48 / 72
恋愛はかくも難しい
3
しおりを挟む
『やっぱり納得いかへんねんけど!』
アーレジェとは似ても似つかない、平和そのものの公園になぜか二足歩行の犬と、表情のない4等身の男キャラが向かい合っている。キャラメイクが雑なのは、このアプリの目的が会話のほうにあるからだろう。
『だからごめんって』
不自然な犬が謝る。そう、犬のアバターが翼で人間の男がユーリだ。
今日は土曜日で、休日に合わせてアプリで待ち合わせをしていた。
『俺は実際に会った翼でも、なんも変わらへんかってんから、そのまま会えるやん』
『それとはまた違うんだよ。俺はこういうの……頭がまだついていってない』
確かにユーリの態度は微塵も変わらなかった。それどころか、現実の翼を前にしてさらに暴走しているようにさえ見える。翼なんかでそこまでテンションをあげてくるのが、そもそも理解できない。
なんで自分なんかに……。
『だから、ゲームだったら普通にしゃべれるかなって……』
『しゃべりたいって思ってくれとった?』
『そりゃ、あたりまえ……』
あたりまえだ。そう力説しようとして、一気に恥ずかしくなった。
このアプリでは、アバターを自分で動かすことはできない。会話をしていると、勝手にふたりが行動する。今も、不可思議な犬と男のペアが散歩をはじめている。
『なんで犬なん?』
『……自分ぽくないから、冷静でいられるかなって』
『意味分からへん! けど、なんか翼っぽいって思ってまう!』
頭を抱えているようなユーリの声は怒ってなくて、なんとなく理解してくれているような気配がくすぐったい。やっぱりネットのなかのほうが、落ち着いて考えられる。
『あのな、翼……聞いてえぇ?』
いきなり自信なさげになったユーリに、少し身構えた。
『このアプリってマッチングやん? その……カナタそういうん、やってたんかなって……なんかお気に入り1人とか表示されとったし』
『あ』
そのひとりはコマだ。練習用に繋がったけど、タイミングが合わなくてぶっつけ本番でユーリとデートすることになった。
『ちがうちがう! と、友だちに教えてもらったんだ。だから、その1人っていうのはその人』
これまで、自分の友だちなんて表現をする機会がなさすぎて、どもってしまう。
『俺、ユーリに誘ってもらってもどうしていいか分かんなくて、相談してて……そしたら、ゲームなら普通にできるんだったら、先にこういうので練習したらって教えてもらった』
いつのまにか、ふたりは公園のベンチに並んで座っている。画面だけ見ていれば、アバターの表情はほぼ一定で、ニコニコしていて平和そのものだ。
もどかしい。
アーレジェなら、喜怒哀楽を表現できたのに。
『……その友だちって、翼のことよく知っとる人?』
『え、どうなのかな』
『昔からの友だちとかじゃないん?』
いつもより固いユーリの声が不安を煽ってくる。アバターの表情は穏やかなままだから、そのミスマッチが余計怖い。
そして、これはもしかして……翼がほかの誰かに相談したことを、そのし、嫉妬してるとか――?
『それはないって!』
『え!? どういうこと!?』
翼の心の声にユーリが困惑している。しまった。つい声に出てしまう。
『そうじゃなくて! えと……アーレジェで知り合った人なんだ』
翼ごときがいい感じにぼかして説明なんかできるはずがない。素直に説明したほうがきっとマシだ。
『この前、高利貸しの屋敷で俺と一緒にいてた盗賊キャラ覚えてる?』
『あの、初心者の子手伝ってもらった人?』
『そう。その人と、あれからちょっとしゃべる機会あって……っていうか、あの装備外してって裏技のこともその人が教えてくれたんだ。その人、コマっていうんだけど、コマも地下水路までは進んでて、メンバー探してて』
同じ目的のプレイヤーで情報交換をすることはおかしくなくて。
『それって、いつ?』
『俺がひとりでログインした日。城下町の塔で会ったからちょっとしゃべった。そのとき、どっちかが最後の伝説に到達できたら、で、もう一方ができなかったら、どんなのか教えるって約束して』
そのために、お互いのもつ情報は交換したほうがいいと思った。
ああ、うまく表現できない。これがカナタだったら、少し困った顔を作って、ちょっとユーリの様子を窺うように覗き込んで……。
いつも途切れることなくしゃべるユーリが沈黙していることに不安が押し寄せる。
『……やっぱ、翼と会いたい……どんな顔しとるかとか、これやったらちっとも分からん。俺な、今「俺とはあかんかったのに、その人とは連絡しとったんや」って……ごっつ嫌な顔しとるんや』
分からないから、自分のことを伝えようと自分から教えてくれる。不安を同じように翼にも置き換えてくれる。
『それは! ユーリに教えられなかったのは俺が……っ』
ユーリのことを好きだったからだ。カナタのなかにいる翼を知られて、嫌われてしまうのが怖かったからだ。それも、声にださなきゃ今のユーリには伝えられない。
ゲームだったら普通にしゃべれるからって、自分からユーリをここに誘ったんだろう?
アーレジェとは似ても似つかない、平和そのものの公園になぜか二足歩行の犬と、表情のない4等身の男キャラが向かい合っている。キャラメイクが雑なのは、このアプリの目的が会話のほうにあるからだろう。
『だからごめんって』
不自然な犬が謝る。そう、犬のアバターが翼で人間の男がユーリだ。
今日は土曜日で、休日に合わせてアプリで待ち合わせをしていた。
『俺は実際に会った翼でも、なんも変わらへんかってんから、そのまま会えるやん』
『それとはまた違うんだよ。俺はこういうの……頭がまだついていってない』
確かにユーリの態度は微塵も変わらなかった。それどころか、現実の翼を前にしてさらに暴走しているようにさえ見える。翼なんかでそこまでテンションをあげてくるのが、そもそも理解できない。
なんで自分なんかに……。
『だから、ゲームだったら普通にしゃべれるかなって……』
『しゃべりたいって思ってくれとった?』
『そりゃ、あたりまえ……』
あたりまえだ。そう力説しようとして、一気に恥ずかしくなった。
このアプリでは、アバターを自分で動かすことはできない。会話をしていると、勝手にふたりが行動する。今も、不可思議な犬と男のペアが散歩をはじめている。
『なんで犬なん?』
『……自分ぽくないから、冷静でいられるかなって』
『意味分からへん! けど、なんか翼っぽいって思ってまう!』
頭を抱えているようなユーリの声は怒ってなくて、なんとなく理解してくれているような気配がくすぐったい。やっぱりネットのなかのほうが、落ち着いて考えられる。
『あのな、翼……聞いてえぇ?』
いきなり自信なさげになったユーリに、少し身構えた。
『このアプリってマッチングやん? その……カナタそういうん、やってたんかなって……なんかお気に入り1人とか表示されとったし』
『あ』
そのひとりはコマだ。練習用に繋がったけど、タイミングが合わなくてぶっつけ本番でユーリとデートすることになった。
『ちがうちがう! と、友だちに教えてもらったんだ。だから、その1人っていうのはその人』
これまで、自分の友だちなんて表現をする機会がなさすぎて、どもってしまう。
『俺、ユーリに誘ってもらってもどうしていいか分かんなくて、相談してて……そしたら、ゲームなら普通にできるんだったら、先にこういうので練習したらって教えてもらった』
いつのまにか、ふたりは公園のベンチに並んで座っている。画面だけ見ていれば、アバターの表情はほぼ一定で、ニコニコしていて平和そのものだ。
もどかしい。
アーレジェなら、喜怒哀楽を表現できたのに。
『……その友だちって、翼のことよく知っとる人?』
『え、どうなのかな』
『昔からの友だちとかじゃないん?』
いつもより固いユーリの声が不安を煽ってくる。アバターの表情は穏やかなままだから、そのミスマッチが余計怖い。
そして、これはもしかして……翼がほかの誰かに相談したことを、そのし、嫉妬してるとか――?
『それはないって!』
『え!? どういうこと!?』
翼の心の声にユーリが困惑している。しまった。つい声に出てしまう。
『そうじゃなくて! えと……アーレジェで知り合った人なんだ』
翼ごときがいい感じにぼかして説明なんかできるはずがない。素直に説明したほうがきっとマシだ。
『この前、高利貸しの屋敷で俺と一緒にいてた盗賊キャラ覚えてる?』
『あの、初心者の子手伝ってもらった人?』
『そう。その人と、あれからちょっとしゃべる機会あって……っていうか、あの装備外してって裏技のこともその人が教えてくれたんだ。その人、コマっていうんだけど、コマも地下水路までは進んでて、メンバー探してて』
同じ目的のプレイヤーで情報交換をすることはおかしくなくて。
『それって、いつ?』
『俺がひとりでログインした日。城下町の塔で会ったからちょっとしゃべった。そのとき、どっちかが最後の伝説に到達できたら、で、もう一方ができなかったら、どんなのか教えるって約束して』
そのために、お互いのもつ情報は交換したほうがいいと思った。
ああ、うまく表現できない。これがカナタだったら、少し困った顔を作って、ちょっとユーリの様子を窺うように覗き込んで……。
いつも途切れることなくしゃべるユーリが沈黙していることに不安が押し寄せる。
『……やっぱ、翼と会いたい……どんな顔しとるかとか、これやったらちっとも分からん。俺な、今「俺とはあかんかったのに、その人とは連絡しとったんや」って……ごっつ嫌な顔しとるんや』
分からないから、自分のことを伝えようと自分から教えてくれる。不安を同じように翼にも置き換えてくれる。
『それは! ユーリに教えられなかったのは俺が……っ』
ユーリのことを好きだったからだ。カナタのなかにいる翼を知られて、嫌われてしまうのが怖かったからだ。それも、声にださなきゃ今のユーリには伝えられない。
ゲームだったら普通にしゃべれるからって、自分からユーリをここに誘ったんだろう?
42
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21)
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
アルカナの英雄は死神皇子に嫁ぐ
霖
BL
難攻不落と言われたアルカナ砦を攻略し、帝都に名が届くほどの軍功を上げた辺境国王の庶子リセル。しかし英雄として凱旋したリセルを待ち受けていたのは、帝国の第三皇子ジュノビオの不可解な求婚だった。
実直皇子×お人好し美人
※ほかのサイトにも同時に投稿しています。
泣き虫だったはずの幼なじみが再会したら僕を守るために完璧超人になっていた話。
ネギマ
BL
気弱で泣き虫な高校生、日比野千明は、昔からいじめられっ子体質だった。
高校生になればマシになるかと期待したが状況は変わらず、クラスメイトから雑用を押し付けられる毎日を送っていた。
そんなある日、いつものように雑用を押し付けられそうになっている千明を助けたのは、学校中が恐れる“完璧超人”の男子生徒、山吹史郎だった。
文武両道、眉目秀麗、近寄りがたい雰囲気を纏う一匹狼の生徒だったが、実は二人は、幼い頃に離れ離れになった幼なじみだった――。
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
本気になった幼なじみがメロすぎます!
文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。
俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。
いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。
「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」
その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。
「忘れないでよ、今日のこと」
「唯くんは俺の隣しかだめだから」
「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」
俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。
俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。
「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」
そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……!
【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる