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5月2日 最後の伝説
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『よ! おつかれ。最後の伝説回収すげぇじゃん』
マシンガンのように飛び込んできたコマの声は、ゲーム内のコマとほとんど変わらない。
『ありがと。コマのおかげだったよ。あの装備0作戦あたりだった』
『死ななかった?』
『大毒蛾出たときはヤバかったけど』
ほんの数時間前のことなのに、はるか昔のことみたいだ。数時間前はユーリとも笑い合っていて……。
『……なんかあった?』
『え?』
『いや、最終日までログインしねぇとか言ってたじゃん』
最後の伝説の衝撃からじゃないなら、ほかに理由があるんだろう? コマがどこか心配そうに聞いてくる。
コマはユーリとはまた少し違うタイプのコミュニケーション強者だ。翼なら、ほかの誰かの様子がおかしくても、こんな風にさらっと聞いたりできない。
『……コマは……フレンドとリアルで会ったことある?』
『オフ会ってことか?』
『そういうの。一対一とかも』
『まぁ、何回かあるぜ?』
『そのときにさ、アバターとむっちゃイメージ違ったりしたときって、やっぱりガッカリした?』
『いいなぁって思った子のときは正直ガッカリしたこともある。普通に友だちみたいなノリのときはなんとも思わねぇけどな』
ガッカリして、その後はどうなったのだろう。
ただ、それを聞く勇気は翼にはない。
『もしかして、メンバーから会おうって言われた?』
コマは鋭くて困る。でも、そうやって聞いてくれることが少し救いになった。
『会おうじゃないけど、サ終しても繋がろうって言われて……断った』
通話の向こう側で、コマがほんの少し笑った。それは、嫌な感じの笑い方じゃなくて、しょうがないなぁとでもいうような、柔らかい笑いだ。
『カナタ、その子のこと好きだったんだな』
思わぬ断定に言葉に詰まった。
『あのアバター。リアルの自分と全然違う感じ? だから嫌われたら困るから会えねぇんだろ?』
だって、ただの友だち感覚なら見た目も年齢もどうでもいいじゃないか。
予想外のショックに、頭がクラクラする。カナタが、翼が、ユーリを好きだった? 翼が好きなのはアレックスで、ユーリはただアレックスにそっくりなだけで――。
『さっきの話だけど、ガッカリしたけどしゃべったらやっぱりゲームの中と一緒で楽しくて、そのあと付き合ったぜ? まぁ、遠距離だったから自然消滅みたいになっちまったけど……』
少し自嘲気味につぶやいたコマが、だから見た目のギャップはそんなに気にしなくていい。そう付け加えた。
『カナタ?』
『俺……ほかに好きな人がいるって言って、そのままフレンド解除してログアウトした……』
『は?』
『だって、元々その人のアバターが、一目惚れした人と似てたから……っていう』
ずっと、敵わない恋をアレックスにしているつもりだった。
だけど、コマに言われて気づいてしまった。だって、翼はユーリに嫌われたくないと思った。友だちならそんな風に考えることだって変なのに。
『あー……ってことは、もう繋がり切れてるんだ』
『うん』
ヘッドセットに沈黙が流れる。
『その子の名前と特徴教えろよ。確率はほぼないだろうけど、もし会えたら繋げてやるし』
明るくなったコマの声に、ギュッと奥歯を噛んだ。あんなこと言ってどんな顔をして――。
『ううん。もうこのままでいいんだ。ありがとう』
『なんで?』
『結構、気持ち悪いこと言ったし、多分もう繋がりたいとか思ってないと思う』
男が好きな男に好かれているなんて、冗談じゃないと思うはずだ。
『なんか、カナタって自己肯定感低そう』
直球がグサッと翼に刺さる。正しすぎてなにも反論できない。
『ま、カナタがそれでいいんだったらいいと思うぜ。けど、サ終まで俺のこと切るのはナシな。俺、どうしても最後の伝説知りてぇし』
あの盗賊の笑顔が頭に浮かんで、思わず頬が緩んでしまう。
『ちゃんとスクショも動画も撮ってるから安心してよ』
『俺が無事に到達した場合でも、そこんとこ語り合ってくれよ』
『それはパーティの人とのほうが……』
『俺のは寄せ集めだもん。利害の一致だし、なんとなくカナタとしゃべるほうが盛り上がれそう』
そんなことを言われたのは初めてだ。翼なんかなんの面白みもない人間なのに。
だけど――。
『俺も語れる相手いなくなったから語りたい』
『やった。じゃ、俺はもうちょっとがんばるわ』
『うん。がんばって』
ポコンと通知が鳴って。コマが退室をした。
部屋にひとりになったのはさっきと同じでも、ほんの少しだけ寂しさが薄れている。
「……ユーリのことが好きだったんだ……」
いつから、変わっていたのだろう。どちらにしても、進展なんか望めない相手だけど。
「5日、なにがあったのかな……?」
もう果たすことのできない約束だけが、ほんの少し心残りだった。
マシンガンのように飛び込んできたコマの声は、ゲーム内のコマとほとんど変わらない。
『ありがと。コマのおかげだったよ。あの装備0作戦あたりだった』
『死ななかった?』
『大毒蛾出たときはヤバかったけど』
ほんの数時間前のことなのに、はるか昔のことみたいだ。数時間前はユーリとも笑い合っていて……。
『……なんかあった?』
『え?』
『いや、最終日までログインしねぇとか言ってたじゃん』
最後の伝説の衝撃からじゃないなら、ほかに理由があるんだろう? コマがどこか心配そうに聞いてくる。
コマはユーリとはまた少し違うタイプのコミュニケーション強者だ。翼なら、ほかの誰かの様子がおかしくても、こんな風にさらっと聞いたりできない。
『……コマは……フレンドとリアルで会ったことある?』
『オフ会ってことか?』
『そういうの。一対一とかも』
『まぁ、何回かあるぜ?』
『そのときにさ、アバターとむっちゃイメージ違ったりしたときって、やっぱりガッカリした?』
『いいなぁって思った子のときは正直ガッカリしたこともある。普通に友だちみたいなノリのときはなんとも思わねぇけどな』
ガッカリして、その後はどうなったのだろう。
ただ、それを聞く勇気は翼にはない。
『もしかして、メンバーから会おうって言われた?』
コマは鋭くて困る。でも、そうやって聞いてくれることが少し救いになった。
『会おうじゃないけど、サ終しても繋がろうって言われて……断った』
通話の向こう側で、コマがほんの少し笑った。それは、嫌な感じの笑い方じゃなくて、しょうがないなぁとでもいうような、柔らかい笑いだ。
『カナタ、その子のこと好きだったんだな』
思わぬ断定に言葉に詰まった。
『あのアバター。リアルの自分と全然違う感じ? だから嫌われたら困るから会えねぇんだろ?』
だって、ただの友だち感覚なら見た目も年齢もどうでもいいじゃないか。
予想外のショックに、頭がクラクラする。カナタが、翼が、ユーリを好きだった? 翼が好きなのはアレックスで、ユーリはただアレックスにそっくりなだけで――。
『さっきの話だけど、ガッカリしたけどしゃべったらやっぱりゲームの中と一緒で楽しくて、そのあと付き合ったぜ? まぁ、遠距離だったから自然消滅みたいになっちまったけど……』
少し自嘲気味につぶやいたコマが、だから見た目のギャップはそんなに気にしなくていい。そう付け加えた。
『カナタ?』
『俺……ほかに好きな人がいるって言って、そのままフレンド解除してログアウトした……』
『は?』
『だって、元々その人のアバターが、一目惚れした人と似てたから……っていう』
ずっと、敵わない恋をアレックスにしているつもりだった。
だけど、コマに言われて気づいてしまった。だって、翼はユーリに嫌われたくないと思った。友だちならそんな風に考えることだって変なのに。
『あー……ってことは、もう繋がり切れてるんだ』
『うん』
ヘッドセットに沈黙が流れる。
『その子の名前と特徴教えろよ。確率はほぼないだろうけど、もし会えたら繋げてやるし』
明るくなったコマの声に、ギュッと奥歯を噛んだ。あんなこと言ってどんな顔をして――。
『ううん。もうこのままでいいんだ。ありがとう』
『なんで?』
『結構、気持ち悪いこと言ったし、多分もう繋がりたいとか思ってないと思う』
男が好きな男に好かれているなんて、冗談じゃないと思うはずだ。
『なんか、カナタって自己肯定感低そう』
直球がグサッと翼に刺さる。正しすぎてなにも反論できない。
『ま、カナタがそれでいいんだったらいいと思うぜ。けど、サ終まで俺のこと切るのはナシな。俺、どうしても最後の伝説知りてぇし』
あの盗賊の笑顔が頭に浮かんで、思わず頬が緩んでしまう。
『ちゃんとスクショも動画も撮ってるから安心してよ』
『俺が無事に到達した場合でも、そこんとこ語り合ってくれよ』
『それはパーティの人とのほうが……』
『俺のは寄せ集めだもん。利害の一致だし、なんとなくカナタとしゃべるほうが盛り上がれそう』
そんなことを言われたのは初めてだ。翼なんかなんの面白みもない人間なのに。
だけど――。
『俺も語れる相手いなくなったから語りたい』
『やった。じゃ、俺はもうちょっとがんばるわ』
『うん。がんばって』
ポコンと通知が鳴って。コマが退室をした。
部屋にひとりになったのはさっきと同じでも、ほんの少しだけ寂しさが薄れている。
「……ユーリのことが好きだったんだ……」
いつから、変わっていたのだろう。どちらにしても、進展なんか望めない相手だけど。
「5日、なにがあったのかな……?」
もう果たすことのできない約束だけが、ほんの少し心残りだった。
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