サ終直前のネトゲで推しに急接近されましたが、現実の自分がクソダサ陰キャのため最後の思い出だけ作って逃げようと思います

二一

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5月6日 再会と戻れない旅

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 夢の中で、コンビニのレジにアレックスが並んでいる。
 あ、夢だ。そう理解しながらも、翼はアレックスのうしろに並んだ。
 アレックスはいくつかのパンと、レジでコーヒーを頼んでいる。
 ――ありがとうございました。
 レジのスタッフがにこやかにアレックスを見送る。その後ろ姿を、翼はぼんやりと眺めていた。
 ――次のかた、どうぞ。
 呼ばれてレジへと進む。翼の手には、いつもと同じように紙パックの麦茶と、冷凍食品の入ったカゴがあった。
 会計を済ませ、コンビニの自動ドアを外に出る。
 見上げた空は、いつかのように青くて……。

『なんで……』
 目覚めた天井は見慣れない色で、そこがゲームの世界の宿屋なのだとショックを受けた。翼はカナタという存在になってしまっている。
 ――よく眠れましたか? いってらっしゃいませ。
 容赦なく見送られ、宿の外に出れば、そこは活気ある城下町だ。NPCの住人が行き交い、威勢のいいかけ声が響いている。
『もっかい酒場行ってみよう』
 それ以外の手段も思いつかず、カナタは明るい空のした、トボトボと酒場に向かった。
 現実の翼は今、どうなっているのだろう。不安が次々と襲いかかってくるのに、どうすることもできない。
 酒場では昼間のNPCが笑いざわめいている。オヤジに仲間を頼んでも、やっぱり答えは変わらなかった。
 空いている椅子に座り、ぼんやりとNPCの会話に耳を傾ける。西の洞窟でモンスターが大発生している話。遠く離れた海岸に難破船が漂着した話。どれもが、このあとの探索のヒントだ。
 進むべきか、留まるべきか。
『カナタ!』
 不意に呼ばれ、重い衝撃が肩にかかった。
 見上げるとそこには――。
『ユーリ……? なんで……』
 数日前、別れたときと同じ姿のユーリが必死の形相でカナタの肩を掴んでいた。
『よかった! 会えた!』
 ユーリがカナタを抱き締めている。それはずしりと重くて、温かくて。
 おかしい。戦闘じゃなくて、ただ移動しているだけでも感覚があるなんて。
『なぁ、ゲームが変なんだ……最初からまた始めてるみたいで……けど、ダメージ受けたら痛くて……メニューも開けなくて、俺……』
 ユーリに抱き締められたまま、呆然とつぶやく。安心と疑問が同時に生まれて、うまく考えがまとまらない。
 どうしてユーリがここにいるのだろう。
『カナタ、落ち着いて聞いて欲しい』
 やっとカナタを解放したユーリが、真剣な顔で見つめている。
『今、この世界は新しいサーバーに移植されたARK LEGENDなんだ』
『え、でも……次に発売されるのはⅡで、ちがうシステムになるって……』
『その通り。だから、こっちはボツになったほうのテストゲームなんだ。だから、ストーリーは同じものが使われてる』
 言葉は理解できるのに意味がわからなくて、カナタは縋るようにユーリを見つめた。
『このゲームはARK LEGENDチームの1人、瀬古さんって人が進めてたほうのプロジェクトで、最後まで槻間さんのⅡのプロジェクトとぶつかってたんだけど、Ⅱが採用されて……』
『待って! ARK LEGENDチームって? それに、ユーリの……なんか言葉遣いが……』
 ハッとしたように頭を掻いたユーリが、少しだけ笑った。どこか懐かしいユーリの笑顔に、急に涙がこぼれてしまう。
『カナタ!? どうしたん!? どっか調子悪いん!?』
 焦ったユーリは関西弁で、カナタの知るユーリで、それに安心してしまった。涙がもう止まらない。ひとりじゃない。
 とにかく、ちょっと落ち着こう。そうユーリが手を引き、カナタをいつかの塔へと連れて行く。今のカナタのレベルでは入れなかった塔だ。
『俺は元のレベルでログインさせてもらってん』
 街を見下ろしながらやっと涙が止まったカナタに、ユーリが笑いかける。
『俺、実はARCの社員やねん』
『うそ!?』
『tsukiさんに憧れて入社した。ARK LEGENDのチームちゃうけど、ゲーム開発しとる』
 ポカンと見つめるカナタに、照れくさそうなユーリがいる。その顔がまた真顔になった。
『これ、ホンマは配信されへんはずやってん。tsukiさんが進めてたⅡは完全新作で、ゲームシステムもおんなじ感覚的VRやけど、根本的なとこは全然ちゃうやつなんや』
『え、じゃあ今俺がやってるのが感覚的VR? だから痛い?』
『そうや。カナタが新しく買ったヘッドセット……バウティスタのpro7はアップデートで新型VRに対応できるやつやねん』
 頭がついていかない。
『pro7がいきなり自動アップデートされて、それは瀬古さんが勝手に進めたやつで……ボツになった移植案を無理やり配信するつもりちゃうかってなって……サーバ自体を止めなあかんからって緊急終了が決まったんや』
 ユーリはカナタが件のヘッドセットを使っていることを知って、だからサ終前にこっそり教えるつもりだった。すぐにヘッドセットの使用を止めてログアウトするようにと――。
 だけど、カナタはフレンドを外してしまって。
『ごめん……』
『ええねん! ちゃんと説明できへんかった俺が悪いんやし』
『悪くない! 俺が勝手に……』
 そう、勝手に苦しくなって罪悪感で逃げただけだ。
 そこで、思い出してしまった。自分はとんでもないカミングアウトをして逃げたんだった。焦りでおかしな動きになってしまう。
『今、槻間さんたちがこのゲームからプレイヤーをログアウトさせるようにがんばってるんや。向こうからはゲーム内のプレイヤーの状況がわからへんから、俺が槻間さんに頼んで、ログインさせてもらっとる。プレイ中は外との通信はできへんけど俺のはログアウトもできる。そやから、カナタを全力でサポートできるんや』
 だから、もうちょっとがんばって。
 ログインして城下町を一通り回ったけれど、カナタの他には取り残されたプレイヤーはいないようだった。ユーリが一生懸命状況を説明してくれる。
 真剣なユーリに、自分勝手な羞恥で戸惑ってしまった自分が恥ずかしくなった。きっと今はそれどころじゃないのだ。
『うん。ありがとう。俺、すごい不安だったけど、ユーリがきてくれてよかった……』
 また熱を持ち始めた瞼を慌てて押さえる。
『やけど、不公平やから俺もちゃんと言うわ』
『え? なにを……?』
 真剣な顔のままユーリがぐっと近づく。焦って後ずさったものの、そこは塔の壁でみるみる逃げ場をなくしてしまう。
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