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Vegetablesー1-
3日目 水曜日 2
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今日のメニューはツルさんがいないので、まったく何も気を遣わなくていい分楽だ。ここ二日で律の食欲はよくわかったのでガッツリ系の牛丼に温泉卵、そうめん入りの澄し汁を用意する。
表の様子を見ながら、客が引くのを見計らって声をかけた。律が洗面で手を洗ってから奥へと入ってくる。
しまった! 普段はツルさんの食事を介助しているからいいけど、今日は律と二人だけだ。食べている間はどうしたらいいのだろうか。じっと横で座ってるのも変だし。
「あ、お……わたし、向こうで掃除してるので、何か必要だったら声かけてください」
ここは逃げておくほうがいいだろう。この無口な男と二人は気まず過ぎる。
「食わないのか?」
「お、わたしは家に戻ってから食べるので」
「ばあちゃんもいねえし食ってけば?」
どうしよう。正直いって遠慮したい。けど……俺は「じゃあ」とこたえて、自分の分を盛った。女が気にするように控えめな量で。
「いただきます」
「ん」
とりあえず食べよう。どうにも緊張して顔があげられない。
「虫、平気なんだな」
唐突に話しかけられた。え? 虫?
「ここの野菜、結構虫がいるだろ」
ああ、料理のときの話なのか。確かに葛西商店の野菜には虫がいる。でも、それって消毒が少ないってことなんだと思うし、おいしいから虫も食べにきてる。
「虫がいるのはおいしい証拠だと思いますよ」
「うまいか?」
「はい。スーパーの野菜より味がずっと濃くておいしいです」
本当のことなので俺は若干身を乗りだし気味で、力いっぱい断言した。
「そうか」
あ、笑った。ほんの少しだけど律がフッと笑った気がした。強面の顔が急に優しそうに見えてドキッとなる。いや、ドキッとしたのは女の格好してるからだ、きっと。
自分の店の野菜に誇りを持ってるんだなとわかった。おいしいと言ってもらえてうれしい気持ちはすごくよくわかる。葛西商店の野菜は農家から直接買い付けるほか、毎朝、律が市場へ仕入れに行っているんだと聞いた。
「食ったら、適当にあがっていいから」
そういって律は表へ戻って行った。緊張が一気に緩み、急いで牛丼を口にかきこむ。女っぽく食べるのは結構めんどうだ。
食べ終わって食器を片づけてから、ふと考え、夕食用にとカレーを準備して冷蔵庫に入れておく。幸子さん宛てに食べる前にルウを入れてもらえるようにメモを残しておいた。律に伝言してもいいのだろうけど、律としゃべるのはちょっと苦手だ。
台所を片づけて、表で店番をする律にあいさつをして帰った。
表の様子を見ながら、客が引くのを見計らって声をかけた。律が洗面で手を洗ってから奥へと入ってくる。
しまった! 普段はツルさんの食事を介助しているからいいけど、今日は律と二人だけだ。食べている間はどうしたらいいのだろうか。じっと横で座ってるのも変だし。
「あ、お……わたし、向こうで掃除してるので、何か必要だったら声かけてください」
ここは逃げておくほうがいいだろう。この無口な男と二人は気まず過ぎる。
「食わないのか?」
「お、わたしは家に戻ってから食べるので」
「ばあちゃんもいねえし食ってけば?」
どうしよう。正直いって遠慮したい。けど……俺は「じゃあ」とこたえて、自分の分を盛った。女が気にするように控えめな量で。
「いただきます」
「ん」
とりあえず食べよう。どうにも緊張して顔があげられない。
「虫、平気なんだな」
唐突に話しかけられた。え? 虫?
「ここの野菜、結構虫がいるだろ」
ああ、料理のときの話なのか。確かに葛西商店の野菜には虫がいる。でも、それって消毒が少ないってことなんだと思うし、おいしいから虫も食べにきてる。
「虫がいるのはおいしい証拠だと思いますよ」
「うまいか?」
「はい。スーパーの野菜より味がずっと濃くておいしいです」
本当のことなので俺は若干身を乗りだし気味で、力いっぱい断言した。
「そうか」
あ、笑った。ほんの少しだけど律がフッと笑った気がした。強面の顔が急に優しそうに見えてドキッとなる。いや、ドキッとしたのは女の格好してるからだ、きっと。
自分の店の野菜に誇りを持ってるんだなとわかった。おいしいと言ってもらえてうれしい気持ちはすごくよくわかる。葛西商店の野菜は農家から直接買い付けるほか、毎朝、律が市場へ仕入れに行っているんだと聞いた。
「食ったら、適当にあがっていいから」
そういって律は表へ戻って行った。緊張が一気に緩み、急いで牛丼を口にかきこむ。女っぽく食べるのは結構めんどうだ。
食べ終わって食器を片づけてから、ふと考え、夕食用にとカレーを準備して冷蔵庫に入れておく。幸子さん宛てに食べる前にルウを入れてもらえるようにメモを残しておいた。律に伝言してもいいのだろうけど、律としゃべるのはちょっと苦手だ。
台所を片づけて、表で店番をする律にあいさつをして帰った。
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