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Vegetables―スピンオフ―
St. Valentine's Day 6
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軽く息が上がってきたころ、葛西商店のシャッターが目に飛び込んできた。
向かいの歩道から見上げると2階の律の部屋には電気が灯っている。珍しくまだ起きているんだという事実にどこか心がざわざわした。
コートのポケットから取り出した携帯電話をゆっくりと開き、かじかむ指で短縮ボタンを押す――そこから発信ボタンを押すのには随分と勇気がいった。
なんて言おう――。
悩んだところで答えが出ることもなく、おれは小さく息を吸って思い切り小さなボタンを押し込んだ。
呼び出し音が1回、2回――。
――はい……。
低い律の声に思わず飛び上がった。心臓がばくばくしてる。
なんて言おう――。
焦りだけが先に立ってしまい言葉が出てこない。
「……律、あの――」
とにかく紡いだ言葉はその後が続けられず、無言で先を促しているんだろう律に更に焦ってしまう。
過呼吸になるんじゃなかというくらい浅い息を繰り返す。
もう一度しゃべろうと息を吸った瞬間、遠くに救急車のサイレンが聞こえ始め、それは段々と近づいてやがて目の前の道路を通り過ぎて行った。
「……千章、おまえ――」
電話の向こうで少し驚いたような律の声が耳に届き――。
「律?」
見上げた窓におれを見下ろす律の姿が現れた。
あ、救急車の音……。
「ちょっと待ってろ――」
そういった瞬間通話が切れ、律が窓の向こうへと消えた。同時に部屋の明かりも消える。
やがて店の裏口から出た律が道路を横切って来る姿がはっきりと見えた。まもなく寝ようとしてたのだろう、スポーツブランドのジャージにとりあえず羽織ったという感じのダウンジャケット姿だ。
「いつからいたんだ?」
「今来たトコ」
「うそつけ――」
律の手が携帯電話を握りしめたままのおれの指を開いた。律の手から伝わる熱はかじかんだ手に刺すような痛みをもたらした。
「入るか?」
背後を指しながら問いかける律に首を振ってみせる。どう考えても人の家を訪ねる時間じゃない。幸子さんだってツルさんだってもう寝てるだろう。
「律――そのすぐ帰るし、おまえ明日も仕事だろうし――おれ……」
どこから言えばいいのか全く考えてなかった。何かを言わなきゃと焦る気持ちは支離滅裂な単語をただ発生させている。
そんなおれを律は何も言わずに、ただ手を包み込んだまま待っていた。
ピピ……律の腕時計が日付が変わったことを伝える電子音を鳴らす。
「――コレ」
結局おれは何も言えずに持っていた紙袋を差し出した。律の手は待てどもそれを受け取ってはくれない。
「千章、ちゃんと言葉にしろ」
絶望的に俯いたままのおれに、少し和らいだ口調の律の声が降りてくる。その声に勇気付けられたのか、おれは自然と顔をあげていた。
「律……おれさ、律のことが好きなんだ」
いきなり何言ってるんだよ、おれ――。
「おまえに嫌われたくないんだ……」
言ってるおれにだって脈絡がない言葉、律にすればそれこそ意味不明だろうな。案の定怪訝に見返す律の視線とかち合った。
「千章? 何のことだ?」
「これさ、美晴と一緒に作ったんだ」
ここにきてやっと律の手が紙袋を受け取った。握っていたおれの手を離してゆっくりと中身を取り出す。
おれは耐え切れなくなって下を向いた。
「店とか行く度にさ、気になって悩んでて……そしたらちょうど美晴が作るの手伝えって言ってきて、ちょうどいいなって――材料とか買うの恥ずかしいからあんな格好して……」
一度口をついて出た後はもう止まらなくなった。
向かいの歩道から見上げると2階の律の部屋には電気が灯っている。珍しくまだ起きているんだという事実にどこか心がざわざわした。
コートのポケットから取り出した携帯電話をゆっくりと開き、かじかむ指で短縮ボタンを押す――そこから発信ボタンを押すのには随分と勇気がいった。
なんて言おう――。
悩んだところで答えが出ることもなく、おれは小さく息を吸って思い切り小さなボタンを押し込んだ。
呼び出し音が1回、2回――。
――はい……。
低い律の声に思わず飛び上がった。心臓がばくばくしてる。
なんて言おう――。
焦りだけが先に立ってしまい言葉が出てこない。
「……律、あの――」
とにかく紡いだ言葉はその後が続けられず、無言で先を促しているんだろう律に更に焦ってしまう。
過呼吸になるんじゃなかというくらい浅い息を繰り返す。
もう一度しゃべろうと息を吸った瞬間、遠くに救急車のサイレンが聞こえ始め、それは段々と近づいてやがて目の前の道路を通り過ぎて行った。
「……千章、おまえ――」
電話の向こうで少し驚いたような律の声が耳に届き――。
「律?」
見上げた窓におれを見下ろす律の姿が現れた。
あ、救急車の音……。
「ちょっと待ってろ――」
そういった瞬間通話が切れ、律が窓の向こうへと消えた。同時に部屋の明かりも消える。
やがて店の裏口から出た律が道路を横切って来る姿がはっきりと見えた。まもなく寝ようとしてたのだろう、スポーツブランドのジャージにとりあえず羽織ったという感じのダウンジャケット姿だ。
「いつからいたんだ?」
「今来たトコ」
「うそつけ――」
律の手が携帯電話を握りしめたままのおれの指を開いた。律の手から伝わる熱はかじかんだ手に刺すような痛みをもたらした。
「入るか?」
背後を指しながら問いかける律に首を振ってみせる。どう考えても人の家を訪ねる時間じゃない。幸子さんだってツルさんだってもう寝てるだろう。
「律――そのすぐ帰るし、おまえ明日も仕事だろうし――おれ……」
どこから言えばいいのか全く考えてなかった。何かを言わなきゃと焦る気持ちは支離滅裂な単語をただ発生させている。
そんなおれを律は何も言わずに、ただ手を包み込んだまま待っていた。
ピピ……律の腕時計が日付が変わったことを伝える電子音を鳴らす。
「――コレ」
結局おれは何も言えずに持っていた紙袋を差し出した。律の手は待てどもそれを受け取ってはくれない。
「千章、ちゃんと言葉にしろ」
絶望的に俯いたままのおれに、少し和らいだ口調の律の声が降りてくる。その声に勇気付けられたのか、おれは自然と顔をあげていた。
「律……おれさ、律のことが好きなんだ」
いきなり何言ってるんだよ、おれ――。
「おまえに嫌われたくないんだ……」
言ってるおれにだって脈絡がない言葉、律にすればそれこそ意味不明だろうな。案の定怪訝に見返す律の視線とかち合った。
「千章? 何のことだ?」
「これさ、美晴と一緒に作ったんだ」
ここにきてやっと律の手が紙袋を受け取った。握っていたおれの手を離してゆっくりと中身を取り出す。
おれは耐え切れなくなって下を向いた。
「店とか行く度にさ、気になって悩んでて……そしたらちょうど美晴が作るの手伝えって言ってきて、ちょうどいいなって――材料とか買うの恥ずかしいからあんな格好して……」
一度口をついて出た後はもう止まらなくなった。
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