10 / 160
Vegetablesー1-
4日目 木曜日 2
しおりを挟む
箱バンの中はちょっと独特の土の匂いがした。いつも野菜を積んでいるからだろう。律の運転は上手く、滑らかに道をいく。
途中、鮨幸に寄って注文を受けていたのだろう青果を下ろしていった。ここまでは、ずっと無言だ。これはこれで気まずいのだけど、できればこのまま無言で家に着いてほしい。
――が、その希望は叶わなかった。
律が道路わきの広場に車を停めた。うわぁ、これは絶対なにかある。俺の背中は暑さだけじゃなく汗で濡れてきていた。
律が無言で俺を見る。俺もどうしていいか分からずに見つめ返した。
「……ちあき、なんだってな、名前」
やっぱり、きた。ぎごちなく頷く。
「どんな字書くんだ?」
これは確実に怪しまれている。
「数の千に、文章の章」
「ふーん……」
律は左手で灰皿を引き出し、タバコに火をつけた。タバコ吸うとか、話が長引く前提じゃないか。嫌な汗、かいてきた……。
ばれてるかどうか確証がなく、男女どちらの言葉遣いでしゃべったらいいか決めきれずに、俺はただ黙っていた。
「男、だな」
結果は直球できた。問いかけですらなくて断定されている。
「……ごめんなさい……」
とりあえず謝っておく。頭を下げたものの、恥ずかしさで顔があげられない。これで俺は女装の変態に決定だ。
なにも言わない律を不思議に思って、ゆっくりと顔をあげると、驚くほど近くに律の顔があった。えーと、距離的に十センチくらい?
――って近すぎる!
そのまま硬直していると、更に律の顔は接近して……キスされた……っ!
人間予想外のことが起きると意外に動けないものなんだ……ってそうじゃなくて、なに、なにされてるんだ? そうこうしてるうちにも、律の体重がのしかかってきて余計に動けず、しかもキスはだんだん深くなっていく。やばいっ。
「ちょっ……止めろって!!」
隙を見て思い切り押し返す。体格差を考えて手加減なしで突き飛ばしたけど、思ったよりも突き放せなかった。
「なに、すんだよ!?」
焦って唇をぬぐう俺を律は淡々と見て、意外そうに――。
「そういう趣味じゃないのか?」
もしかして、女装趣味のいわゆるオカマだと思われた!? それでキスって、いや、なんかおかしくないか? ああ、もう、わけがわからない。
「俺は母さんの代理で行ってて、ツルさんは男のヘルパーだと嫌がるからってこんな格好……本当は本物の美晴が行ければいいんだろうけど、あいつは仕事があるし、それに料理できねぇから……それで……」
一気にまくし立てて沈黙――。伝わっただろうか。
「あ、と……母さんもあと数日で多分直るし、それまでだけツルさんに秘密にしててくれるとありがたいんだけど?」
もう開き直るしかないだろう。こいつさえ黙っててくれたら済む話なんだから。じいっと律を見る。律は二本目のタバコに火をつけた。
早く帰りたい。
「黙っとく代わりに、うちにいる間、俺と付き合え」
「……はぁ……?」
今なんて?
「どうせ女の振りしとくんだろ? 傍から見りゃおかしくねぇしな」
「俺、男だし……」
頭がまともに動いていない。こいつは一体なにを言っているんだ?
「俺は女には興味がない」
「え……えぇえ!?」
途中、鮨幸に寄って注文を受けていたのだろう青果を下ろしていった。ここまでは、ずっと無言だ。これはこれで気まずいのだけど、できればこのまま無言で家に着いてほしい。
――が、その希望は叶わなかった。
律が道路わきの広場に車を停めた。うわぁ、これは絶対なにかある。俺の背中は暑さだけじゃなく汗で濡れてきていた。
律が無言で俺を見る。俺もどうしていいか分からずに見つめ返した。
「……ちあき、なんだってな、名前」
やっぱり、きた。ぎごちなく頷く。
「どんな字書くんだ?」
これは確実に怪しまれている。
「数の千に、文章の章」
「ふーん……」
律は左手で灰皿を引き出し、タバコに火をつけた。タバコ吸うとか、話が長引く前提じゃないか。嫌な汗、かいてきた……。
ばれてるかどうか確証がなく、男女どちらの言葉遣いでしゃべったらいいか決めきれずに、俺はただ黙っていた。
「男、だな」
結果は直球できた。問いかけですらなくて断定されている。
「……ごめんなさい……」
とりあえず謝っておく。頭を下げたものの、恥ずかしさで顔があげられない。これで俺は女装の変態に決定だ。
なにも言わない律を不思議に思って、ゆっくりと顔をあげると、驚くほど近くに律の顔があった。えーと、距離的に十センチくらい?
――って近すぎる!
そのまま硬直していると、更に律の顔は接近して……キスされた……っ!
人間予想外のことが起きると意外に動けないものなんだ……ってそうじゃなくて、なに、なにされてるんだ? そうこうしてるうちにも、律の体重がのしかかってきて余計に動けず、しかもキスはだんだん深くなっていく。やばいっ。
「ちょっ……止めろって!!」
隙を見て思い切り押し返す。体格差を考えて手加減なしで突き飛ばしたけど、思ったよりも突き放せなかった。
「なに、すんだよ!?」
焦って唇をぬぐう俺を律は淡々と見て、意外そうに――。
「そういう趣味じゃないのか?」
もしかして、女装趣味のいわゆるオカマだと思われた!? それでキスって、いや、なんかおかしくないか? ああ、もう、わけがわからない。
「俺は母さんの代理で行ってて、ツルさんは男のヘルパーだと嫌がるからってこんな格好……本当は本物の美晴が行ければいいんだろうけど、あいつは仕事があるし、それに料理できねぇから……それで……」
一気にまくし立てて沈黙――。伝わっただろうか。
「あ、と……母さんもあと数日で多分直るし、それまでだけツルさんに秘密にしててくれるとありがたいんだけど?」
もう開き直るしかないだろう。こいつさえ黙っててくれたら済む話なんだから。じいっと律を見る。律は二本目のタバコに火をつけた。
早く帰りたい。
「黙っとく代わりに、うちにいる間、俺と付き合え」
「……はぁ……?」
今なんて?
「どうせ女の振りしとくんだろ? 傍から見りゃおかしくねぇしな」
「俺、男だし……」
頭がまともに動いていない。こいつは一体なにを言っているんだ?
「俺は女には興味がない」
「え……えぇえ!?」
10
あなたにおすすめの小説
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる