サ終直前のネトゲで推しに急接近されましたが、現実の自分がクソダサ陰キャのため最後の思い出だけ作って逃げようと思います

二一

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恋愛はかくも難しい

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『やっぱり納得いかへんねんけど!』
 アーレジェとは似ても似つかない、平和そのものの公園になぜか二足歩行の犬と、表情のない4等身の男キャラが向かい合っている。キャラメイクが雑なのは、このアプリの目的が会話のほうにあるからだろう。
『だからごめんって』
 不自然な犬が謝る。そう、犬のアバターが翼で人間の男がユーリだ。
 今日は土曜日で、休日に合わせてアプリで待ち合わせをしていた。
『俺は実際に会った翼でも、なんも変わらへんかってんから、そのまま会えるやん』
『それとはまた違うんだよ。俺はこういうの……頭がまだついていってない』
 確かにユーリの態度は微塵も変わらなかった。それどころか、現実の翼を前にしてさらに暴走しているようにさえ見える。翼なんかでそこまでテンションをあげてくるのが、そもそも理解できない。
 なんで自分なんかに……。
『だから、ゲームだったら普通にしゃべれるかなって……』
『しゃべりたいって思ってくれとった?』
『そりゃ、あたりまえ……』
 あたりまえだ。そう力説しようとして、一気に恥ずかしくなった。
 このアプリでは、アバターを自分で動かすことはできない。会話をしていると、勝手にふたりが行動する。今も、不可思議な犬と男のペアが散歩をはじめている。
『なんで犬なん?』
『……自分ぽくないから、冷静でいられるかなって』
『意味分からへん! けど、なんか翼っぽいって思ってまう!』
 頭を抱えているようなユーリの声は怒ってなくて、なんとなく理解してくれているような気配がくすぐったい。やっぱりネットのなかのほうが、落ち着いて考えられる。
『あのな、翼……聞いてえぇ?』
 いきなり自信なさげになったユーリに、少し身構えた。
『このアプリってマッチングやん? その……カナタそういうん、やってたんかなって……なんかお気に入り1人とか表示されとったし』
『あ』
 そのひとりはコマだ。練習用に繋がったけど、タイミングが合わなくてぶっつけ本番でユーリとデートすることになった。
『ちがうちがう! と、友だちに教えてもらったんだ。だから、その1人っていうのはその人』
 これまで、自分の友だちなんて表現をする機会がなさすぎて、どもってしまう。
『俺、ユーリに誘ってもらってもどうしていいか分かんなくて、相談してて……そしたら、ゲームなら普通にできるんだったら、先にこういうので練習したらって教えてもらった』
 いつのまにか、ふたりは公園のベンチに並んで座っている。画面だけ見ていれば、アバターの表情はほぼ一定で、ニコニコしていて平和そのものだ。
 もどかしい。
 アーレジェなら、喜怒哀楽を表現できたのに。
『……その友だちって、翼のことよく知っとる人?』
『え、どうなのかな』
『昔からの友だちとかじゃないん?』
 いつもより固いユーリの声が不安を煽ってくる。アバターの表情は穏やかなままだから、そのミスマッチが余計怖い。
 そして、これはもしかして……翼がほかの誰かに相談したことを、そのし、嫉妬してるとか――?
『それはないって!』
『え!? どういうこと!?』
 翼の心の声にユーリが困惑している。しまった。つい声に出てしまう。
『そうじゃなくて! えと……アーレジェで知り合った人なんだ』
 翼ごときがいい感じにぼかして説明なんかできるはずがない。素直に説明したほうがきっとマシだ。
『この前、高利貸しの屋敷で俺と一緒にいてた盗賊キャラ覚えてる?』
『あの、初心者の子手伝ってもらった人?』
『そう。その人と、あれからちょっとしゃべる機会あって……っていうか、あの装備外してって裏技のこともその人が教えてくれたんだ。その人、コマっていうんだけど、コマも地下水路までは進んでて、メンバー探してて』
 同じ目的のプレイヤーで情報交換をすることはおかしくなくて。
『それって、いつ?』
『俺がひとりでログインした日。城下町の塔で会ったからちょっとしゃべった。そのとき、どっちかが最後の伝説に到達できたら、で、もう一方ができなかったら、どんなのか教えるって約束して』
 そのために、お互いのもつ情報は交換したほうがいいと思った。
 ああ、うまく表現できない。これがカナタだったら、少し困った顔を作って、ちょっとユーリの様子を窺うように覗き込んで……。
 いつも途切れることなくしゃべるユーリが沈黙していることに不安が押し寄せる。
『……やっぱ、翼と会いたい……どんな顔しとるかとか、これやったらちっとも分からん。俺な、今「俺とはあかんかったのに、その人とは連絡しとったんや」って……ごっつ嫌な顔しとるんや』
 分からないから、自分のことを伝えようと自分から教えてくれる。不安を同じように翼にも置き換えてくれる。
『それは! ユーリに教えられなかったのは俺が……っ』
 ユーリのことを好きだったからだ。カナタのなかにいる翼を知られて、嫌われてしまうのが怖かったからだ。それも、声にださなきゃ今のユーリには伝えられない。
 ゲームだったら普通にしゃべれるからって、自分からユーリをここに誘ったんだろう?
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