14 / 160
Vegetablesー1-
5日目 金曜日 3
しおりを挟む
律はいつもの営業車じゃなく、家族用のものなのだろう、ワゴン型の乗用車を店の前にまわしてくる。
幸子さんが助手席を開けて傘を差しかけてくれ、俺は流されるように乗ってしまった。
「そんなに警戒すんな」
律が喉の奥で笑いながらステアリングを操作する。ワイパーを最高速度でまわしていても視界が見えないような雨だというのに、その運転にはまったくよどみがなく、ペーパードライバーの俺には逆立ちしたって真似できない。
ここは結構な田舎だし、俺も就職したら車を買う予定でいたが、結局就職先が倒産してしまい、ぷーの身で車とは口が裂けても言えなかった。
「よく言うよ……」
俺は見えない窓の外を見ながら最高に落ちたテンションで呟いた。
葛西商店と俺の家は近く、普通に歩いても二十分ほどだから、律の運転する車はほどなくして自宅前に着いた。
何も起こらなかったことを意外に思って律をみると、その気持ちに気づかれたのか軽くキスされた。やばい、ちょっと慣れてきた自分に嫌になる。
「もの足りないようなツラだな。なにか期待してたか?」
「誰が!」
ニヤリと笑いながら問いかけられて、慌ててドアを開けようとするが、車内からのロックがわからず戸惑ってしまう。
段々焦ってくる俺を律はおもしろそうに見ている。やっとロック解除を見つけて突起を押し上げると、律に腕を捕まえられた。
「明後日の昼すぎ、迎えに来るから待っとけ」
「来んな!」
咄嗟に叫んだ。こっちの予定も聞かずにとか、いろいろあるけど、休日に家に来られたら困る。俺だって休日にまで女装したくはないし、もし女装して出かけようとするところを美晴にでも見られたらと思うとどう考えてもありがたくないことになる。
「あ、いや、日曜は家の用があるし……」
「…………」
黙ったままの視線が怖い。
「ほら、うちも母子家庭だから、家事が分担制なんだよ。母さんが洗濯、妹が掃除、そんで俺が炊事担当。だから毎週日曜は妹と食料の買い出しやら行くようになってんだ」
俺は睨む律にびびってしまって正直に言い訳をしてしまった。いや、でも本当のことだし。
「日曜は妹に断っとけ。ダチとでも行くっていや、いいだろ」
「は……?」
「男の格好でこいよ」
「当たり前! だれが休みにまで女装するかよ! ……ってか頼むから家には来んな。この先にコンビニあるから」
情けないが最後のほうはあきらかにお願い口調になってしまった。せっかくの休日が……。あきらかに不安げな顔をしてたのだろうか、律は目を細めてフッと笑うと俺の前髪をそっと撫でた。俺が女だったら今ので完璧にコロッといってると思う。
そのあとは俺が怒り出すまでキスをされて、やっと車から降りさせてもらえた。今日が大雨でよかった。少なくとも外からはまったく見えていないだろうから。
家に入った瞬間、玄関先にうつぶせで倒れこみ、しばらくそのまま動けなかった。生まれて初めて経験する「絶体絶命のピンチ」だった。
幸子さんが助手席を開けて傘を差しかけてくれ、俺は流されるように乗ってしまった。
「そんなに警戒すんな」
律が喉の奥で笑いながらステアリングを操作する。ワイパーを最高速度でまわしていても視界が見えないような雨だというのに、その運転にはまったくよどみがなく、ペーパードライバーの俺には逆立ちしたって真似できない。
ここは結構な田舎だし、俺も就職したら車を買う予定でいたが、結局就職先が倒産してしまい、ぷーの身で車とは口が裂けても言えなかった。
「よく言うよ……」
俺は見えない窓の外を見ながら最高に落ちたテンションで呟いた。
葛西商店と俺の家は近く、普通に歩いても二十分ほどだから、律の運転する車はほどなくして自宅前に着いた。
何も起こらなかったことを意外に思って律をみると、その気持ちに気づかれたのか軽くキスされた。やばい、ちょっと慣れてきた自分に嫌になる。
「もの足りないようなツラだな。なにか期待してたか?」
「誰が!」
ニヤリと笑いながら問いかけられて、慌ててドアを開けようとするが、車内からのロックがわからず戸惑ってしまう。
段々焦ってくる俺を律はおもしろそうに見ている。やっとロック解除を見つけて突起を押し上げると、律に腕を捕まえられた。
「明後日の昼すぎ、迎えに来るから待っとけ」
「来んな!」
咄嗟に叫んだ。こっちの予定も聞かずにとか、いろいろあるけど、休日に家に来られたら困る。俺だって休日にまで女装したくはないし、もし女装して出かけようとするところを美晴にでも見られたらと思うとどう考えてもありがたくないことになる。
「あ、いや、日曜は家の用があるし……」
「…………」
黙ったままの視線が怖い。
「ほら、うちも母子家庭だから、家事が分担制なんだよ。母さんが洗濯、妹が掃除、そんで俺が炊事担当。だから毎週日曜は妹と食料の買い出しやら行くようになってんだ」
俺は睨む律にびびってしまって正直に言い訳をしてしまった。いや、でも本当のことだし。
「日曜は妹に断っとけ。ダチとでも行くっていや、いいだろ」
「は……?」
「男の格好でこいよ」
「当たり前! だれが休みにまで女装するかよ! ……ってか頼むから家には来んな。この先にコンビニあるから」
情けないが最後のほうはあきらかにお願い口調になってしまった。せっかくの休日が……。あきらかに不安げな顔をしてたのだろうか、律は目を細めてフッと笑うと俺の前髪をそっと撫でた。俺が女だったら今ので完璧にコロッといってると思う。
そのあとは俺が怒り出すまでキスをされて、やっと車から降りさせてもらえた。今日が大雨でよかった。少なくとも外からはまったく見えていないだろうから。
家に入った瞬間、玄関先にうつぶせで倒れこみ、しばらくそのまま動けなかった。生まれて初めて経験する「絶体絶命のピンチ」だった。
10
あなたにおすすめの小説
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる