Vegetables

二一

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Vegetables―スピンオフ―

Starting happiness 7

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「コラ――せっかく締めたんだから崩すなよっ……ま、おれも脱がされんならコッチのほうがいいかも――」

 どんなに不自然じゃないって言われても、いや、不自然じゃないって言われれば言われるほどに女の格好をすることには抵抗がでる。

 自分自身じゃないみたいな、本当の自分を否定されてるような―――。

 そんな思いからついつい口に出たんだけど……って。

「ちょっ……今じゃないからな!?」

 慌てて修正するおれに律が吹き出した。

 そりゃそうか――いくらなんでもこんなとこで本気で脱がす気になってるわけないよな――。

 羞恥に顔が熱くなるのがわかる。

 おれってマヌケ……。






 少し遅れて披露宴の会場にそっと紛れ込んだ。

 律と一緒に親族席につく。父親も、身内も少ないおれの家は葛西商店のみんなに一緒のテーブルを囲んでもらっている。

 戻った俺に「スーツも似合ってるわね」と幸子さんが笑いかけてくれた。「も」ってトコに引っかかるけど――。

 ツルさんは食べやすく切り分けてもらった料理をおいしそうにほお張っている。

 和洋折衷なメニューは参列してくれた人がみんな食べられるようにって配慮――。俺の前では傍若無人な美晴だけどこういうとこは意外と細やかだ。

 余興もあまりない――出し物なんかより、おいしく食べて笑って帰って欲しい……そんな風に2人で話してたのを思い出す。

 その代わりにと友人たちは歓談時間が始まるとお祝いだとばかりに、入れ替わり歌を披露していく。

「ち~あき~」

 歌の合間、馴染みの同級生たちがビール瓶を片手に連れ立ってやってきた。

 げっ――嫌な予感。

「さっきのアレ、ドレス!」

「そうそう、何で着替えたんだよ」

「似合いすぎてて変な気になったじゃねぇか」

 アルコールが入った連中が口々におれをからかっていく。さらにおれのグラスにビールを注ぎ足し飲めという催促。

「うるせ……美晴に脅されたんだよ! 二度とやるか!」

 片手でグラスに蓋をし、テンションのあがった連中を睨みつける。ま、睨んだところでこいつらが怯むわけもないんだけど……。

「だよねぇ。アキちゃんとハルちゃん、似てると思ってたけどあぁやって同じ格好したらホントそっくり」

 いつの間にやってきたのか拓までもが話に乗り始めた。おれたちのテーブル周りは一気に賑やかになり、母たちが微笑ましそうにそれを眺めている。

「だよなー。ある意味、目に毒だぜ。一瞬千章ってこと忘れかけたもんな」

「ホントホント。あれでニッコリされたら男って知っててもヤバイよな」

 好き勝手言ってくれる連中に怒鳴り返すわけにもいかず忍耐で耐える。

 くそ――美晴のやつ、覚えてろよ――。

「ふざけんな! 誰がニッコリすんだよっ!」

 どうせ実行できやしない仕返しを誓いつつ歓談時間が終わるのを待った。





 アットホームな雰囲気のまま式は終りを迎える。

 始まったときはやや畏まってた来賓客も、みな一様に満面の笑顔だ。

 ――ああ、いいな……おれは心からそう感じた。あったかくて穏かで――美晴と環の未来はこんな風になるんだろう。

「美晴、環、おめでと」

 会場の出口で皆を見送る2人に自然とその言葉がでた。実は気恥ずかしくて一度も言えてなかったんだ。

 2人もまた「ありがとう」と満面の笑みを浮かべる。

 こんなん見せられたら文句なんて言えないよな――。



「千章――会場のほうお願いね~」

 突然素に戻った美晴の声が背中にぶつかる。

 せっかく感動してたのにコレだよ――。

「はいはい――わかってるよ」

 振り向かず、背中越しに答えた。

 実は顔はかなり笑ってたんだけど、それを見られるのはなんとなく癪だったんだ。


 さてと――仕方ない。

 頼まれてやるか……。

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