Vegetables

二一

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Vegetables―スピンオフ―

St. Valentine's Day 7

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「律は男のおれが好きなんだろ? でもこういうのって男はしないじゃん……でもおれは律にやりたいなって思ってしまって、なんかソレって違うんじゃないかって……こんなん悩んでバカみたいだけど、おれ――っ!」

 必死にしゃべるおれを不意に律の手が包み込んだ。俯いた頬に手を添えて顔を上げさせられる。おれは怖いのか恥ずかしいのかなんなのか、もう自分でもわからなくて目を開けることができなかった。

「バカか――」

 呆れたような律の声はそれでいて優しくて、添えられていた律の手が柔らかくおれの頬をつねった。

「千章、おまえ俺がどれだけ強引におまえを口説いたと思ってるんだ」

 律の声に怖々と瞼を開ける。

「おまえに惚れたから口説いたんだ。そんな妙な理屈で嫌いになるわけないだろう? おまえがすぐ悩むのは知ってたけど今回は極め付けだな」

「ごめん――」

「変な嫉妬、しちまっただろが……」

 つねっていた頬から手を離した律がやや自嘲気味に吐き捨てた。どうやら呆れられてるらしい――。嫉妬……って。脳内で言葉を反芻し、思わず頬に熱がこもった。

「これも、おまえが作るメシとどこが違うんだ? 千章が作ったんなら間違いなく旨いんだろうしな」

 律が目を細めて笑う。

「悪くないな」

「律?」

「おまえがいたら充分だって思ってたけど、こうやって惚れられてるって実感できるのも悪くない」

 今度は間違いなく羞恥だ。律のストレートな告白にありえないくらい恥ずかしくなった。いや、その前にもっと恥ずかしい事をしたのはおれだけど。

「律……っ。もういいから」

 これ以上聞いてたら悶絶してしまいそうだ。おれは真っ赤な顔で必死に律の言葉を遮った。そんなおれを律は面白そうに眺めている。

 普段は無口なくせにどうしてこういうときだけこいつは饒舌になるんだろう。

「千章、おまえやっぱりちょっと待ってろ」

 着替えてくる――そう言って律が踵を返す。

「え? 律、おまえ明日仕事……」

「一日くらい構わねぇよ。どうせこの時季は暇だ」

 慌てて背中にかけた言葉をアッサリと切り捨てて、律はそのまま店へと消えていった。

 五分と経たずに戻った律はいつもの私服姿で、車のキーを片手におれに合図をしている。乗りなれた助手席に納まり運転席の律を見上げた。

「千章、俺はあんまり心が広くないからな」

「は? 何が?」

 いたずらっぽく覗き込む律に、何のことを言われてるのかいまいち掴めず困惑してしまう。

 律はおれの問いかけには応える気がないのか、そのまま車を走らせる。

 ふと見たルームミラーごしの後部座席にチョコレート入りの紙袋が置かれているのが見えた。
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