サ終直前のネトゲで推しに急接近されましたが、現実の自分がクソダサ陰キャのため最後の思い出だけ作って逃げようと思います

二一

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最後の思い出

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「翼、おつかれさん!」
 客観的に見れば、くたびれたサラリーマンに満面の笑みで手を振る金髪イケメン……こんなの、マンガの世界にしかないだろうってくらいのシチュエーションだ。早くもやってきた夏の暑さと、1日の労働で疲れた今はそのキラキラした破壊力がすさまじい。
「お……おつかれ」
「さっき、その裏手にえぇ感じの茶店見つけてん。立ち話もなんやし、行こ」
 迷いのない手が翼の手を掴んで引っ張っていく。
 ああ、金髪イケメンが陰キャリーマンを連行していく絵面は、周囲からどう見られているんだろう。手を繋いでいるシチュエーションが嫌なはずはもちろんない。が、自分ごときがユーリと手を繋いでいるというおこがましさに、申し訳なくなってしまう。
 とはいえ、ユーリが見つけた喫茶店には5分もせず到着する。住宅街の真ん中に紛れるようなレトロな喫茶店は雰囲気満点だが、長年住んでいる翼はその存在に気づいてもいなかった。
 絵に書いたような上品な店主が奥まったテーブルへと案内してくれる。中途半端な時間のせいか、客は翼たちの他に、本を読んでいる初老の男性がひとりだけだ。
 ユーリに倣ってホットコーヒーと軽食を頼むと、正面のユーリとバッチリ目が合ってしまう。途端にニッコリと微笑むユーリに、『こういうとこだよ!』と謎の突っ込みを心で叫んだ。まぁ、正直なところ、レトロな喫茶店にスポーツジャージのユーリは少しアンマッチなのだが。
「昨日は久しぶりにみんなとゲームしたん、むっちゃおもしろかったなぁ」
「うん。ミキニャも許してくれてよかった……」
「次やったら今度はごっつ怒られると思うで」
 にやりと笑うユーリに、苦笑いで分かったと謝っておく。今度やったら……なんて、きっと翼がユーリに嫌われたときだ。愛想を尽かされて冷たくされたら、多分耐えられない。
「コマはカナタのこと変な目で見過ぎやねん」
 コマに対するときだけの低い声にも笑ってしまう。
「ユーリのほうが俺に対しては変だと思うけどね」
 ゲーム内のカナタの服が破れようが、きっと誰も気にしていない。むしろ、気にするユーリのほうが少数派だ。
「あかんって! 翼は油断しすぎやから!」
「油断もなにも……」
 翼を好きだなんて言ってくれるのはユーリくらいだ。どれだけひいき目に見たところで、世間一般の人は恋愛相手に翼なんか選ばない。
「翼は自分がどれだけかわいいか分かっとらんのや」
「……ユーリ、眼医者行ったほうがいいよ?」
「両目2.0やで」
 となると、情報を伝達する仕組みがバグを起こしているとしか思えない。もしくは脳の異常だ。
 店主が静かにサンドイッチとコーヒーを運んでくれたのを早速ふたりで頬張る。外食といえばファーストフードが牛丼の翼にしたら、びっくりするくらい健康的な味だ。
「翼はどのくらい目悪いん?」
「俺? 最近測ってないけど、多分0.02とかそのくらい」
「え、小数点以下ってそんなにつくんや……メガネなかったらどんくらい見えるん?」
 翼がサンドイッチを一切れ食べるあいだに、ユーリは3つ目のサンドイッチに手を伸ばしている。人間としての性能の差がエグい。
「裸眼だとほとんど見えないよ。この距離でもユーリの顔で、ぼんやり目の位置とかが分かるくらい」
 説明しながらも、どんな感じだっただろうと無意識にメガネを外した。途端に世界が抽象画のように歪んでぼやける。メガネでガードされていた前髪も被さって、ほとんどなにも見えない。
「このくらい近づいたら?」
 ユーリがテーブルの上に、ほんの少し身を乗り出す。
「うーん。あんまり変わんないかな」
「これなら?」
 腰を浮かしたユーリがさらに翼に顔を近づける。
「コーヒー危ないから」
 服の端がカップに当たりそうになるのを慌てて避難させた。すると、翼も身を乗り出したこともあって、お互いの顔がごく近く接近する。
「これは?」
 ユーリが翼の顔を手のひらで挟んだ。
「ち、近い近い!」
 およそ5センチもないだろう距離で、さすがにユーリの顔が鮮明になる。
「見えとる?」
「見えるからっ……」
 ちょっと離れて。そう慌てる翼にも、ユーリはどこ吹く風だ。
「翼、ちょっと前髪伸びすぎとるんちゃう? いっつもどこへ切りに行っとるん?」
 ユーリの大きな手が、翼の前髪を左右に避ける。ユーリの顔がさらに鮮明になった。
「ぅわ、あ、あそこの――フルフルマートあるとこに入ってる10分カットの店っ……!」
 つままれた前髪を取り返して、一生懸命うしろに逃げる。というか、格安カットの店なんかユーリは知らないんじゃないだろうか。
「へぇ。俺も行ってみようかな」
「ダメだよ! せっかくのユーリの髪が!」
 そのきれいな金髪を、理容師ガチャのギャンブルにツッコむわけにはいかない。翼なら少々残念な仕上がりでも大差ないが。
 そんなことを思わず力説した翼に、ユーリが笑っている。じゃあ、自分が行っている美容室に翼を紹介するなんて言われて、その恐れ多い状況を想像して身震いをした。
 いつのまにかテーブルの皿もきれいに空になっている。今晩もテストプレイをするし、そろそろ帰らなければならない。だけど、せっかくユーリと一緒に過ごしている状況が惜しくて、翼からは言い出せそうにない。
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