サ終直前のネトゲで推しに急接近されましたが、現実の自分がクソダサ陰キャのため最後の思い出だけ作って逃げようと思います

二一

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恋愛はかくも難しい

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「翼って苦手なもんとかある?」
 メニューを先に手にしたユーリが聞いてくれる。
「特にないよ」
 好き好んで食べないものはあっても、食べられないわけじゃない。
「適当に頼んでえぇ?」
「そのほうがありがたいです」
「なんでいきなり丁寧になっとん」
 笑いながらユーリがタブレットを操作している。そんな様子もごく自然で、きっと誰かと食べにいったりしてるんだろうな、なんて考えたりする。
「勝手なイメージなんだけど、俺よりユーリのほうが食べそうだから、そのほうがいいなって」
「俺もそう思った」
 食べたいのあったら言って。渡された紙のメニューを見る。
「じゃあ、これいい?」
 目に入った揚げ出し豆腐をユーリに頼んでメニューを閉じた。
「翼は飲めるほう?」
「あんまりは……あ、気にせず飲んで」
「ちゃうねん。俺もそんなに飲めんねん」
 それならちょうどよかった。笑いながらユーリがドリンクのページを翼に向けた。
「とりあえず1杯だけ乾杯ってのでどない?」
 居酒屋だし。気負いのいらない流れが、以外と緊張を連れてこない。テーブルの中央に置かれたタブレットをユーリと向かい合って覗く。
 先にユーリの指がハイボールをタップした。少し迷った翼は、梅酒のソーダ割りを選ぶ。アルコールの味が強いものは苦手で、どうしても甘みの強いものを選んでしまう。
 店内は早い時間なのもあって翼たちしか客がいない。注文を終えると5分も待たずにドリンクが運ばれてきた。
「おつかれさま」
 手慣れた仕草でユーリがグラスを持ち上げる。
「あ、おつかれ」
 慌てて真似をすると、冷えたグラスに口をつけた。空きっ腹にアルコールが熱を持つ。
 グラスを置いたタイミングで、テーブルに置いた端末がブルブルとふるえた。その振動に慌てて表を向けると、ウィスコードの通信が入っている。
 コマだ。今日、ユーリとアプリで会うことは言っているから、気にしているのだと思う。予定ならこの時間は翼が家でひとりだったはずだし。
「それ、コマって人?」
 ウィスコードのアイコンをユーリが指差した。
「あ、うん。心配してくれてたから」
「ほな、はよ出てあげな」
 ほかにお客さんもいないし、ここでしゃべっても大丈夫。そうせっつかれ、そんなものかと通話ボタンをタップした。
『カナタ。どうやった?』
 開口一番コマが勢いよく聞いてくる。
『あれ? なんか音楽聞こえるの、もしかして外?』
『あ、うん』
 そういうコマの後ろでも、なにやらざわめきが聞こえている。
『ひとり? 合流していい?』
『あ、ちが……ひとりじゃなくて』
 ユーリといる。その言葉がどこか恥ずかしくて声に出せない。
『もしかして、例の彼氏とだったりする?』
 鋭いコマに速攻でバレた。肯定するのが恥ずかしすぎて、頷くことしかできない。もちろん、コマにはそんなもの見えないわけで、無言を肯定とされてしまう。
『……なぁ、俺も混ざっていい?』
『え?』
『なんか、カナタそういうの慣れてないじゃん? なんか心配だし。彼氏さん近くにいる? 聞いてみてよ』
 どうしていいか分からなくて、思わず向かいのユーリを見てしまう。そもそも、コマの声はそれなりに大きくて、多分内容はユーリに筒抜けだ。しかも、今の言い方だとユーリがよからぬことをするかも知れないみたいにも聞こえてしまう。
 ユーリが手でちょいちょいとしているところに、流れのように端末を差し出してしまった。
『はじめまして。ユーリといいます』
 あまり聞いたことのないトーンの口調に、ドキッとした。だけど初めてじゃないような感じは……そうだ、コンビニではじめて会話したときと、夢の中に出てきたアレックスの口調がこんな感じだ。
も緊張してるみたいだし、よかったら来てください。場所、翼のウィスコから送りますね』
 それじゃ、また。そんな感じでさっさと話がまとまり、そこに注文していたメニューがどんどん運ばれてきている。
「翼。ここの住所、この人に送れる?」
「うん……けど、あの」
 よかったのだろうか。そんな不安が顔に出てしまっていたみたいだ。
 ユーリがいつもの笑顔を向けてくる。
「とりあえず食べよ。俺な……」
 さっきまでの会話と同じようなトーンで、ユーリが湯気の立つ料理を取り皿に乗せていく。途中で、ほら翼も、みたいに見つめられて、慌てて適当な料理をさらに乗せた。ユーリの大きな一口が蒸し鶏を頬張る。
「俺、その人に嫉妬しとるから」
「へ? し、し……嫉っ……」
「なんか今のも俺へのけん制? みたいな感じやったやん。自分のほうが翼と仲良いんやでみたいな……」
「まさか!」
 翼に関して、そんな駆け引きなんかする必要もない。というか、嫉妬なんかするようなものでもない。
 コマに店の位置情報を送ると、翼は落ち着こうと梅酒をグッと飲んだ。
 ――結構近い。15分くらいで着く。
 コマからのメッセージをユーリに見せる。
「もともと翼に会おうって言うつもりやったんちゃう?」
「え、まさか……」
 そんなの、翼なんかにわざわざ会ってまで話すようなことはないだろうし、コマは活動的なタイプだから偶然だろう。そんな翼を懐疑的なユーリの目がジッと見つめている。
 そもそも、ユーリから好意的に思われていることさえ未だに信じられないのに、これ以上翼に好意的な人間が増えるはずがない。
「……ユーリの見てる俺には、いろいろフィルターがかかってる気がする」
「俺は翼が自覚なさすぎな気ぃする。ほら、ちゃんと食べ。飲んでばっかりやったらアルコール回るで」
 運ばれてきた揚げ出し豆腐が翼の前に置かれ、できたてのそれをなんとか口に放り込んだ。久しぶりに食べると思った以上においしい。
「もう俺とも繋がってええやん?」
 ユーリの端末が差し出され、そこにはウィスコードのIDが表示されている。
「でも、もう必要ないんじゃ……」
 すでに繋がってるし。きょとんとした翼に、ユーリが少し拗ねたような顔をする。
「ちゃうねん。その人とだけ翼が繋がっとんのが嫌やねん」
 明らかな嫉妬を見せられて、一気にアルコールが回ってしまったような気がする。それでも、それを言われては断る理由もなく、翼のウィスコードには2人目のフレンドが表示される。
 すかさずユーリからスタンプが送られてきた。トーク欄のいちばん上がユーリに変わったことで、納得したように頷いたユーリがまた食事を口に運び始めた。
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