶してでもなんとかするさ』
『無茶? 闇の洞窟にでも行くとか?』
友好度は一緒に行動するのはもちろん、戦闘を繰り返せばどんどん上がっていく。闇の洞窟はモンスターの巣窟で、嫌になるほど湧いて出てくるのだ。
首を傾げたカナタに、コマがずいっと顔を近づけた。
『おもしろい作戦あるんだけど聞きたい?』
いたずらっ子のような顔は作っているのだろうが、どこか構えてしまう。
『……教えてくれるの?』
『ま、出し抜く意味もないしな』
先着順でもなさそうだし。コマが笑うと、尖った八重歯が覗いた。
『そんかし、条件つき』
『条件?』
身構えたカナタに大したことじゃないと、手のひらがヒラヒラしている。
『もし、俺が間に合わなくて、あんたが間に合ったら、そこに何があったか教えること』
そのくらいいいだろう? コマの条件はなんら不思議じゃない。逆の立場ならカナタだって、最後の伝説の結末が知りたいと思う。
それでも、そのためにはゲーム外で繋がらなければならない。
『どうやって教えるの?』
『そりゃウィスコードとかじゃね?』
やっぱりそうなるか。
翼の中の葛藤が激しく争いを繰り返す。
別に伝説が見つからなくてもいいじゃないかという声と、伝説を見つけてユーリを喜ばせたいという声。
『……テキストと画像とかでも良かったら……』
実際に交流する訳じゃなくて、あくまでも事務的なやり取りなら。望むものが手に入れば、カナタは不要だろうと提案する。
『……もしかして、女の子だったりする? 別にそこまで警戒しなくても、悪さしねぇよ?』
そうくるか。けど、勘違いしたならちょうどいい。
『理由は言えないけど、それでもいいなら、もしたどり着けたらデータ共有するよ』
コマがジッとカナタを見つめている。自分が持つ情報を渡してもいいか思案しているのだ。
カナタとしては、ダメだと言われればそれでいいわけで、気分は楽だ。
『それでいい。メッセするからフレンド許可して』
『分かった』
やがて、通知と一緒にコマのウィスコードIDが送られてきた。今度は、そこに翼のROM専アカウントでフレンド申請をする。
『進展あったら教えろよ。サ終まであとちょっと、情報はお互い多いほうがいいだろ?』
ニカっと笑うコマに頷いて、協力を約束する。情報はカナタたちが進むうえでも大切だ。
『で、俺がやろうとしてる友好度の上げかただけどな?』
コマの言葉に耳をすませる。
『全装備外して最果ての森に行く』
たった一文なのに一瞬なにを言われたのか分からなくなった。
『……は……?』
装備なしで最果ての森?
最果ての森は高難易度の敵が出てくるエリアで、カナタたちカンストプレイヤーでさえ、油断するとゲームオーバーになってしまう。そこで、装備を外す?
『いやいやいやいや! 無理だろ!?』
一気に現実に戻って叫んだカナタに、コマが爆笑している。もしかすると、からかわれたのだろうか。
『だから無茶だって言ったじゃん。けど、難易度が高いほど友好度の上げ幅が大きくなるのは実証済みなんだ。動画とかでもやってたヤツいてたぜ』
コマの説明に、ゴクリと喉が鳴った。カナタたちは、コマに比べると合流さえできれば友好度アップには余裕がある。それでも、あの水路の先になにがあるか分からない状態では、できるだけ早く動けるようになりたいところだ。
『ありがと。ほかのメンバーにも提案してみる』
『がんばれよ。じゃ、俺はもうひとり確保しに行くわ』
『ん。コマさんもがんばって』
『……』
『? どうかした?』
『”さん”はやめよっか?』
さん? コマ、さん?
『あ……なんか、そんなキャラいてたね』
少し古いキャラクターを多分同時に思い浮かべ、微妙な顔を見合わせた。一応まだ初対面に近いし、敬称をつけようと思っただけなのだが。
『じゃ、コマ。よい旅を』
『おぅ! カナタもな』
ニカッと笑ったコマが手を振って、塔からひらりと飛び降りた。身軽な盗賊ならではのアクションだ。
ぼんやりしていた気分がどこか晴れ晴れとしたような気がする。
『早く明日にならないかなぁ』
明日には4人揃って、先に進むことができる。
だけど進むということは、終わりも近づくことだ。
なにをしても、結局は終わりへの行程にすぎない。
みんなでの探索は楽しみだし、ワクワクもしている。だけど、無性に寂しくもなる。
『やだなぁ……』
ふたたび画像フォルダを開けば、そこにはユーリとカナタが笑い合っているスクリーンショットが真っ先に目に入る。それは翼のお気に入りで、うっかり消してしまわないよう保護もかけている。
この時間が続けばいいと今でも思うけど……。
『これがあればいいや、うん。それ以上なんか望んでも意味ないし……』
言い聞かせるようにつぶやいて、きれいなオレンジに染まる街を見渡した。
この日、カナタは街から出なかった。
ただ、世界が暗闇に変わるまで街を眺め続けた。
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