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Vegetablesー1-
3日目 水曜日 1
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葛西商店に着くと、ツルさんにデイサービスの迎えが来ていた。ツルさんはデイの職員に脇を支えられながら車に乗ると、うれしそうに手を振って出かけていった。入浴をさせてもらったり、みんなで体操したりして楽しんでくるらしい。
掃除を終えて一息ついていると、幸子さんがしきりに時計を気にしながらやってきた。どうやら出かける時間になったのに律が配達から戻らないらしい。そわそわと外を気にしている。
「美晴ちゃん、ごめんなさい。もう律が戻ると思うんだけど、それまで表で座っていてもらえないかしら」
「えっ、でも」
さすがに八百屋の仕事は俺にはできない。
「お客さんに何か言われたら、もうすぐ律が帰るって言ってくれたらいいから。これ、念のため、律の携帯番号」
そういって、俺の返事を聞くことなく幸子さんは慌てて出かけていった。どうしよう……とりあえず、表に出てレジの前に座る。
どうかお客さんがきませんように、と思った瞬間、店の前に軽トラが止まり、五十がらみの恰幅のいい男が降りてきた。トラックの荷台には「鮨幸」とある。商店街の寿司屋だ。
「あれ? 幸子さんは?」
「あの、用事で出てて、もうすぐ律さんが戻るので……わたし、留守番でちょっとわからなくて」
「ん? 嬢ちゃん、もしかして律のコレか?」
小指を立てられた……。どうしてこう、この年代の人は若者の色恋沙汰が気になるんだろうか。
「違います。ツルさんのヘルパーで来てます」
「ふーん、年のころもちょうどいいと思ったんだが。律のやつ、結構な男ぶりなのにさっぱり女気がないからなぁ」
あの男がもてないはずはないと思う。多少無愛想でもきっと女のほうが放っておかないはずだ。ということは、周りに気づかれないようによっぽどうまくやってるのだろう。
「そうなんですか」ととりあえず相槌を打って、そのまま無言になる。こういうときは世間話とかしたほうがいいのだろうか。話題は時事問題とかでいいのか?
悩んでいるうちに、鮨幸の軽トラの後ろに並ぶように葛西商店と書かれた箱バンが止まった。よかった、帰ってきた。
「律! 遅い! この嬢ちゃんひとりで店番してっぞ」
「すいません、大将、田津の交差点で事故ってまして」
律が頭を下げながら走ってくる。事故ならどうしようもないよな。
俺は「じゃあ、わたしは……」と二人に軽く頭を下げて奥へと戻った。表で二人が今日の仕入れはどうこうと話している声が聞こえている。
そろそろ昼の準備をと動きかけたとき、律が奥へと入ってきた。
「さっきは悪かったな、遅れて」
相変わらず無愛想にそういって軽く頭を下げてきた。結構真面目なんだ、と意外に思う。
「いえ、大丈夫ですよ」
「あと、昼も……おかんが無理言ったんだろ? 悪かったな」
もう一度軽く頭を下げてきた。強面の男に謝られると逆に緊張してしまう。女ならうれしいものなのかな?
「あ、本当、大丈夫ですから。わたし料理とか好きだし、このお店に来るのも楽しいので、気にしないでください」
そういってニッコリ笑っておいた。いい男に謝られた女ならこんな感じでいいだろう。
「準備ができたら声かけますね」
そういって笑いかけると、律はいつもどおり「どうも」と表に戻っていった。はぁ、緊張する。
掃除を終えて一息ついていると、幸子さんがしきりに時計を気にしながらやってきた。どうやら出かける時間になったのに律が配達から戻らないらしい。そわそわと外を気にしている。
「美晴ちゃん、ごめんなさい。もう律が戻ると思うんだけど、それまで表で座っていてもらえないかしら」
「えっ、でも」
さすがに八百屋の仕事は俺にはできない。
「お客さんに何か言われたら、もうすぐ律が帰るって言ってくれたらいいから。これ、念のため、律の携帯番号」
そういって、俺の返事を聞くことなく幸子さんは慌てて出かけていった。どうしよう……とりあえず、表に出てレジの前に座る。
どうかお客さんがきませんように、と思った瞬間、店の前に軽トラが止まり、五十がらみの恰幅のいい男が降りてきた。トラックの荷台には「鮨幸」とある。商店街の寿司屋だ。
「あれ? 幸子さんは?」
「あの、用事で出てて、もうすぐ律さんが戻るので……わたし、留守番でちょっとわからなくて」
「ん? 嬢ちゃん、もしかして律のコレか?」
小指を立てられた……。どうしてこう、この年代の人は若者の色恋沙汰が気になるんだろうか。
「違います。ツルさんのヘルパーで来てます」
「ふーん、年のころもちょうどいいと思ったんだが。律のやつ、結構な男ぶりなのにさっぱり女気がないからなぁ」
あの男がもてないはずはないと思う。多少無愛想でもきっと女のほうが放っておかないはずだ。ということは、周りに気づかれないようによっぽどうまくやってるのだろう。
「そうなんですか」ととりあえず相槌を打って、そのまま無言になる。こういうときは世間話とかしたほうがいいのだろうか。話題は時事問題とかでいいのか?
悩んでいるうちに、鮨幸の軽トラの後ろに並ぶように葛西商店と書かれた箱バンが止まった。よかった、帰ってきた。
「律! 遅い! この嬢ちゃんひとりで店番してっぞ」
「すいません、大将、田津の交差点で事故ってまして」
律が頭を下げながら走ってくる。事故ならどうしようもないよな。
俺は「じゃあ、わたしは……」と二人に軽く頭を下げて奥へと戻った。表で二人が今日の仕入れはどうこうと話している声が聞こえている。
そろそろ昼の準備をと動きかけたとき、律が奥へと入ってきた。
「さっきは悪かったな、遅れて」
相変わらず無愛想にそういって軽く頭を下げてきた。結構真面目なんだ、と意外に思う。
「いえ、大丈夫ですよ」
「あと、昼も……おかんが無理言ったんだろ? 悪かったな」
もう一度軽く頭を下げてきた。強面の男に謝られると逆に緊張してしまう。女ならうれしいものなのかな?
「あ、本当、大丈夫ですから。わたし料理とか好きだし、このお店に来るのも楽しいので、気にしないでください」
そういってニッコリ笑っておいた。いい男に謝られた女ならこんな感じでいいだろう。
「準備ができたら声かけますね」
そういって笑いかけると、律はいつもどおり「どうも」と表に戻っていった。はぁ、緊張する。
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