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恋愛はかくも難しい
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――ねぇ、見てあそこ。
女の子のコソコソ声が聞こえる。
――すご、イケメン外人!
それがユーリのことだとすぐに気づいて、翼はさらにユーリとの距離を開けた。
――なんか、超ラフ着だし、こっちに住んでる系?
――声かける? 一緒にプリクラ誘う?
そんな黄色い会話を聞きながら、ユーリとはちがう曲がり角を曲がる。あの子たちが声をかけるまで、しばらく離れておこう。
「あ、翼! あったで! こっち」
「……!!」
せっかく距離を取っていたのが無意味なくらいの声が、翼を呼んでいる。さらには、速攻で翼を見つけたユーリが、迷いなく駆け寄ってきた。
「なんで迷子になってるん? まだ結構ぬい残っとるで」
うれしそうなユーリにあいまいな笑顔を向ける。
――なにあれ、すっごい関西弁じゃない?
――あはは。イメージ崩れるー。
――しかも連れいてるし、超ダサーい。
クスクスという笑い声が耳障りだ。
「ユーリ、どこ? 取れそう?」
いつになく大きな声が自分から出たことに少し驚いてしまう。あの子たちに会話がユーリに聞こえてないといいな。ユーリの顔からはそのどちらとも読み取れない。
「あれあれ。翼ってUFOキャッチャー得意? 俺ごっつ下手やねん」
「アクション系はすっごいうまいのに」
笑いながら財布の小銭を数える。
「どれ欲しいの? っていっても、俺もそんなにやらないから取れないかもだけど」
「ほら、あれ。ハリセンボンバー」
「わ、結構サイズあるね。ちょっとやってみる」
ユーリとの会話に全力で乗っかる。周囲の音がユーリの耳に届かないように。
ハリセンボンバーはヨキ島周辺の浜辺に出現するモンスターで、攻撃はその名の通り針千本。それを吹き付けてすぐに逃走してしまう嫌な敵だ。ただし、その見た目のコミカルさと、うまく倒せばボーナス経験値がもらえることから、プレイヤーにとってはぜひ遭遇したい敵でもある。
100円玉を投入して、レバーを操作する。翼自身はあまりぬいぐるみなどに興味はなく、ゲームセンターもときどき覗く程度だ。
ハリセンボンバーはまん丸い形状で、その棘も布製の柔らかい性質のため、アームにうまく引っかかってはくれないだろう。そうすると、ちまちま転がして穴に落とすか、タグにアームを引っかけるか。
翼は堅実に転がすことを選んで、慎重に何度か片側のアームを引っかける。3回分のプレイで小銭がなくなったところに、すかさずユーリが100円玉を投入した。いつのまにか、横の両替機で小銭を準備していたようだ。
「頼んだで」
真剣なユーリの声に頷いて、あと2回かなとアームを操作する。
「あ」
「あ……」
「「やったぁ!」」
思わずハモって顔を見合わせた。取り出し口にギュウギュウになったハリセンボンバーをユーリに手渡す。大きな身体がうれしそうにぬいぐるみを抱っこする様子は、冗談じゃなくかわいすぎる。
この数時間だけで、推しの供給過多だ。
「すげ、翼。え、5……6回で取れた」
「確率機じゃなかったからよかったよ。物理でなんとかなるほうが助かる」
ちらりと周囲を見ると、あの女の子たちの姿はどこにも見えなかった。
「翼はなんか取る?」
「うーん。俺はあんまり飾ったりしないから」
「大人やな」
歳上のユーリから真面目な顔で言われ、我慢できず吹きだしてしまった。この感じはゲームのときと同じだ。なんてない会話で笑って、それが楽しくて。
「そういや、翼は昼食べた?」
エスカレーターで移動しながらユーリが言う。
アプリにログインしたのがちょうど昼時だったからだろう。
「昼ってのは食べてないけど、今日は朝起きたのが遅かったから」
確か10時半くらいにシリアリバーを1本食べた。そう答えた翼に、勢いよくユーリが振り返った。
「ちゃんと食べなあかんで!?」
「う、うん。休みだからたまたま……?」
正直いつも似たようなものしか食べていないが、それ言うと叱られそうな気がして子どものようにごまかしてしまった。
「俺も食べるの早かったからお腹空いてきてん。どっかで夕飯食べん?」
「あ、うん」
勢いのまま返事をして、その瞬間「一緒に食事」というイベントに焦ってしまう。
「なに食べる?」
「お、俺、あんまり食べるとことか知らなくて……」
外食なんかひとりでわざわざすることもなく、せいぜい近所のハンバーガーショップか牛丼チェーンだ。
「うろうろすんのもアレやし、そこの黒木屋5時からやっとるしどない?」
向かいのビルを指差したユーリに、翼でも知っている居酒屋チェーンが緊張を和らげてくれる。もしかして、気遣ってくれたのかなと思いながら、そっとユーリの優しさに甘えた。
とにかく、いったんは「付き合っている(かも知れない)相手と一緒にいる」というのは考えないようにしよう。そこを前提にしてしまうと、今現在の状況はデート中になってしまう。そんなもの、翼のキャパでどうにかなる状況じゃない。
そう、オフ会のイメージにしよう。先日のコマとの食事。あの感じを思い出して――。
女の子のコソコソ声が聞こえる。
――すご、イケメン外人!
それがユーリのことだとすぐに気づいて、翼はさらにユーリとの距離を開けた。
――なんか、超ラフ着だし、こっちに住んでる系?
――声かける? 一緒にプリクラ誘う?
そんな黄色い会話を聞きながら、ユーリとはちがう曲がり角を曲がる。あの子たちが声をかけるまで、しばらく離れておこう。
「あ、翼! あったで! こっち」
「……!!」
せっかく距離を取っていたのが無意味なくらいの声が、翼を呼んでいる。さらには、速攻で翼を見つけたユーリが、迷いなく駆け寄ってきた。
「なんで迷子になってるん? まだ結構ぬい残っとるで」
うれしそうなユーリにあいまいな笑顔を向ける。
――なにあれ、すっごい関西弁じゃない?
――あはは。イメージ崩れるー。
――しかも連れいてるし、超ダサーい。
クスクスという笑い声が耳障りだ。
「ユーリ、どこ? 取れそう?」
いつになく大きな声が自分から出たことに少し驚いてしまう。あの子たちに会話がユーリに聞こえてないといいな。ユーリの顔からはそのどちらとも読み取れない。
「あれあれ。翼ってUFOキャッチャー得意? 俺ごっつ下手やねん」
「アクション系はすっごいうまいのに」
笑いながら財布の小銭を数える。
「どれ欲しいの? っていっても、俺もそんなにやらないから取れないかもだけど」
「ほら、あれ。ハリセンボンバー」
「わ、結構サイズあるね。ちょっとやってみる」
ユーリとの会話に全力で乗っかる。周囲の音がユーリの耳に届かないように。
ハリセンボンバーはヨキ島周辺の浜辺に出現するモンスターで、攻撃はその名の通り針千本。それを吹き付けてすぐに逃走してしまう嫌な敵だ。ただし、その見た目のコミカルさと、うまく倒せばボーナス経験値がもらえることから、プレイヤーにとってはぜひ遭遇したい敵でもある。
100円玉を投入して、レバーを操作する。翼自身はあまりぬいぐるみなどに興味はなく、ゲームセンターもときどき覗く程度だ。
ハリセンボンバーはまん丸い形状で、その棘も布製の柔らかい性質のため、アームにうまく引っかかってはくれないだろう。そうすると、ちまちま転がして穴に落とすか、タグにアームを引っかけるか。
翼は堅実に転がすことを選んで、慎重に何度か片側のアームを引っかける。3回分のプレイで小銭がなくなったところに、すかさずユーリが100円玉を投入した。いつのまにか、横の両替機で小銭を準備していたようだ。
「頼んだで」
真剣なユーリの声に頷いて、あと2回かなとアームを操作する。
「あ」
「あ……」
「「やったぁ!」」
思わずハモって顔を見合わせた。取り出し口にギュウギュウになったハリセンボンバーをユーリに手渡す。大きな身体がうれしそうにぬいぐるみを抱っこする様子は、冗談じゃなくかわいすぎる。
この数時間だけで、推しの供給過多だ。
「すげ、翼。え、5……6回で取れた」
「確率機じゃなかったからよかったよ。物理でなんとかなるほうが助かる」
ちらりと周囲を見ると、あの女の子たちの姿はどこにも見えなかった。
「翼はなんか取る?」
「うーん。俺はあんまり飾ったりしないから」
「大人やな」
歳上のユーリから真面目な顔で言われ、我慢できず吹きだしてしまった。この感じはゲームのときと同じだ。なんてない会話で笑って、それが楽しくて。
「そういや、翼は昼食べた?」
エスカレーターで移動しながらユーリが言う。
アプリにログインしたのがちょうど昼時だったからだろう。
「昼ってのは食べてないけど、今日は朝起きたのが遅かったから」
確か10時半くらいにシリアリバーを1本食べた。そう答えた翼に、勢いよくユーリが振り返った。
「ちゃんと食べなあかんで!?」
「う、うん。休みだからたまたま……?」
正直いつも似たようなものしか食べていないが、それ言うと叱られそうな気がして子どものようにごまかしてしまった。
「俺も食べるの早かったからお腹空いてきてん。どっかで夕飯食べん?」
「あ、うん」
勢いのまま返事をして、その瞬間「一緒に食事」というイベントに焦ってしまう。
「なに食べる?」
「お、俺、あんまり食べるとことか知らなくて……」
外食なんかひとりでわざわざすることもなく、せいぜい近所のハンバーガーショップか牛丼チェーンだ。
「うろうろすんのもアレやし、そこの黒木屋5時からやっとるしどない?」
向かいのビルを指差したユーリに、翼でも知っている居酒屋チェーンが緊張を和らげてくれる。もしかして、気遣ってくれたのかなと思いながら、そっとユーリの優しさに甘えた。
とにかく、いったんは「付き合っている(かも知れない)相手と一緒にいる」というのは考えないようにしよう。そこを前提にしてしまうと、今現在の状況はデート中になってしまう。そんなもの、翼のキャパでどうにかなる状況じゃない。
そう、オフ会のイメージにしよう。先日のコマとの食事。あの感じを思い出して――。
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