Vegetables

二一

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Vegetables―スピンオフ―

Starting happiness 6

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 突然のノックに慌てて身を離した。ややあって息せき切った着付けの女性がドアを開ける。

「すみません。もう1組の準備がおしてしまって……」

 途切れながら頭を下げる女性を宥めるように笑いかけた。

「あの、苦しかったんで脱いでしまおうとしてたんですけど」

 自分ではできないんで手伝ってもらって――取ってつけたように律を指し、背中を向けたおれに慌てたように着付け係が駆け寄る。

「あ、ダメですよ。慣れない方だと引っぱってしまったりするので――」

 一転職業意識が戻った着付け係が注意を促す。今外しますね――そう言った女性がふと手を止めてこちらを見上げた。

「何か……?」

「あ、いえ――男性にこんなことを言うのは失礼なんですけど、お2人が並んでるとすごい絵になってるっていうか――お似合いだったもので」

 やや頬を染めながらの女性にこちらまで照れてしまう。その言葉、今のおれには爆弾に等しいんだけど……。

 これで似合ってるってことは美晴と律が並んでるってことで――。深く考えすぎなのは重々承知だけどやっぱり、な――。

 複雑だ――。

「あ、すみません余計なことを――」

 おれの動揺には多分気付かなかったと思う。テキパキとドレスを脱がせてもらいながらおれは自分自身のモヤモヤをなんとか宥めていた。

 大安の今日は式場も忙しいようだ。着付けの女性は慌しく化粧の流し方なんかを説明すると足早に控え室を出て行った。

「……まだ付いてるか?」

 無駄に広い洗面所で必死に顔をこする。

 何度洗ってもうまく化粧を流すことができずに段々焦ってきた。かといってそのまま戻るわけにもいかねぇし……。

 今も薄く目を開けて鏡を見ると、両方の目元がやや黒く残っている。

「……貸してみろ」

 律の手が小さなボトルに伸びた。

 ――目ぇ閉じてろよ……素直に目を瞑り少しだけ上を向く。律の指がやや強めに瞼の周りをなぞった。

 ヤバ……これ気持ちいいかも……。

 実は緊張で昨夜はほとんど寝ていないんだ。ほんのり温かい指でマッサージのように触れられ、心地よさに眠気がくる。

「っ千章――!」

「? え!? うわ……イテッ」

「馬鹿か、目ぇ開けるな」

 ウトウトしたところに呼びかけられ反射的に目を開けた瞬間、チクリと指すような痛みを感じ、慌てて目を閉じた。

 手探りに水道を探しているとすぐに水の音が聞こえ、うろうろしてる手を誘導される。これまた誘導されるままに渡された洗顔料を適当に泡立てて急いで顔を洗う。

「――はぁ……なぁ今度は取れたか?」

 頷く律を確認し、痛みからも解放されやっとのことで顔を拭くことができた。

「ったく、サイテー……」

 つい数十分前までの自分を思い出して思わずぼやく。律が小さく笑った。

「脱がし損ねた」

「――あのな……」

 あんなの律に脱がされたら……変な気分になりそう――。

 なんとなくホッとしつつ準備していたスーツに着替えていく。普段締め慣れないネクタイをなんとか形にしてフッとため息をついた。

「――脱がすのはコッチでもいいけどな?」

 律の手がいたずらっぽくネクタイに触れた。

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