Vegetables

二一

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Vegetables―スピンオフ―

St. Valentine's Day 5

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 金曜日の朝、美晴が嬉々としてかわいらしくラッピングされた箱を手に仕事へと向かう姿を横目に、おれはまだ性懲りもなく悩んでいた。

 昨日は配達に来る律と顔を合わさないようにわざと厨房の奥で在庫整理などしてしまい、そのことで更に顔を合わせずらい状況を自ら作りだしてしまっている。

 もうすぐ出勤時間だ――。

 冷蔵庫の扉に手を伸ばしつつ、結局はドアを開けられずにおれは仕事へと向かった。

 仕事中は無心に動くことで悩みも忘れられる――終業時間が迫ることがこんなにも怖いと思ったのは初めてだ。

 結局この日も配達に来る律を避けてしまい、帰り道、おれは本気で自己嫌悪に陥っていた。

 自宅は真っ暗で玄関には鍵がかかり家族の不在を告げている。母は今晩ヘルプで老人ホームの夜勤に行くのだと言っていた。

 本命チョコを持って行った美晴はもしかするとお泊りでもするのかも知れない。おれたちの母親はそういうところは放任で、というよりも二十歳を過ぎれば自己責任で――のスタンスだ。

 真っ暗なキッチンに入り冷蔵庫を開ける。冷蔵庫の明かりの中に、味気ない紙箱が浮かび上がった。

 無意識に取り出してキッチンの電気を引っぱる。ふとダイニングテーブルを見るとメモが1枚……。

 美晴の字だ――。

『チョコ、ちゃんと渡してきなよ』

 朝、チョコレートの箱を持って出た美晴には家に戻ってくる理由なんてないはずだ。それなのにこのメモがあるってことはわざわざ帰ってきたんだよな……。

 もしかして律とのことを環に聞いて知っているのかも知れない。

 おれの性格を熟知してる美晴は、手づくりしたいってのを口実に俺の背を押してくれてたのかな?

 おれは手近にあった紙袋にチョコを納めると、今つけたばかりの電気を消して家を出た。

 まもなく日付を跨ごうとしているということもあって、住宅街の道は人の気配もほとんど感じられない。

 白く煙る息を吐きながら通いなれた道を足早に進んだ。



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