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Vegetables―スピンオフ―
あいつらの日常 1 智×拓
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そろそろ半袖がメインコーデになりつつある、五月のとある金曜日。
オレは職業柄久しぶりの週末休みをゲットして、拓と待ち合わせをしていた。拓は昼間は作業用のツナギだし、お互い着替えをしてから会う予定にしている。
ちなみに、拓は小学校からの付き合いで、幼馴染で、それでもって今は恋人(仮)だ。
どうして(仮)が付くのかというと、オレの持論「付き合ってみなきゃわからない」を逆手に取られ、好きになるかどうかお試しで付き合おうとなってしまったからなんだ……。
それでも、男同士だし確実に玉砕予定だったオレにしたら、充分な成果なんだけどな。とにかく調子が狂ったことは間違いない。
待ち合わせ場所である、潰れたレンタル屋の駐車場には俺が先に着いた。拓が来るまで車内でテレビでも見ておこう。
ややあって、重低音が聞こえてきた。
拓の車だ。あいつは整備士という職業柄か車にいろいろと手を加えていて、この辺の車好きの間ではちょっとした有名人だ。
車高を落とした、いかつい漆黒のミニバンから、あのほんわかした拓が出てくると、大抵の人は二度見する。
「拓、またマフラー変えた?」
「さとちゃん、わかる?最近社長が口うるさくてさぁ。検対のマフラーに替えたんだよ」(※検対=車検対応品)
なんとなく車の音が変わったように思って聞いてみると、拓が嬉々として説明してくれる。いったい車にいくらつぎ込んでるのか、オレとしては想像できない。
それでもって、車好きの拓と遊ぶときは、基本的に拓の車になる。オレのミニバンはここに停めっぱなしておくんだ。田舎のいいところは駐車場にだけは困らないってことだな。
「もうメシくったか?」
「食べたよ~。カレー」
いや、メニューは聞いていないけど。そういわれるとターメリックの匂いがしてるかも。
「どこ行く?」
「ん~……玉突き、かなぁ。最近行ってないし」
「じゃ、ハスラー行こう」
ハスラーはこの辺でいちばん大きいビリヤード場なんだ。朝九時まで開いているから、カラオケやらゲーセンで遊んだ後に、行くところがないってときには大抵ここになる。
拓の助手席に乗り込んで、ハスラーへと向かう。
午後九時に近い週末の店内はほどよく込み合っていた。
「よぉ、久しぶり」
ハスラーの店長がオレらを見つけて手をあげた。ハッキリ言ってオレは常連だ。
「台、空いてる?」
「三番、片すからちょっと待って」
店長がスタッフに片づけを指示して、待つ間にオレは自販機でコーヒーを買う。コーヒーが苦いとのたまう拓には炭酸飲料だ。
「智、おまえ最近おとなしいじゃないか?」
そうきたか……店長にはオレの所業は大抵ばれている。というより、夜遊びする場所が限られてる田舎では、隠しようもないんだけど。
「店長、オレも成長したんですって」
笑って誤魔化しておく。そりゃ、週に何度も女連れて来てたんだもんな。
今となっては正直何があんなに楽しかったのか思い出せない。隣で缶ジュースを飲む拓を見る。
……かわいいよなぁ……。
ほれ、いいぞ、と店長がボールを手渡してきた。
「何回勝負にする~?」
「五回」
「さとちゃん、なに賭ける?」
賭けるといっても大げさなものじゃない、ちょっとしたゲームの彩りなんだ。
「オレが勝ったら拓のキス一個な」
拓の耳元で言ってやる。こういう機会でもなくちゃ、なかなかそんな雰囲気にならないんだ。正直いって、オレはむっちゃしたいんだけどな。
女なら全然気負うことなく先に進めるんだけど、お試しでって言われてる手前「嫌われたら……」って恐怖がなかなか手を出せなくしている。
拓はあっさりといいよ~なんて笑った。
「じゃあ、ぼくが勝ったら夜食は吉田屋の牛丼ね~」
「げっ……この後かよ!?」
ちなみに吉田屋は誰もが知っている牛丼チェーンだけど、最寄の店舗まではここから高速使っても一時間はかかる。
気合入れて勝たないと、せっかくの週末は疲れで寝て過ごすことになりそうだ。
二勝二敗で迎えた五戦目、オレにチャンスが巡ってきた。ポケットの近く僅か十センチのところに九番の的球がある。オレは慎重にキューを手球に定め、九番の手前にある、六番の左隅を狙った。
よしっ、狙い通り! 六番の的球は斜め右方向に移動し、九番にぶつかる……。
「……あぁあああ!!」
ポケットの半分で9番球が止まっていた。拓がにやっと笑って、同じように六番を狙って手球を突く。当たり前だけど、九番球はあっさりとポケットに吸い込まれていった……。
「やったぁ!牛丼!」
拓が両手を叩いて飛び跳ねた。店長が離れた場所から「お気の毒」とふざけて十字を切るジェスチャーをしているのが見えた。
オレは職業柄久しぶりの週末休みをゲットして、拓と待ち合わせをしていた。拓は昼間は作業用のツナギだし、お互い着替えをしてから会う予定にしている。
ちなみに、拓は小学校からの付き合いで、幼馴染で、それでもって今は恋人(仮)だ。
どうして(仮)が付くのかというと、オレの持論「付き合ってみなきゃわからない」を逆手に取られ、好きになるかどうかお試しで付き合おうとなってしまったからなんだ……。
それでも、男同士だし確実に玉砕予定だったオレにしたら、充分な成果なんだけどな。とにかく調子が狂ったことは間違いない。
待ち合わせ場所である、潰れたレンタル屋の駐車場には俺が先に着いた。拓が来るまで車内でテレビでも見ておこう。
ややあって、重低音が聞こえてきた。
拓の車だ。あいつは整備士という職業柄か車にいろいろと手を加えていて、この辺の車好きの間ではちょっとした有名人だ。
車高を落とした、いかつい漆黒のミニバンから、あのほんわかした拓が出てくると、大抵の人は二度見する。
「拓、またマフラー変えた?」
「さとちゃん、わかる?最近社長が口うるさくてさぁ。検対のマフラーに替えたんだよ」(※検対=車検対応品)
なんとなく車の音が変わったように思って聞いてみると、拓が嬉々として説明してくれる。いったい車にいくらつぎ込んでるのか、オレとしては想像できない。
それでもって、車好きの拓と遊ぶときは、基本的に拓の車になる。オレのミニバンはここに停めっぱなしておくんだ。田舎のいいところは駐車場にだけは困らないってことだな。
「もうメシくったか?」
「食べたよ~。カレー」
いや、メニューは聞いていないけど。そういわれるとターメリックの匂いがしてるかも。
「どこ行く?」
「ん~……玉突き、かなぁ。最近行ってないし」
「じゃ、ハスラー行こう」
ハスラーはこの辺でいちばん大きいビリヤード場なんだ。朝九時まで開いているから、カラオケやらゲーセンで遊んだ後に、行くところがないってときには大抵ここになる。
拓の助手席に乗り込んで、ハスラーへと向かう。
午後九時に近い週末の店内はほどよく込み合っていた。
「よぉ、久しぶり」
ハスラーの店長がオレらを見つけて手をあげた。ハッキリ言ってオレは常連だ。
「台、空いてる?」
「三番、片すからちょっと待って」
店長がスタッフに片づけを指示して、待つ間にオレは自販機でコーヒーを買う。コーヒーが苦いとのたまう拓には炭酸飲料だ。
「智、おまえ最近おとなしいじゃないか?」
そうきたか……店長にはオレの所業は大抵ばれている。というより、夜遊びする場所が限られてる田舎では、隠しようもないんだけど。
「店長、オレも成長したんですって」
笑って誤魔化しておく。そりゃ、週に何度も女連れて来てたんだもんな。
今となっては正直何があんなに楽しかったのか思い出せない。隣で缶ジュースを飲む拓を見る。
……かわいいよなぁ……。
ほれ、いいぞ、と店長がボールを手渡してきた。
「何回勝負にする~?」
「五回」
「さとちゃん、なに賭ける?」
賭けるといっても大げさなものじゃない、ちょっとしたゲームの彩りなんだ。
「オレが勝ったら拓のキス一個な」
拓の耳元で言ってやる。こういう機会でもなくちゃ、なかなかそんな雰囲気にならないんだ。正直いって、オレはむっちゃしたいんだけどな。
女なら全然気負うことなく先に進めるんだけど、お試しでって言われてる手前「嫌われたら……」って恐怖がなかなか手を出せなくしている。
拓はあっさりといいよ~なんて笑った。
「じゃあ、ぼくが勝ったら夜食は吉田屋の牛丼ね~」
「げっ……この後かよ!?」
ちなみに吉田屋は誰もが知っている牛丼チェーンだけど、最寄の店舗まではここから高速使っても一時間はかかる。
気合入れて勝たないと、せっかくの週末は疲れで寝て過ごすことになりそうだ。
二勝二敗で迎えた五戦目、オレにチャンスが巡ってきた。ポケットの近く僅か十センチのところに九番の的球がある。オレは慎重にキューを手球に定め、九番の手前にある、六番の左隅を狙った。
よしっ、狙い通り! 六番の的球は斜め右方向に移動し、九番にぶつかる……。
「……あぁあああ!!」
ポケットの半分で9番球が止まっていた。拓がにやっと笑って、同じように六番を狙って手球を突く。当たり前だけど、九番球はあっさりとポケットに吸い込まれていった……。
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