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Vegetables―スピンオフ―
Starting happiness 8
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「あれ? 律、来るのか?」
駐車場に出て、当たり前に隣を歩く律が意外で思わず問いかけた。
おれは今から二次会の準備に行くことになっている。もちろんそれは律にもすでに言ってることだけど、律の性格上一緒に参加するとは思っていなかった。
二次会の参加は身内・友人関係なしの「20代~30代の独身者」だ。結婚式の祝福ムードを利用して、ちょっとした出会いの場を提供する意味合いもあるんだと思う。
おれは兄弟だしまぁ参加は決定なんだけど律の場合は……。
もちろん例外なく声はかかってるはずだけど断ったもんだと思い込んでいた。
「招待きてたぞ」
「そりゃそうだけど……なんか珍しい――」
商店街の青年部の集まりなんかには結構参加してるのを知ってるけど(というか、人が少ないから強制的に呼ばれてるっぽい)それ以外で律が大勢で飲んだりするような所に行くところは見たことがない。
律は一人で行動してることが圧倒的に多いんだ。
「たまにはな……」
おまえもいるし――律が思わせぶりに答える。
なに? もしかしてまた心配性が出てるとか……? いや、おれの場合、前科があるし偉そうなことは言えないんだけど……。
「――そっか。じゃあさ、準備手伝ってくれる?」
おれたちは会場として予約を入れている、海沿いの居酒屋へと向かった。
「それでは、環と美晴の門出を祝して――乾杯~!」
ノリのいい智が司会のような役を請負い、前で音頭を取っている。事前の打ち合わせもなしにいきなりこういったことをできることを素直に感心してしまう。
聞けば職場のホテルでも突発的なトラブルなんかでピンチヒッターとして司会とかやったりしてるんだって言う――何やかんやであの職場に馴染んでいる智はある意味すごい。
地元ならではの海鮮を売りにした居酒屋の2階を貸しきって、空気は最初からかなりくだけた感じだ。主役の2人も私服に着替えている。
参加人員は35人――ちょっとした同窓会なみってとこだな。
おれは参加とはいえ、どっちかっていうとスタッフ的な立ち位置だ。テーブルの様子を見つつ、注文入れたりとか――。ま、そういうのは普段の仕事と通じる部分もあって苦にもならない。逆に仕事があるほうが落ち着くというか……。
ビンゴゲームのカードを片手に店員から追加の飲み物を受け取り各テーブルに分配していく。受け狙い満載の景品に参加者が次々と悲鳴をあげていた。
熱気に包まれた中でちらりと律を見る。
――あー予想通りっていうか……。
商店街関係で顔見知りの男連中数人とテーブルを囲んでいた律たちの周りには、いつの間にか女の子が増えている……ように思う。いや、明らかに増えてるんだけど。
律と一緒に飲んでいる男連中がにこやかに盛り上がる横で、いつも通り無表情にジョッキを傾ける律に思わず苦笑いが漏れた。
客観的に見ていれば女の子たちが誰目当てなのかなんてすぐに分かるだろう?
でも律の雰囲気は気軽に話しかけられるようなものじゃないし、機会を窺ってるって感じなんだと思う。
やっぱりモテるんだよな――。
披露宴会場から直接来たのもあって律はスーツ姿のままだ。おれが律のスーツを見るのは二回目。一度目は喪服だった。
喪服のときは色っぽいような気がして何となく後ろめたい気分になったもんだけど、今日のややカジュアルなスーツは文句なしにカッコいい。上背もあるしモデルとかやってるって言われても信じてしまうような感じ。
そりゃ女の子は放って置かないよな。
律が女の子に興味なんかないってわかってるけど、華やかなドレスに囲まれた律を見るとちょっとだけモヤモヤする。
「ちーあき!」
不意に軽快な声とともに背後から肩を叩かれ振り返る。
アルコールがまわってるのかやや上気した頬で笑いかける女の子――。
「松木――久しぶり」
高校時代のクラスメイトで――美晴の友人で……それからいわゆる元カノ……だ。高校時代のことだから、もう別れてかなり経つしどうということはないんだけど、なんていうか距離感がいまいち難しい。
「千章、見たよ~さっきの。すっごい美人」
「はは……勘弁して――」
女装を蒸し返される羞恥に、思わず松木の口を遮るように手のひらをかざす。それを見たのか女友達の数人がこちらへと集まってきた。
「え? 何? まっちゃんこの人って」
おれとは面識のない一人が松木に向かって尋ねかける。
ってか止めてくれよ……。
「千章? 美晴の双子のお兄ちゃん。さっきさ、チャペルでドレス着てた」
ストレートにばらされたし。
面識のなかった数人がどよめいた。
「うそっ……全然わかんなかった」
「こうしてると普通に男の子だよね」
「ホント~でもさっきのは美晴と全然区別つかなかった」
「ってもしかしてさ、お兄さんってまっちゃんの……?」
「違う違う! 元、ね」
周りがわっとどよめく。うぅ……こういう女子のノリは苦手だ。かといって立ち去るわけにもいかずに学生時代の説明がされるのを仕方なしに聞く。
「今は?」
「え?」
不意に話題を振られ思わずうろたえる。
「彼女いるんですか?」
「彼女」って聞かれるとイマイチ答えづらい。恋人がいるのかって聞かれると今ならスンナリと肯定できるのに、彼女と聞かれると「女じゃないし」という部分が引っかかってどうにも落ち着かない。
我ながら融通が利かないよな。
それでも――。
「付き合ってる人はいるよ」
なんとか笑みを作って答えることに成功した。
「え? なに! この辺の子?」
松木が元クラスメイトらしい野次馬根性を出して詰め寄ってくる。
これ以上は無理っ――。
「悪い、ちょっと追加注文入れてくるな」
おれは逃げるように会場を後にした。
駐車場に出て、当たり前に隣を歩く律が意外で思わず問いかけた。
おれは今から二次会の準備に行くことになっている。もちろんそれは律にもすでに言ってることだけど、律の性格上一緒に参加するとは思っていなかった。
二次会の参加は身内・友人関係なしの「20代~30代の独身者」だ。結婚式の祝福ムードを利用して、ちょっとした出会いの場を提供する意味合いもあるんだと思う。
おれは兄弟だしまぁ参加は決定なんだけど律の場合は……。
もちろん例外なく声はかかってるはずだけど断ったもんだと思い込んでいた。
「招待きてたぞ」
「そりゃそうだけど……なんか珍しい――」
商店街の青年部の集まりなんかには結構参加してるのを知ってるけど(というか、人が少ないから強制的に呼ばれてるっぽい)それ以外で律が大勢で飲んだりするような所に行くところは見たことがない。
律は一人で行動してることが圧倒的に多いんだ。
「たまにはな……」
おまえもいるし――律が思わせぶりに答える。
なに? もしかしてまた心配性が出てるとか……? いや、おれの場合、前科があるし偉そうなことは言えないんだけど……。
「――そっか。じゃあさ、準備手伝ってくれる?」
おれたちは会場として予約を入れている、海沿いの居酒屋へと向かった。
「それでは、環と美晴の門出を祝して――乾杯~!」
ノリのいい智が司会のような役を請負い、前で音頭を取っている。事前の打ち合わせもなしにいきなりこういったことをできることを素直に感心してしまう。
聞けば職場のホテルでも突発的なトラブルなんかでピンチヒッターとして司会とかやったりしてるんだって言う――何やかんやであの職場に馴染んでいる智はある意味すごい。
地元ならではの海鮮を売りにした居酒屋の2階を貸しきって、空気は最初からかなりくだけた感じだ。主役の2人も私服に着替えている。
参加人員は35人――ちょっとした同窓会なみってとこだな。
おれは参加とはいえ、どっちかっていうとスタッフ的な立ち位置だ。テーブルの様子を見つつ、注文入れたりとか――。ま、そういうのは普段の仕事と通じる部分もあって苦にもならない。逆に仕事があるほうが落ち着くというか……。
ビンゴゲームのカードを片手に店員から追加の飲み物を受け取り各テーブルに分配していく。受け狙い満載の景品に参加者が次々と悲鳴をあげていた。
熱気に包まれた中でちらりと律を見る。
――あー予想通りっていうか……。
商店街関係で顔見知りの男連中数人とテーブルを囲んでいた律たちの周りには、いつの間にか女の子が増えている……ように思う。いや、明らかに増えてるんだけど。
律と一緒に飲んでいる男連中がにこやかに盛り上がる横で、いつも通り無表情にジョッキを傾ける律に思わず苦笑いが漏れた。
客観的に見ていれば女の子たちが誰目当てなのかなんてすぐに分かるだろう?
でも律の雰囲気は気軽に話しかけられるようなものじゃないし、機会を窺ってるって感じなんだと思う。
やっぱりモテるんだよな――。
披露宴会場から直接来たのもあって律はスーツ姿のままだ。おれが律のスーツを見るのは二回目。一度目は喪服だった。
喪服のときは色っぽいような気がして何となく後ろめたい気分になったもんだけど、今日のややカジュアルなスーツは文句なしにカッコいい。上背もあるしモデルとかやってるって言われても信じてしまうような感じ。
そりゃ女の子は放って置かないよな。
律が女の子に興味なんかないってわかってるけど、華やかなドレスに囲まれた律を見るとちょっとだけモヤモヤする。
「ちーあき!」
不意に軽快な声とともに背後から肩を叩かれ振り返る。
アルコールがまわってるのかやや上気した頬で笑いかける女の子――。
「松木――久しぶり」
高校時代のクラスメイトで――美晴の友人で……それからいわゆる元カノ……だ。高校時代のことだから、もう別れてかなり経つしどうということはないんだけど、なんていうか距離感がいまいち難しい。
「千章、見たよ~さっきの。すっごい美人」
「はは……勘弁して――」
女装を蒸し返される羞恥に、思わず松木の口を遮るように手のひらをかざす。それを見たのか女友達の数人がこちらへと集まってきた。
「え? 何? まっちゃんこの人って」
おれとは面識のない一人が松木に向かって尋ねかける。
ってか止めてくれよ……。
「千章? 美晴の双子のお兄ちゃん。さっきさ、チャペルでドレス着てた」
ストレートにばらされたし。
面識のなかった数人がどよめいた。
「うそっ……全然わかんなかった」
「こうしてると普通に男の子だよね」
「ホント~でもさっきのは美晴と全然区別つかなかった」
「ってもしかしてさ、お兄さんってまっちゃんの……?」
「違う違う! 元、ね」
周りがわっとどよめく。うぅ……こういう女子のノリは苦手だ。かといって立ち去るわけにもいかずに学生時代の説明がされるのを仕方なしに聞く。
「今は?」
「え?」
不意に話題を振られ思わずうろたえる。
「彼女いるんですか?」
「彼女」って聞かれるとイマイチ答えづらい。恋人がいるのかって聞かれると今ならスンナリと肯定できるのに、彼女と聞かれると「女じゃないし」という部分が引っかかってどうにも落ち着かない。
我ながら融通が利かないよな。
それでも――。
「付き合ってる人はいるよ」
なんとか笑みを作って答えることに成功した。
「え? なに! この辺の子?」
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