Vegetables

Vegetablesー２ー

絶体絶命 ５

「だから、今度二人で遊びにいこ？」

　いや、むりだし。ってかここで名前を呼ぶな。もし聞こえたら――。

「あ、うん……ごめん、ちょっとお手洗い行ってくる」

　そう言って俺は逃げるように席を立った。




　居酒屋のトイレは昔ながらの男女共同の造りになっていて、俺は一旦個室に逃げ込んだ。落ち着こうと深呼吸をする。

　これからどうしよう。できればこのままこっそり逃げ帰るのが一番なんだけど、むりだよな。

　落ち着く間もなく、外で誰かが待っている気配がした。あ、順番かわらなきゃ。

　すみません、と頭を下げながらトイレを出て――。

「…………っ！！」

　そのまま個室の中に押し戻された。ドアに鍵がかかる。

「……律！！」

　ばれてた――！　腕を捕まれたまま壁に押し付けられる。

「千章……ずいぶんとめかしこんでるな？」

「律、ちが・・う……これは……」

　怖い――。事情を話したいのに怖くて言葉がでなかった。律はそれほどの尖った空気をまとってたんだ。

「なにをしてたんだ？」

　ゆっくりと落ち着いた声が余計に怖い。

「美晴に頼まれて……。急にひとり来れなくなったからって」

「……っふざけんな！！」

　殴られる！！　そう感じて目をギュッと瞑った。

「……いっ……た……」

　拳のかわりにきたのは、噛み付くような律のキス。押さえつけられた腕は感覚がなくなるほど強く握られている。痛い……。

「千章―？　大丈夫？」

　そのとき外から美晴の声が聞こえた。トイレに行ったまま戻らないことを心配したんだろう。

　けれど唇は塞がれていて、返事をすることができない。

　執拗に責める律の舌に、吐息と一緒にこぼれそうになる声を必死で我慢した。目に涙がにじんでくる。

　律の唇が離れ、そのまま首筋を強く吸われた。

「明日……覚悟しとけ」

　耳元で囁かれる――。

　俺は怖くて、そのまま逃げるようにトイレから出た。