サ終直前のネトゲで推しに急接近されましたが、現実の自分がクソダサ陰キャのため最後の思い出だけ作って逃げようと思います

二一

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5月5日 サ終のあと

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 これ、ゲームオーバーだよな。とにかく、これでログアウトできるはず……。
 グラグラとする脳内でなんとか目を開けると、そこにはあり得ない光景が広がっていた。
 ――探索者たちよ! よくぞ集まってくれた!
 朗々とした強い声がマイクもないのに広場に響いている。さっきの苦しさは消えていて、周囲ではたくさんの探索者たちが歓声をあげている。
 ――建国王! バンザイ!
『……なんでだよ!?』
 カナタの悲鳴には誰も反応しない。周囲の探索者たちはどれもNPCだからだ。
 これは、ARK LEGENDのオープニングが終わったあとのシーンだ。今まさに建国王の演説がなされ、このあとやっとプレイヤーは自由に動くことができる。
 そう、カナタの冒険はすべてリセットされているのだ。
 演説が終わり、NPCたちがちりぢりになっていく。ここから、プレイヤーは城内で、探索のための装備などを受け取るのだ。
『とにかく、進まなきゃ……』
 この布の服の状態では戦うこともできない。城に行けばとりあえず神官服と聖なる杖が手に入る。カナタの知るARK LEGENDであるなら……。
 ハーミット城とその城下町なら、マップがなくても迷わず移動できる。とにかく、記憶を頼りに装備を手に入れ、最初のイベントとなる盗賊を追って地下水路へと進んでいった。このイベントを終えて酒場に行けるようになればパーティを組める。初期レベル時の探索で、パーティはなくてはならない存在だ。
 酒場に行けばきっとカナタと同じような状況のプレイヤーと出会えるはず。その一心でカナタは特に考えることもなく、地下水路を進んでいった。
 最初に遭遇した敵は、初期レベルでも一撃で倒せるような雑魚だ。
『え……これ……ターン制じゃない!?』
 神官であるカナタの速度パラメータは高くない。相手の攻撃を待ってからと構えていたところに、連続で攻撃が襲ってきた。
 攻撃を受けた皮膚が赤く爛れ、ヒリヒリとした痛みまで感じる。これまでなら、ボタンひとつで呪文が発動していたのが、杖のアクションと詠唱を組み合わせなければいけない。もちろん、敵の攻撃からも自分の足を動かして逃げるし、強いダメージを受ければはすぐには動けない。
 リアルすぎる――。
 なんとか敵を撃退して、わずかな金貨を拾った。
『ケガ、痛いけどこのくらいで薬草とか使ってちゃすぐなくなるよな……』
 なるべく多くの敵を倒さなければレベルは上がらない。だけど、このリアルな戦闘は、すでに恐怖のほうが先に立ってしまう。
『とにかく、盗賊を倒したらパーティ組めるし……がんばらなきゃ……』
 MPだってすぐになくなる。呪文ばかりも使えない。必死で振り回した杖で動かなくなるまで敵を殴る。次第に勝手を掴んでスムーズになると、これがレベルアップしたということかとぼんやり考えた。
 この先にいるのはモンスターじゃなくて、敵でも人間の形をしている。
『進まなきゃ……』
 怖い。これまで、完全に別個のものとしてカナタを動かしていた。今は、翼という存在がなくなって、カナタがすべてになっている。
 ずっと、ゲームの世界にいたいと思っていたはずなのに、それはあくまでも田中翼という安全な世界があってこその願望だったのだ。
 自分は今、どうなっているのだろう。
 突然リセットされたゲームで、終わることもできずにいる。
 もしかすると、このままずっと……?
『とにかく、行くんだ。だれかに会わなきゃ……』
 奥歯を噛んで、カナタは盗賊が逃げ込んだ扉を開け放った。
 ――へっ、しょぼい探索者がひとりかよ。返り討ちにしてやらぁ!
 口上とともに盗賊が向かってくる。盗賊は人間だから神官が使う光の呪文はあまり効かない。そして、神官の攻撃力もさしてダメージを与えられないのだ。
 ここに来るまでに集めたアイテムから、火属性のダメージを与える宝玉を取りだし、惜しみなく投げつける。最初のボスということで、5ターンもあれば倒せたはずだ。
 盗賊のナイフがカナタの腕を薙ぐ。焼けるような痛みと、飛び散った血液に怯みそうになりながも足を踏ん張った。
 火の宝玉はあとひとつ。叫んだ盗賊が地面に倒れる。まだ、起き上がってくる。
 ――やるじゃねぇか。
 このセリフが出れば、次に必殺技がくる。
 身構えたカナタに、ナイフの連続技が襲った。痛みにめげそうになるのをなんとか耐え、致命傷を避けるように腕で顔を庇った。
 回復呪文を唱え自らの傷を治す。すぐにまたナイフの攻撃を受け、泣き叫びたくなるのを必死で耐えた。
『ぅ……わぁああああ!』
 もう倒れてくれ。必死に盗賊に向かって杖を振り下ろす。
 やがて、盗賊が動かなくなった。カナタは肩で息をしていて、ボロボロになった衣服は無残なものだ。
 呆然としたまま城の役人に盗賊を引き渡し、王から多大な恩賞を受け取った。この金を元手に街で装備を調えるのだ。
『酒場に行かなきゃ……』
 やっと城下町に出れば、すでにあたりは日が暮れて暗闇が支配していた。現実とはちがう頼りない明かりのなかを、酒場へと急ぐ。
 ――よお、兄ちゃん新人か?
 陽気な酒場のオヤジが声をかけてくる。
『仲間を探したいんだ』
 ――探索かい? ちょっと待ちな。
 オヤジが奥から使い込まれた羊皮紙の束を持ってくる。そこには、仲間を探す探索者の情報が書かれているはずだ。
 ――すまねぇな。今、仲間を探しているやつはいねぇみたいだ。
『ウソだろ!?』
 そんなことあるはずがない。無限にいるプレイヤーがひとりも存在しないなんて――。
『あ……』
 不意に降ってきた考えに、カナタは動けなくなる。
 ARK LEGENDは18時でサービス終了となった。実際、カナタの目の前でプレイヤーたちは次々と消えていった。
 この世界にいるプレイヤーがカナタひとりになったのだとすれば?
『そんな……そんなの……』
 どうすればいいのだ。探索に出て伝説を探す? ひとりで?
『無理だよ……そんなの何年かかると……』
 どうすることもできず、カナタはぼんやりと酒場をあとにした。薄暗い街は静かにたたずんでいる。
『どこに行けば……』
 実際のストーリーなら、プレイヤーは建国王の伝説を探しに装備を調えてフィールドに出る。でも、今のカナタはひとりきりで、ストーリーを進めたところでどうにかなる保証もない。
 ダメージを受ければ痛みを感じ、殴った感触もリアルだ。
 無理だ。カナタにはなにも選べない。
 ふらふらと歩く内に宿屋の明かりが目に入った。
『寝て起きたら……もしかしたら』
 そんな藁にも縋る思いで、カナタは宿屋の扉を開いた。
 ――いらっしゃい。泊まるかい?
『お願いします』
 ――ごゆっくり。
 2階の客室に入り、キレイに整えられたベッドに倒れ込む。途端に疲れのようなものがどっと襲いかかってきた。
 起きたら自分の部屋だったりするかも……そんな淡い期待のまま、カナタは眠りについた。
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