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最後の思い出
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「そや、アーレジェのことなんやけど」
ひとしきり笑い合ったところで、ユーリが話題を変えてくれた。そう、ゲームの話なら翼だって焦らずに応対できる。
「昨日のこと?」
「ちゃうねん。Ⅱの話は正式に配信されるまでは我慢するつもりなんや」
やっぱり完成品で分かち合いたいから。少し照れたようなユーリの表情に、また見惚れてしまう。ユーリは本当にアーレジェが好きなんだ。
「あのな? 来週テストプレイ終わった次の日って土曜やん? 翼なんか予定ある?」
さっきとは少しトーンを落とした真面目な声に、つい身構えてしまう。
「特にないけど?」
今でこそ、みんなとのゲームに加えてユーリとの約束があるが、そもそも翼に予定などあったことはない。
「土曜日の10時にアーレジェにログインしてくれへん?」
「え? でも……」
サ終したアーレジェは、すでにロゴ画面すら表示されなくなっている。今参加しているテストプレイのⅡも、その日はもうログインできないだろう。
「槻間さんに頼んでん。あとでログインコードとURL送るし……もう管理もなんもされてないから、エラーとかあるかも知れん……けど、あのアーレジェのなかに入れるようにしてもらった」
「ホントに?」
あの消えた世界にまた行ける?
「うん。誰にも言ったらあかんで? けど、俺はどうしてもあの終わりが嫌やねん」
真剣な青い目が翼を捕らえている。
「会いたかってん」
あの日、約束の10時に。
翼が逃げ出したあの世界で。
「だから、お願いや。サ終の日をやり直ししたい」
そんなの、断る理由なんかない。翼だってあの日を後悔した。
「ちゃんとログインする。約束するよ」
ユーリを悲しませたくない。こうして現実で会ってても、あの日のことがなかったことにはならない。
「ログインして、どこに行ったらいい?」
そもそも、最後のデータがどこにいるのかも分からない。
「ほな、レオマの神殿で待ち合わせしよ」
はじめて出会ったあの場所で。
「分かった。絶対に行くよ」
「翼、おおきに」
「ううん。ちゃんとやり直せるチャンスをもらえて、こっちこそありがとう」
真面目に言い合ってしばらく、同時に笑いだしてしまう。ユーリといると、翼はいつでも笑っている。一生分の笑顔を作っているんじゃないかってくらい、自然と笑顔になるのだ。
喫茶店を出れば、長くなった夏の太陽もすっかり沈んでいる。
勤務先からまっすぐ帰って、もしくはスーパーかコンビニによって帰って、シャワーと食事をしたらアーレジェにログインして――かつてNPCだった翼はそんな毎日をひたすら繰り返していた。
「俺、多分、今の現実レベル5くらいになった」
「現実レベル? なんのレベルなん?」
「NPCはレベル上がらないじゃん。ユーリと会うまでの俺はNPCだったなーって」
なんか恥ずかしいことしゃべってる気がする。
並んでコンビニまで戻ると、自然にふたりとも立ち止まった。
「俺はどんくらいかなぁ」
「ユーリはきっと50くらいある」
適当に言って笑う。
「そんなに? ほな、翼のこと助けられるわ」
うれしそうなユーリの笑顔に胸がギュッとなった。
ユーリのことが好きだ。いつか嫌われる日が来るかも知れないけど、それでも――。
「うん。だからレベル上げ手伝ってよ」
ユーリと一緒なら、どんなイベントだって怖くない。
「もちろんや!」
それじゃ、またあとで。
ゲームの世界で会おう。
手を振って別れたあと、いつもと同じ家への道がなぜか明るく見えた。
マンションの合間から見える空は、星はほとんど見えない。アーレジェの夜空は天の川のような星空だった。
「来週、散髪行こ……」
ひとしきり笑い合ったところで、ユーリが話題を変えてくれた。そう、ゲームの話なら翼だって焦らずに応対できる。
「昨日のこと?」
「ちゃうねん。Ⅱの話は正式に配信されるまでは我慢するつもりなんや」
やっぱり完成品で分かち合いたいから。少し照れたようなユーリの表情に、また見惚れてしまう。ユーリは本当にアーレジェが好きなんだ。
「あのな? 来週テストプレイ終わった次の日って土曜やん? 翼なんか予定ある?」
さっきとは少しトーンを落とした真面目な声に、つい身構えてしまう。
「特にないけど?」
今でこそ、みんなとのゲームに加えてユーリとの約束があるが、そもそも翼に予定などあったことはない。
「土曜日の10時にアーレジェにログインしてくれへん?」
「え? でも……」
サ終したアーレジェは、すでにロゴ画面すら表示されなくなっている。今参加しているテストプレイのⅡも、その日はもうログインできないだろう。
「槻間さんに頼んでん。あとでログインコードとURL送るし……もう管理もなんもされてないから、エラーとかあるかも知れん……けど、あのアーレジェのなかに入れるようにしてもらった」
「ホントに?」
あの消えた世界にまた行ける?
「うん。誰にも言ったらあかんで? けど、俺はどうしてもあの終わりが嫌やねん」
真剣な青い目が翼を捕らえている。
「会いたかってん」
あの日、約束の10時に。
翼が逃げ出したあの世界で。
「だから、お願いや。サ終の日をやり直ししたい」
そんなの、断る理由なんかない。翼だってあの日を後悔した。
「ちゃんとログインする。約束するよ」
ユーリを悲しませたくない。こうして現実で会ってても、あの日のことがなかったことにはならない。
「ログインして、どこに行ったらいい?」
そもそも、最後のデータがどこにいるのかも分からない。
「ほな、レオマの神殿で待ち合わせしよ」
はじめて出会ったあの場所で。
「分かった。絶対に行くよ」
「翼、おおきに」
「ううん。ちゃんとやり直せるチャンスをもらえて、こっちこそありがとう」
真面目に言い合ってしばらく、同時に笑いだしてしまう。ユーリといると、翼はいつでも笑っている。一生分の笑顔を作っているんじゃないかってくらい、自然と笑顔になるのだ。
喫茶店を出れば、長くなった夏の太陽もすっかり沈んでいる。
勤務先からまっすぐ帰って、もしくはスーパーかコンビニによって帰って、シャワーと食事をしたらアーレジェにログインして――かつてNPCだった翼はそんな毎日をひたすら繰り返していた。
「俺、多分、今の現実レベル5くらいになった」
「現実レベル? なんのレベルなん?」
「NPCはレベル上がらないじゃん。ユーリと会うまでの俺はNPCだったなーって」
なんか恥ずかしいことしゃべってる気がする。
並んでコンビニまで戻ると、自然にふたりとも立ち止まった。
「俺はどんくらいかなぁ」
「ユーリはきっと50くらいある」
適当に言って笑う。
「そんなに? ほな、翼のこと助けられるわ」
うれしそうなユーリの笑顔に胸がギュッとなった。
ユーリのことが好きだ。いつか嫌われる日が来るかも知れないけど、それでも――。
「うん。だからレベル上げ手伝ってよ」
ユーリと一緒なら、どんなイベントだって怖くない。
「もちろんや!」
それじゃ、またあとで。
ゲームの世界で会おう。
手を振って別れたあと、いつもと同じ家への道がなぜか明るく見えた。
マンションの合間から見える空は、星はほとんど見えない。アーレジェの夜空は天の川のような星空だった。
「来週、散髪行こ……」
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