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恋愛はかくも難しい
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「俺とは会えたじゃん? 同じ感じでいいんだぜ?」
同じ感じで、目の前にユーリがいて……。
想像しただけで脳ミソが沸騰するかと思った。慌てて首をなんども横に振って、振りすぎてシェイクされたアルコールが翼の体温を上げていく。
「む、ムリ……ムリ……‼」
「なんで?」
「だって、コマは俺のこと好きとか言わねぇじゃん! ニッコリ笑いかけてきたりしねぇじゃん!」
「こじれてんなぁ。恋愛以前って感じ」
その通りだ。だから、いきなり付き合うとかマジで無理すぎる。
「恋愛以前の前に対人関係以前か……あ、でもここ入るときとか、店員にフツーに話しかけてたじゃん?」
ああ、それはーー。
「だって言うこと決まってるから。仕事とか買い物とか。相手も基本同じパターンで返ってくるし」
仕事中の翼は「会社員」で、対店員のときは「客」なんだから、迷わずその通りの振る舞いをすればいいのだ。田中翼としての役割しかないシチュエーションだとどうしていいか分からないくなる。
そもそも、なんで翼なんかと会ってくれてるのか疑問なのだ。
「How are you? の返しは、どんなに疲れててもI'm fine にしてるって感じか?」
「それ! まさに!」
コマの例え話がむちゃくちゃ的確で、思わず前のめりになってしまう。だから、カナタのときは、翼が思う理想の男性が取るであろう態度を取っていた。
「ある意味、器用っちゃ、器用なんだよなぁ」
そんなコマのボヤきにも、翼は乾いた笑いを浮かべるくらいしかできない。
「けどさー、なんでそこまでいきなり進展したんだ?」
動画では、カナタが一方的に別れを告げて繋がりを切ったところで終わっている。コマの疑問は当然ながら、そこを言うわけにもいかず、でも思い出してしまって全身がカチコチになってしまった。
「や、その……あのあとで、ちがうゲーム内でちょっと、その、あって……」
しどろもどろに言い訳を並べながら、居たたまれなさに俯いてしまう。
「なんであんなことしたんだ……」
「あんなこと?」
「はえ!?」
頭で考えただけのはずが声に出てしまっていたらしい。普段のひとり言の癖がこんなところで出てしまう。つくづく人としゃべるのに向いていない。
「っつうか、なんか分かった気ぃする」
最後のからあげを躊躇なく飲み込むと、コマがまた空のジョッキを店員に掲げてみせた。もはやそれだけで注文が済んでしまう。
「自分以外に偽装できるゲームのなかだったら普通にしゃべれるってことだな」
それはその通りで、ただのパーティとしてプレイしていた期間が長いから、その感じでならなにも困らないのだ。そこに、リアルな恋愛が絡むとダメなだけで。
「つまり、そこでそれなりの雰囲気になってたんだろ?」
「う……ハイ……」
「心当たりは?」
「どさくさにまぎれて……「好き」って言った」
キスをしたし、それ以外にもいろいろあったけど、さすがにそんなこと口にはできない。
「おまえなぁ!」
「そ、そのときは、まさかリアルで会うとか思ってなかったんだよ」
むしろ、二度と会わないはずだったから言えたことで……。
ため息をついたコマが、運ばれてきたジョッキをまた一気に傾ける。細身の身体のどこにそんな量のビールが入るのだろうか。
「よし、わかった!」
少し目の据わったコマが、おもむろに携帯端末を取りだした。
「この恋森ってアプリ入れろ」
「それって」
「いわゆるマッチングアプリ。けど、このアプリは仮想空間でデートできるシステムがある」
画面上だけでも交流できるし、ヘッドセットがあればより没入感を得られる。コマの説明に、それをなぜ入れろと言われたのか結局分からない。
「まずは、ゲーム内でデートしろ」
「あ、そういう」
実際会うことにハードルがあるなら、徐々に慣れていくしかないだろう。コマの言ってることはもっともで、翼としてもゲームの中ならいけそうな気がした。
言われるままにアプリをダウンロードして、コマに指示されながら初期設定をしていく。
「マッチング申請きたらうぜぇから鍵かけとけよ。あと、プロフィールとかも空白で」
あくまで、ユーリと会うためだけだからとコマが念を押してくる。言われなくても、マッチングアプリなんかそもそも翼の手には負えない。
「あとはアバターだけそれっぽく雰囲気でるように作っとけよ」
「うん、ありがとう。コマもアカウントあるの?」
何気なく聞いたところで、コマが一瞬フリーズした。まずいことを聞いてしまったらしいが、謝るのもおかしな気がして黙ってしまう。
「ひとりだと寂しいじゃん……たまにさ」
そういう感情は翼にはあまり分からない。ひとりでいることがあたりまえすぎて、それが寂しいなんて感じないのだ。
「アバターできたらデートの練習に付き合ってやるよ」
いつもの笑顔に戻ったコマが、奪い取った翼の端末でフレンド申請を許可していった。アーレジェと似たアバターがKOMAとアルファベット表記されている。
「今日はマジでありがとう」
「ん?」
「こういうの、どうしていいか分かんないし、相談できる人もいなかったから、聞いてもらえてすごい助かった」
駅までの道すがら、これだけは言わなければと早口にまくし立てた。
「おもしれぇから全然オッケー」
「おもしろいって酷いなぁ」
翼の悩みなんか普通の人にすれば、きっとなんでもないことなのだ。それでも、コマと会う前よりずっと軽くなった気持ちに、自然と笑いが起きる。
「あと、そこまで奥手だとちょっとかわいい」
コマの骨張った手が、翼の頭を撫でている。そう、コマも立つと翼よりずっと背が高い。
「かわ……やめてよ」
どこをどうみても翼にかわいい要素なんか存在しない。ぶすくれた翼をコマが声を立てて笑っている。
がんばれよ。
手を振るコマと別れて電車に乗った。
同じ感じで、目の前にユーリがいて……。
想像しただけで脳ミソが沸騰するかと思った。慌てて首をなんども横に振って、振りすぎてシェイクされたアルコールが翼の体温を上げていく。
「む、ムリ……ムリ……‼」
「なんで?」
「だって、コマは俺のこと好きとか言わねぇじゃん! ニッコリ笑いかけてきたりしねぇじゃん!」
「こじれてんなぁ。恋愛以前って感じ」
その通りだ。だから、いきなり付き合うとかマジで無理すぎる。
「恋愛以前の前に対人関係以前か……あ、でもここ入るときとか、店員にフツーに話しかけてたじゃん?」
ああ、それはーー。
「だって言うこと決まってるから。仕事とか買い物とか。相手も基本同じパターンで返ってくるし」
仕事中の翼は「会社員」で、対店員のときは「客」なんだから、迷わずその通りの振る舞いをすればいいのだ。田中翼としての役割しかないシチュエーションだとどうしていいか分からないくなる。
そもそも、なんで翼なんかと会ってくれてるのか疑問なのだ。
「How are you? の返しは、どんなに疲れててもI'm fine にしてるって感じか?」
「それ! まさに!」
コマの例え話がむちゃくちゃ的確で、思わず前のめりになってしまう。だから、カナタのときは、翼が思う理想の男性が取るであろう態度を取っていた。
「ある意味、器用っちゃ、器用なんだよなぁ」
そんなコマのボヤきにも、翼は乾いた笑いを浮かべるくらいしかできない。
「けどさー、なんでそこまでいきなり進展したんだ?」
動画では、カナタが一方的に別れを告げて繋がりを切ったところで終わっている。コマの疑問は当然ながら、そこを言うわけにもいかず、でも思い出してしまって全身がカチコチになってしまった。
「や、その……あのあとで、ちがうゲーム内でちょっと、その、あって……」
しどろもどろに言い訳を並べながら、居たたまれなさに俯いてしまう。
「なんであんなことしたんだ……」
「あんなこと?」
「はえ!?」
頭で考えただけのはずが声に出てしまっていたらしい。普段のひとり言の癖がこんなところで出てしまう。つくづく人としゃべるのに向いていない。
「っつうか、なんか分かった気ぃする」
最後のからあげを躊躇なく飲み込むと、コマがまた空のジョッキを店員に掲げてみせた。もはやそれだけで注文が済んでしまう。
「自分以外に偽装できるゲームのなかだったら普通にしゃべれるってことだな」
それはその通りで、ただのパーティとしてプレイしていた期間が長いから、その感じでならなにも困らないのだ。そこに、リアルな恋愛が絡むとダメなだけで。
「つまり、そこでそれなりの雰囲気になってたんだろ?」
「う……ハイ……」
「心当たりは?」
「どさくさにまぎれて……「好き」って言った」
キスをしたし、それ以外にもいろいろあったけど、さすがにそんなこと口にはできない。
「おまえなぁ!」
「そ、そのときは、まさかリアルで会うとか思ってなかったんだよ」
むしろ、二度と会わないはずだったから言えたことで……。
ため息をついたコマが、運ばれてきたジョッキをまた一気に傾ける。細身の身体のどこにそんな量のビールが入るのだろうか。
「よし、わかった!」
少し目の据わったコマが、おもむろに携帯端末を取りだした。
「この恋森ってアプリ入れろ」
「それって」
「いわゆるマッチングアプリ。けど、このアプリは仮想空間でデートできるシステムがある」
画面上だけでも交流できるし、ヘッドセットがあればより没入感を得られる。コマの説明に、それをなぜ入れろと言われたのか結局分からない。
「まずは、ゲーム内でデートしろ」
「あ、そういう」
実際会うことにハードルがあるなら、徐々に慣れていくしかないだろう。コマの言ってることはもっともで、翼としてもゲームの中ならいけそうな気がした。
言われるままにアプリをダウンロードして、コマに指示されながら初期設定をしていく。
「マッチング申請きたらうぜぇから鍵かけとけよ。あと、プロフィールとかも空白で」
あくまで、ユーリと会うためだけだからとコマが念を押してくる。言われなくても、マッチングアプリなんかそもそも翼の手には負えない。
「あとはアバターだけそれっぽく雰囲気でるように作っとけよ」
「うん、ありがとう。コマもアカウントあるの?」
何気なく聞いたところで、コマが一瞬フリーズした。まずいことを聞いてしまったらしいが、謝るのもおかしな気がして黙ってしまう。
「ひとりだと寂しいじゃん……たまにさ」
そういう感情は翼にはあまり分からない。ひとりでいることがあたりまえすぎて、それが寂しいなんて感じないのだ。
「アバターできたらデートの練習に付き合ってやるよ」
いつもの笑顔に戻ったコマが、奪い取った翼の端末でフレンド申請を許可していった。アーレジェと似たアバターがKOMAとアルファベット表記されている。
「今日はマジでありがとう」
「ん?」
「こういうの、どうしていいか分かんないし、相談できる人もいなかったから、聞いてもらえてすごい助かった」
駅までの道すがら、これだけは言わなければと早口にまくし立てた。
「おもしれぇから全然オッケー」
「おもしろいって酷いなぁ」
翼の悩みなんか普通の人にすれば、きっとなんでもないことなのだ。それでも、コマと会う前よりずっと軽くなった気持ちに、自然と笑いが起きる。
「あと、そこまで奥手だとちょっとかわいい」
コマの骨張った手が、翼の頭を撫でている。そう、コマも立つと翼よりずっと背が高い。
「かわ……やめてよ」
どこをどうみても翼にかわいい要素なんか存在しない。ぶすくれた翼をコマが声を立てて笑っている。
がんばれよ。
手を振るコマと別れて電車に乗った。
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