152 / 160
Vegetables―スピンオフ―
Starting happiness 7
しおりを挟む
「コラ――せっかく締めたんだから崩すなよっ……ま、おれも脱がされんならコッチのほうがいいかも――」
どんなに不自然じゃないって言われても、いや、不自然じゃないって言われれば言われるほどに女の格好をすることには抵抗がでる。
自分自身じゃないみたいな、本当の自分を否定されてるような―――。
そんな思いからついつい口に出たんだけど……って。
「ちょっ……今じゃないからな!?」
慌てて修正するおれに律が吹き出した。
そりゃそうか――いくらなんでもこんなとこで本気で脱がす気になってるわけないよな――。
羞恥に顔が熱くなるのがわかる。
おれってマヌケ……。
少し遅れて披露宴の会場にそっと紛れ込んだ。
律と一緒に親族席につく。父親も、身内も少ないおれの家は葛西商店のみんなに一緒のテーブルを囲んでもらっている。
戻った俺に「スーツも似合ってるわね」と幸子さんが笑いかけてくれた。「も」ってトコに引っかかるけど――。
ツルさんは食べやすく切り分けてもらった料理をおいしそうにほお張っている。
和洋折衷なメニューは参列してくれた人がみんな食べられるようにって配慮――。俺の前では傍若無人な美晴だけどこういうとこは意外と細やかだ。
余興もあまりない――出し物なんかより、おいしく食べて笑って帰って欲しい……そんな風に2人で話してたのを思い出す。
その代わりにと友人たちは歓談時間が始まるとお祝いだとばかりに、入れ替わり歌を披露していく。
「ち~あき~」
歌の合間、馴染みの同級生たちがビール瓶を片手に連れ立ってやってきた。
げっ――嫌な予感。
「さっきのアレ、ドレス!」
「そうそう、何で着替えたんだよ」
「似合いすぎてて変な気になったじゃねぇか」
アルコールが入った連中が口々におれをからかっていく。さらにおれのグラスにビールを注ぎ足し飲めという催促。
「うるせ……美晴に脅されたんだよ! 二度とやるか!」
片手でグラスに蓋をし、テンションのあがった連中を睨みつける。ま、睨んだところでこいつらが怯むわけもないんだけど……。
「だよねぇ。アキちゃんとハルちゃん、似てると思ってたけどあぁやって同じ格好したらホントそっくり」
いつの間にやってきたのか拓までもが話に乗り始めた。おれたちのテーブル周りは一気に賑やかになり、母たちが微笑ましそうにそれを眺めている。
「だよなー。ある意味、目に毒だぜ。一瞬千章ってこと忘れかけたもんな」
「ホントホント。あれでニッコリされたら男って知っててもヤバイよな」
好き勝手言ってくれる連中に怒鳴り返すわけにもいかず忍耐で耐える。
くそ――美晴のやつ、覚えてろよ――。
「ふざけんな! 誰がニッコリすんだよっ!」
どうせ実行できやしない仕返しを誓いつつ歓談時間が終わるのを待った。
アットホームな雰囲気のまま式は終りを迎える。
始まったときはやや畏まってた来賓客も、みな一様に満面の笑顔だ。
――ああ、いいな……おれは心からそう感じた。あったかくて穏かで――美晴と環の未来はこんな風になるんだろう。
「美晴、環、おめでと」
会場の出口で皆を見送る2人に自然とその言葉がでた。実は気恥ずかしくて一度も言えてなかったんだ。
2人もまた「ありがとう」と満面の笑みを浮かべる。
こんなん見せられたら文句なんて言えないよな――。
「千章――会場のほうお願いね~」
突然素に戻った美晴の声が背中にぶつかる。
せっかく感動してたのにコレだよ――。
「はいはい――わかってるよ」
振り向かず、背中越しに答えた。
実は顔はかなり笑ってたんだけど、それを見られるのはなんとなく癪だったんだ。
さてと――仕方ない。
頼まれてやるか……。
どんなに不自然じゃないって言われても、いや、不自然じゃないって言われれば言われるほどに女の格好をすることには抵抗がでる。
自分自身じゃないみたいな、本当の自分を否定されてるような―――。
そんな思いからついつい口に出たんだけど……って。
「ちょっ……今じゃないからな!?」
慌てて修正するおれに律が吹き出した。
そりゃそうか――いくらなんでもこんなとこで本気で脱がす気になってるわけないよな――。
羞恥に顔が熱くなるのがわかる。
おれってマヌケ……。
少し遅れて披露宴の会場にそっと紛れ込んだ。
律と一緒に親族席につく。父親も、身内も少ないおれの家は葛西商店のみんなに一緒のテーブルを囲んでもらっている。
戻った俺に「スーツも似合ってるわね」と幸子さんが笑いかけてくれた。「も」ってトコに引っかかるけど――。
ツルさんは食べやすく切り分けてもらった料理をおいしそうにほお張っている。
和洋折衷なメニューは参列してくれた人がみんな食べられるようにって配慮――。俺の前では傍若無人な美晴だけどこういうとこは意外と細やかだ。
余興もあまりない――出し物なんかより、おいしく食べて笑って帰って欲しい……そんな風に2人で話してたのを思い出す。
その代わりにと友人たちは歓談時間が始まるとお祝いだとばかりに、入れ替わり歌を披露していく。
「ち~あき~」
歌の合間、馴染みの同級生たちがビール瓶を片手に連れ立ってやってきた。
げっ――嫌な予感。
「さっきのアレ、ドレス!」
「そうそう、何で着替えたんだよ」
「似合いすぎてて変な気になったじゃねぇか」
アルコールが入った連中が口々におれをからかっていく。さらにおれのグラスにビールを注ぎ足し飲めという催促。
「うるせ……美晴に脅されたんだよ! 二度とやるか!」
片手でグラスに蓋をし、テンションのあがった連中を睨みつける。ま、睨んだところでこいつらが怯むわけもないんだけど……。
「だよねぇ。アキちゃんとハルちゃん、似てると思ってたけどあぁやって同じ格好したらホントそっくり」
いつの間にやってきたのか拓までもが話に乗り始めた。おれたちのテーブル周りは一気に賑やかになり、母たちが微笑ましそうにそれを眺めている。
「だよなー。ある意味、目に毒だぜ。一瞬千章ってこと忘れかけたもんな」
「ホントホント。あれでニッコリされたら男って知っててもヤバイよな」
好き勝手言ってくれる連中に怒鳴り返すわけにもいかず忍耐で耐える。
くそ――美晴のやつ、覚えてろよ――。
「ふざけんな! 誰がニッコリすんだよっ!」
どうせ実行できやしない仕返しを誓いつつ歓談時間が終わるのを待った。
アットホームな雰囲気のまま式は終りを迎える。
始まったときはやや畏まってた来賓客も、みな一様に満面の笑顔だ。
――ああ、いいな……おれは心からそう感じた。あったかくて穏かで――美晴と環の未来はこんな風になるんだろう。
「美晴、環、おめでと」
会場の出口で皆を見送る2人に自然とその言葉がでた。実は気恥ずかしくて一度も言えてなかったんだ。
2人もまた「ありがとう」と満面の笑みを浮かべる。
こんなん見せられたら文句なんて言えないよな――。
「千章――会場のほうお願いね~」
突然素に戻った美晴の声が背中にぶつかる。
せっかく感動してたのにコレだよ――。
「はいはい――わかってるよ」
振り向かず、背中越しに答えた。
実は顔はかなり笑ってたんだけど、それを見られるのはなんとなく癪だったんだ。
さてと――仕方ない。
頼まれてやるか……。
0
あなたにおすすめの小説
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる