Vegetables

二一

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Vegetablesー3ー

正月休み 2日目 1

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 今日の葛西商店はいつも通りだ。俺は幸子さんにあいさつをして、ツルさんの部屋へと行った。律は配達で出かけている。

「ツルさん、今日なにか食べたいものありますか?」

 テレビの前のツルさんに声をかける。ツルさんが少し考えるような仕草をして「てんぷらがいいのぉ」と笑った。俺は快く了解して部屋の掃除にとりかかった。

 ひと段落してツルさんとお茶をしていると、表のほうから誰かが入ってくる足音がした。律が帰ったにしては少し早い。

「ツルばあちゃん、ひさしぶり」

 落ち着いた声と同時に入ってきたのは昨日の、律の同級だといっていた金髪の男だった。確か幸子さんが悠理くんとか言ってた。

「おぉ、おぉ、ゆうちゃんかい。ひさしいなぁ」

 ツルさんも目を細めて歓迎している。幸子さんたちがお葬式に行ってたことから考えると、家族ぐるみのお付き合い、という感じなんだろう。

 俺は席を立って、お客さん用にとお茶の準備をすることにした。

 熱い煎茶と菓子を盛って「どうぞ」と出す。

「あれ、きみ昨日の。従業員……じゃないよね?」

「あ、いつもは母がツルさんのヘルパーで来ているんですけど、ちょうど研修で来れないので、俺が代わりに来てます」

「そうなんだ。俺は木瀬悠理(きせゆうり)、律の高校時代の同級生です。今は東京のほうに行ってるけどね」

「あ、佐倉千章です」

 俺はそれ以外には特に自己紹介できることもないので黙ってしまった。なんとなく居辛くて、少し早いけど昼食の準備にとりかかることにする。

 俺はあまりコミュニケーション能力が高くない。人当たりがいいように見られるけど、それは単に流されやすい性格の特性だ。仕事なら普通にしゃべれるんだけどな。

 そんなことを思いながら、久しぶりの葛西家の台所に立った。

 今日はツルさんのリクエストでてんぷらだ。揚げ物は由乃屋でもしているから、腕もあがっていると胸を張れる。鱈をメインにして、季節柄、旬の野菜は少ないけど、根菜を中心に準備をしていった。

 そういえば表に今日は葉付きの人参があったよなと思いだす。俺は幸子さんに葉っぱをもらえないか聞きに行った。

 実は人参の葉ってけっこう揚げるとおいしい。例えるならパセリのてんぷらみたいな感じかな。揚げたてでないとしんなりしてしまうから、食べる直前にしないとダメだけど。

 そういえば、あの木瀬さんって人も食べていったりするかもと思い、心持ち多めに用意をする。

 足音が聞こえ、後ろでドアが開く音がした。
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