Vegetables

二一

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Vegetablesー1-

5日目 金曜日 2

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「いい加減にしろって!! 誰かきたらどうすんだよ!?」

 一瞬の隙をついて律の顔をわずかに押しのけ、小声で怒鳴った。なかなか器用な真似だと自分でも思う。

「別に。ここにいる間はオンナなんだろ? ……千章」

 最後の名前は耳元で囁かれた。温かい息使いにゾクッとする。つまりは、どうみても男女にしか見えないんだから、誰かに見られてもいいだろうということか?

 冗談じゃない。大体からして、ツルさんも幸子さんも俺を美晴だと思っているんだ。これで律と(不本意だけど)仲良くしているようなところを見られて、おまけにそれが美晴の耳にでも入ったら――俺は美晴に殺されるかも知れない……。

「おや、律、帰っとったんか」

 しまった、時計の針が十二時を指している。昼食をとりにツルさんが入ってきた。俺と律の距離はあきらかに不自然だ。ツルさんは目を細めて――。

「おやまぁ、仲ようなって」

 と笑いながらいつもの場所に座った。俺は本気で泣きたくなった。

 律は何事もなかったように洗面へ行き、俺は機械仕掛けの人形のように無意識に昼食をそれぞれの皿によそった。

「美晴ちゃん、それどうしたの?」

 幸子さんが俺の髪を結った輪ゴムを指して笑った。何かおかしいのだろうか?

「いくらなんでも年頃の女の子が輪ゴムはないわよ。ちょっと待ってて」

 幸子さんはそう言って、いったん箸を置くと二階へと上がっていった。すぐに戻ってきた幸子さんの手には、白いレースの、ドーナツ型の布を持っている。はい、これあげるわ、と渡されて反射的に受け取ってしまったものの、どうしていいか分からない。

「シュシュよ。知らない?」

「あ、いえっ……」

 名前を聞いて思い出した。そういえば美晴もこんな感じのをいくつか洗面台に放置してたように思う。確か使い方は――。

 俺はたどたどしく輪ゴムを解いて、そのシュシュで髪を結いなおした。鏡がないからうまくできたかどうか自信がない。幸子さんを見るとニコニコしてるので多分大丈夫だろう。

 律はと見ると、われ関せずと食事を続けているようだが、よく見ると口元がうっすら笑っている。なんか、むかつく――。

 片づけを終えて家に帰ろうと店先に出ると、外はバケツを返したような土砂降りになっていた。今日は天気にまで嫌がらせをされている気がする。

 レジの幸子さんにあいさつをして、傘を差そうとすると慌てて引き止められた。

「美晴ちゃん、こんな雨じゃ危ないから、車で送るわ」

 幸子さんはそういって奥の律を呼んだ。もう本当、勘弁してほしい。昨日の今日で律の車に乗る勇気はない。

「幸子さん、近いし大丈夫ですから。律さんもお仕事中だし」

「いいのよ、遠慮しなくて。どうせこの天気じゃ店も暇なんだから」

 幸子さん、本当に遠慮なんてしてませんから、という心の叫びは、当たり前だが幸子さんには届かなかった。奥から律が車のキーを手にやってくるのが見えた。もう断頭台にのぼるような気分だ。
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