サ終直前のネトゲで推しに急接近されましたが、現実の自分がクソダサ陰キャのため最後の思い出だけ作って逃げようと思います

二一

文字の大きさ
34 / 72
5月5日 サ終のあと

3

しおりを挟む
 これ、ゲームオーバーだよな。とにかく、これでログアウトできるはず……。
 グラグラとする脳内でなんとか目を開けると、そこにはあり得ない光景が広がっていた。
 ――探索者たちよ! よくぞ集まってくれた!
 朗々とした強い声がマイクもないのに広場に響いている。さっきの苦しさは消えていて、周囲ではたくさんの探索者たちが歓声をあげている。
 ――建国王! バンザイ!
『……なんでだよ!?』
 カナタの悲鳴には誰も反応しない。周囲の探索者たちはどれもNPCだからだ。
 これは、ARK LEGENDのオープニングが終わったあとのシーンだ。今まさに建国王の演説がなされ、このあとやっとプレイヤーは自由に動くことができる。
 そう、カナタの冒険はすべてリセットされているのだ。
 演説が終わり、NPCたちがちりぢりになっていく。ここから、プレイヤーは城内で、探索のための装備などを受け取るのだ。
『とにかく、進まなきゃ……』
 この布の服の状態では戦うこともできない。城に行けばとりあえず神官服と聖なる杖が手に入る。カナタの知るARK LEGENDであるなら……。
 ハーミット城とその城下町なら、マップがなくても迷わず移動できる。とにかく、記憶を頼りに装備を手に入れ、最初のイベントとなる盗賊を追って地下水路へと進んでいった。このイベントを終えて酒場に行けるようになればパーティを組める。初期レベル時の探索で、パーティはなくてはならない存在だ。
 酒場に行けばきっとカナタと同じような状況のプレイヤーと出会えるはず。その一心でカナタは特に考えることもなく、地下水路を進んでいった。
 最初に遭遇した敵は、初期レベルでも一撃で倒せるような雑魚だ。
『え……これ……ターン制じゃない!?』
 神官であるカナタの速度パラメータは高くない。相手の攻撃を待ってからと構えていたところに、連続で攻撃が襲ってきた。
 攻撃を受けた皮膚が赤く爛れ、ヒリヒリとした痛みまで感じる。これまでなら、ボタンひとつで呪文が発動していたのが、杖のアクションと詠唱を組み合わせなければいけない。もちろん、敵の攻撃からも自分の足を動かして逃げるし、強いダメージを受ければはすぐには動けない。
 リアルすぎる――。
 なんとか敵を撃退して、わずかな金貨を拾った。
『ケガ、痛いけどこのくらいで薬草とか使ってちゃすぐなくなるよな……』
 なるべく多くの敵を倒さなければレベルは上がらない。だけど、このリアルな戦闘は、すでに恐怖のほうが先に立ってしまう。
『とにかく、盗賊を倒したらパーティ組めるし……がんばらなきゃ……』
 MPだってすぐになくなる。呪文ばかりも使えない。必死で振り回した杖で動かなくなるまで敵を殴る。次第に勝手を掴んでスムーズになると、これがレベルアップしたということかとぼんやり考えた。
 この先にいるのはモンスターじゃなくて、敵でも人間の形をしている。
『進まなきゃ……』
 怖い。これまで、完全に別個のものとしてカナタを動かしていた。今は、翼という存在がなくなって、カナタがすべてになっている。
 ずっと、ゲームの世界にいたいと思っていたはずなのに、それはあくまでも田中翼という安全な世界があってこその願望だったのだ。
 自分は今、どうなっているのだろう。
 突然リセットされたゲームで、終わることもできずにいる。
 もしかすると、このままずっと……?
『とにかく、行くんだ。だれかに会わなきゃ……』
 奥歯を噛んで、カナタは盗賊が逃げ込んだ扉を開け放った。
 ――へっ、しょぼい探索者がひとりかよ。返り討ちにしてやらぁ!
 口上とともに盗賊が向かってくる。盗賊は人間だから神官が使う光の呪文はあまり効かない。そして、神官の攻撃力もさしてダメージを与えられないのだ。
 ここに来るまでに集めたアイテムから、火属性のダメージを与える宝玉を取りだし、惜しみなく投げつける。最初のボスということで、5ターンもあれば倒せたはずだ。
 盗賊のナイフがカナタの腕を薙ぐ。焼けるような痛みと、飛び散った血液に怯みそうになりながも足を踏ん張った。
 火の宝玉はあとひとつ。叫んだ盗賊が地面に倒れる。まだ、起き上がってくる。
 ――やるじゃねぇか。
 このセリフが出れば、次に必殺技がくる。
 身構えたカナタに、ナイフの連続技が襲った。痛みにめげそうになるのをなんとか耐え、致命傷を避けるように腕で顔を庇った。
 回復呪文を唱え自らの傷を治す。すぐにまたナイフの攻撃を受け、泣き叫びたくなるのを必死で耐えた。
『ぅ……わぁああああ!』
 もう倒れてくれ。必死に盗賊に向かって杖を振り下ろす。
 やがて、盗賊が動かなくなった。カナタは肩で息をしていて、ボロボロになった衣服は無残なものだ。
 呆然としたまま城の役人に盗賊を引き渡し、王から多大な恩賞を受け取った。この金を元手に街で装備を調えるのだ。
『酒場に行かなきゃ……』
 やっと城下町に出れば、すでにあたりは日が暮れて暗闇が支配していた。現実とはちがう頼りない明かりのなかを、酒場へと急ぐ。
 ――よお、兄ちゃん新人か?
 陽気な酒場のオヤジが声をかけてくる。
『仲間を探したいんだ』
 ――探索かい? ちょっと待ちな。
 オヤジが奥から使い込まれた羊皮紙の束を持ってくる。そこには、仲間を探す探索者の情報が書かれているはずだ。
 ――すまねぇな。今、仲間を探しているやつはいねぇみたいだ。
『ウソだろ!?』
 そんなことあるはずがない。無限にいるプレイヤーがひとりも存在しないなんて――。
『あ……』
 不意に降ってきた考えに、カナタは動けなくなる。
 ARK LEGENDは18時でサービス終了となった。実際、カナタの目の前でプレイヤーたちは次々と消えていった。
 この世界にいるプレイヤーがカナタひとりになったのだとすれば?
『そんな……そんなの……』
 どうすればいいのだ。探索に出て伝説を探す? ひとりで?
『無理だよ……そんなの何年かかると……』
 どうすることもできず、カナタはぼんやりと酒場をあとにした。薄暗い街は静かにたたずんでいる。
『どこに行けば……』
 実際のストーリーなら、プレイヤーは建国王の伝説を探しに装備を調えてフィールドに出る。でも、今のカナタはひとりきりで、ストーリーを進めたところでどうにかなる保証もない。
 ダメージを受ければ痛みを感じ、殴った感触もリアルだ。
 無理だ。カナタにはなにも選べない。
 ふらふらと歩く内に宿屋の明かりが目に入った。
『寝て起きたら……もしかしたら』
 そんな藁にも縋る思いで、カナタは宿屋の扉を開いた。
 ――いらっしゃい。泊まるかい?
『お願いします』
 ――ごゆっくり。
 2階の客室に入り、キレイに整えられたベッドに倒れ込む。途端に疲れのようなものがどっと襲いかかってきた。
 起きたら自分の部屋だったりするかも……そんな淡い期待のまま、カナタは眠りについた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。 誰の心にも触れたくない。 無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。 その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。 明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、 偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。 無機質な顔の奥に隠れていたのは、 誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。 気づいてしまったから、もう目を逸らせない。 知りたくなったから、もう引き返せない。 すれ違いと無関心、 優しさと孤独、 微かな笑顔と、隠された心。 これは、 触れれば壊れそうな彼に、 それでも手を伸ばしてしまった、 不器用な男たちの恋のはなし。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」 身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。 死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。 カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。 「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」 献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。 これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

処理中です...