サ終直前のネトゲで推しに急接近されましたが、現実の自分がクソダサ陰キャのため最後の思い出だけ作って逃げようと思います

二一

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恋愛はかくも難しい

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『……っユーリのことが好きで……現実の俺を見られるのが怖かったから、だから』
 幻滅されても落ち込まない関係のコマになら言えた。なんの関係も変わらないコマとなら会えた。
『ユーリに嫌われるのが怖い……それだったら、なにも変わらないほうがいいなって……ごめん、今も思ってる』
 だって、ずっと好きだったのだ。なにも知らなくて、勝手にアレックスなんて名前をつけて、その姿に一目惚れをしたところから。
 今、ユーリはどんな顔をしてる?
 知りたいけど知りたくない。
 居心地の良かったあの世界はもう消えてしまった。
『俺、今むっちゃ翼を抱き締めたい。カナタとちゃう翼のこと、大丈夫やって抱き締めたい』
『そんなの、心臓止まる……』
 カナタのときですら、どうしようもない熱をもてあましていたのに。
『うまく言えんでもえぇし、どんなんでも……俺に頼って欲しいんや。翼が嫌なこととか絶対せぇへんし! 他の人のほうが翼のことよぉ知っとるって、そんなん嫌やん……』
 頭の中では嫌と言うほど見慣れたアーレジェのユーリが俯いている。だけど、ユーリに翼の姿を想像することはきっと難しい。翼はずっとイケてない自分を隠し続けていたから。
『俺、あのコンビニで翼のこと見とった。いっつもなんか一生懸命ごはん選んどるなぁって、かわいいなぁって』
『え、え……うそ』
『なんでウソつくねん。どっかで声かけられへんかなぁって……1回だけしゃべれたん、むっちゃうれしかったもん』
『あんなの、キョドってて変なことしかしゃべれてない!』
 レジで順番を譲ってくれたときだ。翼だってラッキーすぎる偶然を噛みしめていた。
 叫んだ翼に、今日はじめてユーリの笑い声が聞こえた。
『翼も覚えとってくれたん、うれしいなぁ』
 いつだってユーリは真っ直ぐで、その感情を惜しげもなく言葉にしてくれる。名前だって、あたりまえみたいに翼を翼と呼んでくれる。カナタじゃなくて翼に話しかけてくれているんだと安心する。
『もし、俺がコンビニで翼のこと誘ったらどうやった?』
『それは……』
 きっと、なにも知りませんみたいな顔で断っていただろう。
『あ……』
『どうしたん?』
『あの、どうでもいいことなんだけど、なんの意味もないし……』
『言って?』
 頭がおかしいと自分でも思うけど、でも――。
『サ終発表のあとくらいから、しょっちゅうコンビニの夢見ててさ。アレックスが……あのころはユーリとは違う人だと思ってたからだけど、いっつもレジに並んでて、俺はいっつもそのうしろに並んで、そしたらアレックスがなんでか俺に話しかけてたんだ』
 こんなスピリチュアルなこと恥ずかしいけど、なんともいえない今の感情を伝えたくて、翼は必死にあの夢を思い出した。
『すっごいあり得ないのに好意的に話しかけてもらえて、すっごいうれしいのに夢のなかの俺はいっつも冷たい答えで返してて……』
『それって』
『うん。多分なにってないんだろうけど、なんか』
『なんや、想像できてまうわーそういうときの翼って妙に落ち着いてたりするんよなぁ』
 それは緊張のあまり無になっているときだ。その次段階に行くとテンパってしまって、良く分からない言動をしてしまう。
『なんかえぇなぁ……ちゃんと繋がってた感じで』
『うん……』
 優しいユーリの声に、一生懸命画面のなかの男キャラを見つめてしまう。だけど、そこには常に変わらない笑顔があるだけだ。
 現実に会いたいだなんて今さら?
 実際に会ったらこんな風にしゃべることだってできないくせに。
『あのさ……っ』
『なに?』
 間髪入れず聞き返されて、早くも挫けそうになる。どうしよう。なんて切り出せばいい? 端末を握る手がおかしな汗で濡れている。
『あの木彫りのブタ、もう1個欲しいなぁって……その、急に思ったから、えと』
 バカすぎる。5個も買ったのに、それ以上買う意味とは?
 一瞬だけ間が空いて、それからユーリが息を吸ったような気がした。
『俺もまだ買えてないねん。買いに行こうかな』
 伝わった――!
『じゃ、じゃあ……今からだから、5時くらいにコミメイトで、とか……』
『オッケー。ほな、そのあとご飯行かん?』
『う、うん』
 それじゃあとで。
 アプリからキャラクターたちが消えて、翼は部屋でしばらく動けなくなっていた。
 どうして、こんなにも会いたくなってしまったのだろう。怖かったはずなのに。今も怖いのに。
「服、着替えなきゃ」
 どうしよう。まともな私服なんか持っていない。がらがらのクローゼットから、いちばんマシだと判断したTシャツを選んで、ジーンズに合わせる。貧弱すぎる剥き出しの腕が情けなくて、高校時代からのカーディガンを羽織った。
 時間はまだ余裕がある。それなのに、いろいろと考えてしまうのが嫌で、そのまま駅へと向かっていた。
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