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恋愛はかくも難しい
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「……ってわけなんだけど、どうしたらいいでしょうか?」
店内は適度にざわめいていて、居心地も悪くない。
あれから2週間、週末の夜に翼は都内の居酒屋でコマと向かい合っていた。今まさに目の前には、どこか遠い目をしたコマがビールを飲んでいる。
「とにかく落ち着け」
早くも中ジョッキを空にしたコマが、静かに口を開いた。
「俺ら、今日が初対面な?」
確認するように見据えられ、それは分かっていると頷いた。
「まだ、なんのあいさつもしてねぇからな?」
「……あ」
しまったと口を開いた翼に、やっと気づいたかとばかりのコマが真面目な顔で頷いている。
緊張のまま居酒屋で待ち合わせをして、予約をしてくれていたコマの名前で席に通されて――緊張のあまり、いきなり相談をはじめてしまった。
「ああ! すみませんすみません……! とんだ失礼を……」
「いや、分かったから、なんでそんなに敬語なんだよ?」
「初対面だし、どうしていいか……とにかく丁寧にしとけば間違いないかと思いまして」
「その割にいきなり恋愛相談かましてきてるけどな」
「……その点に関しましては申し開きのしようもなく……」
「だから、普通にしゃべって?」
翼の前で口も付けられていないチューハイのグラスを、グイッと差し出される。甘ったるいその酒を一口飲んだところで、一気に喉の渇きを思い出した。
改めて向かいのコマをそっと観察する。ユーリと比べればかなり細身だが、翼みたいなガリガリではない。腕なんかはナイフのように細く均一についた筋肉が筋張って見える。きれいなグレーに染められた髪は、肩ほどに長く、その隙間からはいくつものピアスとツーブロックになった地肌が覗いている。ごく普通の白Tにカーゴパンツという服装なのに、胸元のネックレスだけでどこかオシャレに見えるのは素材ゆえだろうか?
対する翼はというと、仕事帰りに直接来たせいで何の変哲もないスーツ姿だ。それでも、下手に私服を着るよりずっとマシなのだ。今さらながら、周りからどう見えてるのか心配になってしまう。
「ちょっとは落ち着いたか?」
「ハイ」
「じゃ、とりあえず自己紹介な? 俺は駒沢音人、24歳。BBってライブハウスでスタッフやってて、時々ヘルプでギター弾いたりしてる」
ああ! それっぽい! ってか、なにその特殊スペック。そう内心で叫び、なんとか強ばる表情筋を解そうとした。
「田中翼です。ただのヒラ会社員……あ、25歳です」
「それだけ?」
「ハイ……」
特筆すべきスペックなどあるはずもない。居たたまれなさすぎてついつい猫背になってしまう。
「なんか、イメージちがうな」
ダイレクトな矢が何本も刺さった気がした。すでに翼のライフは0に近い。
「……リアルで会うことに抵抗があった理由がおわかりになったかと」
棒読み口調で自虐を入れると、フォローするでもなくコマはカラカラと笑った。納得されたらされたで悲しいものだ。いや、下手にフォローされるよりはいいけど――。
「恋愛経験なさそうだなぁ」
「ハイ、おっしゃるとおりで……」
「……とりあえず、もう一杯飲んどこうか。あ、すいませーん! これと同じのもう一杯!」
翼の空になったグラスを掲げ、通りがかりの店員にオーダーしてしまう。食事より先に2杯目のチューハイが運ばれて、進められるままにそれを飲む羽目になった。
正直、そこまで酒には強くない。
「つまり、近所のコンビニであの戦士のにーちゃんと会ったっていうか、そもそも顔見知りだったってことだな? しかも告白されて付き合うことになったと」
運ばれてきた刺身をつまみに、ほんの数秒でまとめられ、そのリアルな表現にまたあたふたとしてしまう。
「いや、そもそもこれは付き合ってるって言えるのかどうかも分かんなくて」
「付き合うってオッケーしたんじゃねぇの?」
「押し負けたっていうか、なんかゲーム内の流れでそうなっただけで、そこまで深い意味とかなかったんじゃないかとか……むしろ、俺なんかに付き合って欲しいって言うのとか、罰ゲーム以外ではあり得ない気がするような……」
考えれば考えるほど、あれが現実だとは思えないのだ。ゴニョゴニョとつぶやく翼に、コマの手がニュッとのびてきた。その指先が、眼鏡を半分隠すくらい伸びた前髪を持ち上げ、ついでに長年愛用の黒縁眼鏡を奪い取っていく。一気にぼやけてまぶしくなった視界に、なんども瞬きをした。
「そこまで自虐するほど悪くねぇけどな?」
「え? なに? え?」
「スレてなさ過ぎておもしろいし」
「あの、メガネを」
返してほしいと伸ばした手はアッサリ無視されてしまう。
「で、そのあとなんかあったのか?」
「あ、出かけようって誘われて……」
「誘われて?」
「……断ってる」
「……なんでだよ」
「……どんな顔して行けばいいかわかんないし……」
沈黙に見つめ合い、なんともいえない顔になったコマが何杯目か分からないジョッキを一気に飲み干す。
店内は適度にざわめいていて、居心地も悪くない。
あれから2週間、週末の夜に翼は都内の居酒屋でコマと向かい合っていた。今まさに目の前には、どこか遠い目をしたコマがビールを飲んでいる。
「とにかく落ち着け」
早くも中ジョッキを空にしたコマが、静かに口を開いた。
「俺ら、今日が初対面な?」
確認するように見据えられ、それは分かっていると頷いた。
「まだ、なんのあいさつもしてねぇからな?」
「……あ」
しまったと口を開いた翼に、やっと気づいたかとばかりのコマが真面目な顔で頷いている。
緊張のまま居酒屋で待ち合わせをして、予約をしてくれていたコマの名前で席に通されて――緊張のあまり、いきなり相談をはじめてしまった。
「ああ! すみませんすみません……! とんだ失礼を……」
「いや、分かったから、なんでそんなに敬語なんだよ?」
「初対面だし、どうしていいか……とにかく丁寧にしとけば間違いないかと思いまして」
「その割にいきなり恋愛相談かましてきてるけどな」
「……その点に関しましては申し開きのしようもなく……」
「だから、普通にしゃべって?」
翼の前で口も付けられていないチューハイのグラスを、グイッと差し出される。甘ったるいその酒を一口飲んだところで、一気に喉の渇きを思い出した。
改めて向かいのコマをそっと観察する。ユーリと比べればかなり細身だが、翼みたいなガリガリではない。腕なんかはナイフのように細く均一についた筋肉が筋張って見える。きれいなグレーに染められた髪は、肩ほどに長く、その隙間からはいくつものピアスとツーブロックになった地肌が覗いている。ごく普通の白Tにカーゴパンツという服装なのに、胸元のネックレスだけでどこかオシャレに見えるのは素材ゆえだろうか?
対する翼はというと、仕事帰りに直接来たせいで何の変哲もないスーツ姿だ。それでも、下手に私服を着るよりずっとマシなのだ。今さらながら、周りからどう見えてるのか心配になってしまう。
「ちょっとは落ち着いたか?」
「ハイ」
「じゃ、とりあえず自己紹介な? 俺は駒沢音人、24歳。BBってライブハウスでスタッフやってて、時々ヘルプでギター弾いたりしてる」
ああ! それっぽい! ってか、なにその特殊スペック。そう内心で叫び、なんとか強ばる表情筋を解そうとした。
「田中翼です。ただのヒラ会社員……あ、25歳です」
「それだけ?」
「ハイ……」
特筆すべきスペックなどあるはずもない。居たたまれなさすぎてついつい猫背になってしまう。
「なんか、イメージちがうな」
ダイレクトな矢が何本も刺さった気がした。すでに翼のライフは0に近い。
「……リアルで会うことに抵抗があった理由がおわかりになったかと」
棒読み口調で自虐を入れると、フォローするでもなくコマはカラカラと笑った。納得されたらされたで悲しいものだ。いや、下手にフォローされるよりはいいけど――。
「恋愛経験なさそうだなぁ」
「ハイ、おっしゃるとおりで……」
「……とりあえず、もう一杯飲んどこうか。あ、すいませーん! これと同じのもう一杯!」
翼の空になったグラスを掲げ、通りがかりの店員にオーダーしてしまう。食事より先に2杯目のチューハイが運ばれて、進められるままにそれを飲む羽目になった。
正直、そこまで酒には強くない。
「つまり、近所のコンビニであの戦士のにーちゃんと会ったっていうか、そもそも顔見知りだったってことだな? しかも告白されて付き合うことになったと」
運ばれてきた刺身をつまみに、ほんの数秒でまとめられ、そのリアルな表現にまたあたふたとしてしまう。
「いや、そもそもこれは付き合ってるって言えるのかどうかも分かんなくて」
「付き合うってオッケーしたんじゃねぇの?」
「押し負けたっていうか、なんかゲーム内の流れでそうなっただけで、そこまで深い意味とかなかったんじゃないかとか……むしろ、俺なんかに付き合って欲しいって言うのとか、罰ゲーム以外ではあり得ない気がするような……」
考えれば考えるほど、あれが現実だとは思えないのだ。ゴニョゴニョとつぶやく翼に、コマの手がニュッとのびてきた。その指先が、眼鏡を半分隠すくらい伸びた前髪を持ち上げ、ついでに長年愛用の黒縁眼鏡を奪い取っていく。一気にぼやけてまぶしくなった視界に、なんども瞬きをした。
「そこまで自虐するほど悪くねぇけどな?」
「え? なに? え?」
「スレてなさ過ぎておもしろいし」
「あの、メガネを」
返してほしいと伸ばした手はアッサリ無視されてしまう。
「で、そのあとなんかあったのか?」
「あ、出かけようって誘われて……」
「誘われて?」
「……断ってる」
「……なんでだよ」
「……どんな顔して行けばいいかわかんないし……」
沈黙に見つめ合い、なんともいえない顔になったコマが何杯目か分からないジョッキを一気に飲み干す。
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