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5月2日 最後の伝説
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『セーブできへんな』
『けど、もう行くしかないね』
準備も対策もなにもしようがない。扉にぶつかると、効果音とともに大きな扉が開いた。
「でんせつのしゅうえんにようこそ」
玉座のような椅子に誰かが座っている。その誰かは、椅子から立ち上がって4人に近づいた。
「このせかいのはじまりとおわりを、ともにむかえよう」
文字がぽつぽつと流れていく。読み終えたところで、画面が切り替わった。あきらかに戦闘開始と思われるメロディが勇ましく流れる。画面の上半分には、敵らしき姿がこちらを向いていた。ただ、それは二足歩行で両手両脚に人らしき頭があって……。
『モンスターっていうより人間みたいやな』
ユーリの疑問にみんなが同意する。いつもなら頷くアクションをするところだが、ドッとのキャラクターは一定の角度にしかならず、それも移動のときしか変わらないためしゃべることでしか意思疎通ができない。
「わたしがさいごのでんせつだ」
それは人間で男性だった。カナタたちのドットキャラクターと比べると、ユーリと同じくらいの背丈で、横幅はやや太り気味を描写しているように見える。モンスターというには、怖さのようなものは表現されておらず、身につけている衣類も現実世界の服装に見える。
『最後の、伝説……』
それは誰がつぶやいたのだろう。戦闘用のメニューが表示され、もっとも速いウワバミが一歩前に出ていた。そして、敵らしき男性のパラメーターには――。
『tsuki!?』
いくつもの悲鳴が重なる。
最後の伝説のボスは、開発者のtsuki本人なのだ。
最後の伝説・伝説の終焉は、tsukiを倒すことで完成する。
『勝手が分からんが、とにかく全力で倒しにいくで良いか?』
ウワバミの硬い問いかけに、全員で了解を返した。正解なんか分からないのだ。自分たちのレベルもどのくらいなのか、情報が存在しない。
ウワバミが勘で使った魔法がtsukiにダメージを与える。次いで、物理攻撃のミキニャ、念のためカナタは全員の防御力を上げ、最後にユーリがまた物理攻撃を選ぶ。クリティカルヒットが出たらしい効果に、tsukiが点滅をする。
どんな攻撃もダメージを与えられるし、どんな攻撃もダメージを食らう。つまり属性という概念がない戦闘だ。やがて、tsukiの身体がグラデーションのように消えていった。
『倒したのニャ?』
戦闘画面から元のフィールドに戻ると、玉座の前に倒れたtsukiが小さく動いている。
「ここまできてくれて、ありがとう」
tsukiの身体がキラキラと光る。そして、天に昇るように消えていった。
――でんせつのきろくをてにいれた。
その文字を消すように、ドットの荒い画像が消しゴムをかけたように徐々に消えていく。
『あ、戻った』
そこは、もとの隠し部屋の奥だった。いつものアバターが動くことをみんな自然と確認している。それから胸元に戻ってきた金紋章――それは、羽根のようなデザインが追加されたバージョンのままだった。同じ金紋章のプレイヤーがいれば、その人もこの場所を見つけたということなのだ。
『ドアや』
指差したユーリが部屋の奥へ進む。元々掛け軸らしきものが飾られていた場所に、いつのまにか扉が現れていた。まっさきに走ったミキニャが扉の向こうに消える。そのあとにウワバミ、そしてユーリ……。
カナタは動けずにいた。
これで、本当に終わってしまう。
消えそうなユーリの背中が、直前で翻った。
『カナタ。行かへんの?』
振り向いたユーリが、迎えに来たとばかりにカナタのほうへ戻ってくる。その手が、誘うように伸ばされた。
『……行くよ……けど、先に行ってて』
カナタにはまだ心の準備が必要だ。だって、終わってしまえばもうなにもない。ただ、最後の日を待つだけになってしまう。
『カナタと一緒に見たいから、一緒に待っとってえぇかな?』
『なんで……?』
ユーリがもっとも強く、最後の伝説を探したいと願っていたはずなのに。
『カナタは、最後まで一緒におるって約束してくれたから、そやから一緒に見たい』
ちがう。伝説を探しに行く交換条件のように、カナタからユーリにそう頼んだ。最後までただ一緒にいたかったから。
『俺、カナタとおりたいねん』
『それ……は』
どういう意味で、なのだろう。怖くて聞き返すこともできず、翼は必死で深呼吸を繰り返していた。
『この奥……見ても、サ終までログインしてくれるの?』
『あたりまえやん。最後まで一緒におってや』
いつのまにか、一緒にいたいという欲求がユーリからカナタに向けられている。
『ふたりとも、入らんのか? ネタバレはせんが見てきたほうがいいと思うぞ』
興奮もあらわに戻ってきたウワバミが、いつもより早口にそう言った。
『心の準備しとってん』
『なんじゃそれは』
にこにこと応えたユーリに、ウワバミが笑う。ミキニャも両手足をバタバタさせながら戻ってきた。
『ユーリ! 最後の伝説探しに誘ってくれてありがとニャ! サ終は嫌だけど、これが見れただけでもミキニャは幸せニャ!』
一気にまくし立てたミキニャの声は、やや鼻声だ。感動のあまり泣いていたのかも知れない。
『さすがに部屋から出てこいと、さっきからばあさんに怒られておってな……儂はいったん撤退じゃ』
『ミキニャもそろそろ寝なきゃニャ』
いつのまにか深夜もとうに過ぎている。食事も忘れてプレイしていたのだ。
『これからは自由に出入りできそうじゃし、儂はいったんログアウトするが……最終日にはみなとあいさつをさせてくれるかの?』
『ミキニャも同じくニャ』
合間を見てまたここに来る。ふたりがそう口を揃えた。
最後まで一緒にいたい。みんなにそう声をかけられ、翼は泣きそうになっていた。こんなに別れを惜しむような、惜しまれるような経験なんかこれまでなかった。
『では、5月10日、アンスターチェ山脈で会おう』
ウワバミが静かに宣言する。
『……うん……』
声が詰まりそうになりながらも、カナタははそれだけをやっと口にした。
ウワバミが消える。
『約束ニャ。絶対くるニャ』
ミキニャが消える。
『けど、もう行くしかないね』
準備も対策もなにもしようがない。扉にぶつかると、効果音とともに大きな扉が開いた。
「でんせつのしゅうえんにようこそ」
玉座のような椅子に誰かが座っている。その誰かは、椅子から立ち上がって4人に近づいた。
「このせかいのはじまりとおわりを、ともにむかえよう」
文字がぽつぽつと流れていく。読み終えたところで、画面が切り替わった。あきらかに戦闘開始と思われるメロディが勇ましく流れる。画面の上半分には、敵らしき姿がこちらを向いていた。ただ、それは二足歩行で両手両脚に人らしき頭があって……。
『モンスターっていうより人間みたいやな』
ユーリの疑問にみんなが同意する。いつもなら頷くアクションをするところだが、ドッとのキャラクターは一定の角度にしかならず、それも移動のときしか変わらないためしゃべることでしか意思疎通ができない。
「わたしがさいごのでんせつだ」
それは人間で男性だった。カナタたちのドットキャラクターと比べると、ユーリと同じくらいの背丈で、横幅はやや太り気味を描写しているように見える。モンスターというには、怖さのようなものは表現されておらず、身につけている衣類も現実世界の服装に見える。
『最後の、伝説……』
それは誰がつぶやいたのだろう。戦闘用のメニューが表示され、もっとも速いウワバミが一歩前に出ていた。そして、敵らしき男性のパラメーターには――。
『tsuki!?』
いくつもの悲鳴が重なる。
最後の伝説のボスは、開発者のtsuki本人なのだ。
最後の伝説・伝説の終焉は、tsukiを倒すことで完成する。
『勝手が分からんが、とにかく全力で倒しにいくで良いか?』
ウワバミの硬い問いかけに、全員で了解を返した。正解なんか分からないのだ。自分たちのレベルもどのくらいなのか、情報が存在しない。
ウワバミが勘で使った魔法がtsukiにダメージを与える。次いで、物理攻撃のミキニャ、念のためカナタは全員の防御力を上げ、最後にユーリがまた物理攻撃を選ぶ。クリティカルヒットが出たらしい効果に、tsukiが点滅をする。
どんな攻撃もダメージを与えられるし、どんな攻撃もダメージを食らう。つまり属性という概念がない戦闘だ。やがて、tsukiの身体がグラデーションのように消えていった。
『倒したのニャ?』
戦闘画面から元のフィールドに戻ると、玉座の前に倒れたtsukiが小さく動いている。
「ここまできてくれて、ありがとう」
tsukiの身体がキラキラと光る。そして、天に昇るように消えていった。
――でんせつのきろくをてにいれた。
その文字を消すように、ドットの荒い画像が消しゴムをかけたように徐々に消えていく。
『あ、戻った』
そこは、もとの隠し部屋の奥だった。いつものアバターが動くことをみんな自然と確認している。それから胸元に戻ってきた金紋章――それは、羽根のようなデザインが追加されたバージョンのままだった。同じ金紋章のプレイヤーがいれば、その人もこの場所を見つけたということなのだ。
『ドアや』
指差したユーリが部屋の奥へ進む。元々掛け軸らしきものが飾られていた場所に、いつのまにか扉が現れていた。まっさきに走ったミキニャが扉の向こうに消える。そのあとにウワバミ、そしてユーリ……。
カナタは動けずにいた。
これで、本当に終わってしまう。
消えそうなユーリの背中が、直前で翻った。
『カナタ。行かへんの?』
振り向いたユーリが、迎えに来たとばかりにカナタのほうへ戻ってくる。その手が、誘うように伸ばされた。
『……行くよ……けど、先に行ってて』
カナタにはまだ心の準備が必要だ。だって、終わってしまえばもうなにもない。ただ、最後の日を待つだけになってしまう。
『カナタと一緒に見たいから、一緒に待っとってえぇかな?』
『なんで……?』
ユーリがもっとも強く、最後の伝説を探したいと願っていたはずなのに。
『カナタは、最後まで一緒におるって約束してくれたから、そやから一緒に見たい』
ちがう。伝説を探しに行く交換条件のように、カナタからユーリにそう頼んだ。最後までただ一緒にいたかったから。
『俺、カナタとおりたいねん』
『それ……は』
どういう意味で、なのだろう。怖くて聞き返すこともできず、翼は必死で深呼吸を繰り返していた。
『この奥……見ても、サ終までログインしてくれるの?』
『あたりまえやん。最後まで一緒におってや』
いつのまにか、一緒にいたいという欲求がユーリからカナタに向けられている。
『ふたりとも、入らんのか? ネタバレはせんが見てきたほうがいいと思うぞ』
興奮もあらわに戻ってきたウワバミが、いつもより早口にそう言った。
『心の準備しとってん』
『なんじゃそれは』
にこにこと応えたユーリに、ウワバミが笑う。ミキニャも両手足をバタバタさせながら戻ってきた。
『ユーリ! 最後の伝説探しに誘ってくれてありがとニャ! サ終は嫌だけど、これが見れただけでもミキニャは幸せニャ!』
一気にまくし立てたミキニャの声は、やや鼻声だ。感動のあまり泣いていたのかも知れない。
『さすがに部屋から出てこいと、さっきからばあさんに怒られておってな……儂はいったん撤退じゃ』
『ミキニャもそろそろ寝なきゃニャ』
いつのまにか深夜もとうに過ぎている。食事も忘れてプレイしていたのだ。
『これからは自由に出入りできそうじゃし、儂はいったんログアウトするが……最終日にはみなとあいさつをさせてくれるかの?』
『ミキニャも同じくニャ』
合間を見てまたここに来る。ふたりがそう口を揃えた。
最後まで一緒にいたい。みんなにそう声をかけられ、翼は泣きそうになっていた。こんなに別れを惜しむような、惜しまれるような経験なんかこれまでなかった。
『では、5月10日、アンスターチェ山脈で会おう』
ウワバミが静かに宣言する。
『……うん……』
声が詰まりそうになりながらも、カナタははそれだけをやっと口にした。
ウワバミが消える。
『約束ニャ。絶対くるニャ』
ミキニャが消える。
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