Vegetables

Vegetablesー２ー

祝！ 就職 ２

　―……ポーン、ピンポーン……

　ハッとして俺は飛び起きた。慌てて階段を駆け下りる。

「はいー？」

　玄関を開けると――。

「千章……おまえ、なんだそれ」

　律が呆れたように俺の頭を触った。あ、多分寝癖――かも。

「寝てた……いきなり来んなよ。びっくりする」

「電話した」

「……ゴメンナサイ」

　ここは謝るところだ。多分寝てたから気づけなかった。

　家には俺一人だし、リビングへ律を招き入れる。

「ほら、見舞い」

「見舞いって言うなっ！」

　だれのせいだよ――いや、元はといえば俺のせいなんだけど。ブツブツいいながら手渡されたナイロンを受け取った。

「おぉ！　柿じゃん！」

「配達の途中で転げた」

　柿には小さなキズがついていた。売り物にならないから持ってきたのだろう。このくらいのキズ、俺だったら気にもしないけどなぁ。

　味見がまだだから一個むけと放られて、俺はキッチンへ柿をむきに行った。

　律は普通に今朝も五時起きで市場行ったんだよなぁ。あいつの体力はどうなってるんだよ、人間じゃねぇ。

　小皿に盛ってフォークを添える。

「甘いか？」

　一口かじった律に聞く。律に無言で手招きされた。

「……っんっ！」

　―――で、口移しで食わされた。甘い……。

「……普通に一切れよこせよ」

「甘いな」

　俺の抗議は当たり前のように無視された。別にいいけど。横から手づかみで奪って口に放り込む。うん、いい感じの硬さで旨い。

「仕事、明後日からだっけか？」

　そうだ、一度は倒産で採用取り消しになった由乃屋で、俺は働けることになったんだ。元々の旅館ではなくて、こじんまりとした料理屋だけど調理場希望の俺にはどちらでも構わない。

　これは律が由乃屋の社長に俺を紹介してくれて決まったようなものだった。

　見た目は結構怖い律だけど、実は面倒見がいいし優しい。

「出勤は明後日から。開店は十日からだって」

「がんばれよ」

　そういって笑った律に俺はどぎまぎしてしまった。こいつの笑顔に俺は弱いんだ。

「なに照れてんだ？」

「照れてない！」

「惚れたか？」

　そうくるか――。

「もともと惚れてんだよっ」

　いつか言われた律の台詞を真似してやった。言った瞬間、自分に恥ずかしくなる――。まだまだ修行が足らない。

　いつものように俺が怒るまでキスをして、またな、と律は仕事に戻っていった。