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ZERO Season - 輝く前途を目指して
第零話 ブルームデイ・イヴ
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芸能事務所、ジュエリーガーデンプロモーション。年の終わりが近づく十二月中旬、会議室に複数の男女が集まっていた。
真剣な面持ちで着席する面々を前に、社長の宝多は話を切り出す。
「今回の議題は他でもない。一期生のデビューまでひと月を切った今、各アイドルの状況と方針を明瞭にし、各人に共有することだ」
二人の男が立ち上がり、タブレットを手に用意されたホワイトボードの前に出る。先に口を開いたのは、スカウトを担当していたプロデューサーの左枝だ。
「まず、一期生に先立ってデビューしたゼロ期生の現状報告からさせていただきます。天宮月乃、音路恭香、明星稔、ソロ活動中の三名ともに経過は順調ですね。評価点としては天宮が容姿とパフォーマンスの完成度、特にダンスは自主レッスンも含めて本人も伸ばしたいようです。SNSや公演の集客数を見ても三人の中で最も伸びてます。”クールでストイックな努力家アイドル”の方針で成功してると言っていいでしょう。音路は楽器が弾けることとファンサービスの精神が評価されています。ファンの顔や会話の内容をしっかりと覚えているため、着実にファン数、特に女性ファンが増えていってます。ただ、先日のピアノパフォーマンスはあまり受けがよくなかったようなので、しばらくはギター一本で進めていく予定です。”ロックをエンジョイするイケイケ系アイドル”として軌道に乗っています。明星はその独特な雰囲気と歌声が人気です。天宮には一歩劣りますが、音路と並んで確実にファンを獲得しています。フレンドリーな音路に対して、丁寧にサービスするところから比較的男性ファンが多いですね。レッスンも延長を要求するくらいには突き詰めているようで、当人のやる気も十分です。”ミステリアスでハイスペックな天才系アイドル”の方針のまま推し進めていけると判断しています」
資料片手にスムーズな話運びで現状を報告してから、左枝は各人の顔を見渡す。しばらくの沈黙を経て、宝多が思い出したように言った。
「ああ、硬くなりすぎたな。すまないすまない、数字の話はよくわかった。左枝くんと話し合った通り進んでいて安心したよ。それじゃあ、次は君の個人的な視点で彼女らについて教えてくれるかな? ちょっと砕けた感じで構わない。できれば、スカウトした時の様子や話も聞きたいな」
少し砕けた雰囲気を出して、場を和らげる。人によっては失敗する方法だが、この場においては功を奏したようだ。
話を振られた左枝は、ペンを立てて悩みながら少しずつ話し出す。
「そうですね……月乃に関しては、仕事の面では問題ないですね。ストイックではあるんですが、ちゃんと引き際はわかっているというか、無理と努力のボーダーラインはしっかり見えてるみたいです。ただまあ、ちょっと頑固でプライドが高いきらいがあるかなと。クールっていう方針には合ってますが、バラエティ系には少し向かないかもしれませんね」
「そーだねー。つきのん顔に出やすいから、少なくとも仕事ではそういうの減らしていくよう言っとこうと思う。ただファンの方はたまにムッとするのが等身大でかわいいって声も上がってるから、まあこれからじゃないかな。問題はないよ」
左枝の言葉を引き継いで、マネージャーの後藤が語る。周囲が頷くのを確認してから、左枝は話を再開した。
「スカウトした時は、純粋に綺麗だなと思って声をかけました。でも、話してみてすぐに、眼光が引っかかったんですよね。何ていうか、負けず嫌いなんだろうなって感じがして。それを率直に伝えたらOKをもらえたってところです。続いて恭香は、言うことなしって感じです。あらゆる面で優等生と言うか、元気もあって話し上手なので現場スタッフからよく褒められてます。後輩への気配りもできてるし、一番安定してると僕は思ってますね。公演の演出やパフォーマンスにも積極的に意見を言ってくれるので、成長性にも期待できます。一期生がデビューしたら、全体のリーダーを任せてもいいんじゃないでしょうか。どう、前野さん」
「うん。恭香は本当にいい子だけど、私としては逆にそこが心配。一応オフはちゃんと休んでるみたいだし、無理してるって様子じゃないけど、あそこまで世話焼きだとちょっとね。仕事に関しては一個一個じっくり考えてるし、左枝くんの言う通り現場人気もすごいから、何か変えたり注意する必要はないと思う」
恭香のマネージャーを務める前野に続いて、スタイリストの下野が手を挙げた。
「全体のリーダーって話、私は賛成だよ。スタイリングの時、恭香ってずっと後輩の話するんだよね。ひとりひとりに声かけて、ちゃんと仲良くなってるみたいで凄いなって思った」
なるほど、と複数人から声が上がる。
「恭香と会った時は、暑い日だったんで日陰のベンチで涼もうとしたら、偶然同じタイミングで座ったから会話が始まったんですよね。向こうから暑いですよね~って話しかけてくれて、話し上手で物怖じしない、美容やファッションにも気を使ってるなと思って、そのままスカウトさせてもらった形です。稔も優等生って感じで問題があるようには見えませんが……一つ懸念点があるとすれば、ほか二人と比べて少しキャラクター面で弱いかなと。持ち前の雰囲気というかオーラはあるんですけど、それをしっかりと見せていける場所が必要かなと思います。露出する先を増やすとか、少し活動に変化を加えたいというのが僕の意見ですね。後藤さんは何かある?」
「ほぼほぼ同意見。みのりん本人もちょっと気にしてんのかわからんけど、幅広く仕事受けたいって話はされたね。できるなら演技とかの女優業に手出してみたいらしいけど、左枝っちこれ聞いた?」
聞き返された言葉に、左枝は首を横に振る。後藤は手に持ったボールペンのノックを顎に当てながら手帳を睨んだ。
「ん、じゃああれ雑談の範囲か。でもだいぶ本気っぽかったから、できるようならWebCMとかからそっちの道に行けるように仕事探したいと思ってるんですけど、どうですか社長」
話を振られた宝多はふむ、と腕を組んで少し悩む様子を見せる。
「一期生の経過次第ではいいだろう。現状すぐにOKを出すことはできないが、後進のプロデュースが順調なようであれば、先駆けてゼロ期生の彼女に仕事の幅を増やしてもらうというのは理想的だ」
「ありがとうございます」
左枝と後藤が、揃って頭を下げる。
「スカウトした時は、一目見て急いで声をかけましたね。直感的に、逸材だ! って思ったんです。話してみたら普段は表の通りに来ないって言うから、声かけてよかったなと思いながら必死に説得しました。三人とも、無事来てくれてよかったです」
「なるほど、ゼロ期生に関しては把握できた。個々のケアを怠らないよう、後輩たちのデビューまでは現状と変わらない方向で続けてくれ。では次に、一期生の現状について教えてもらえるかな」
話を振られたのは、左枝と共にホワイトボード脇に立つプロデューサーの右城。オーディションにおいて特に強い決定権を持たされていた男だ。
「はい。現状、一期生においてはボーカル・ダンスのレッスンを受けてもらいつつ、ビジネスマナーの講習等も行っています。まず最初に、性格や人間性が活動に向いていない、問題があるといったメンバーはいなかったことを報告させていただきます。その点においてはこのままの予定でデビューさせて大丈夫です。そして」
「おっと、ひとついいかな右城くん。個々人の報告に、君がオーディションで見てどう思ったか、も付け加えてくれると嬉しい」
先ほどと似たような要求に、右城はわかりました、と答えて続ける。
「まずは悠姫ましろ。彼女を採用した決め手はズバリオーラですね。付き合いの長いひとみも言ってたんですが、人を惹きつける天然の才能を持ってます。ちょっと抜けてるところはあるけど、ダンスも上手く息切れも見られなかったし、誰とでも話せる独特の雰囲気があったんで即採用に決めました。レッスンでも彩乃と並んでダンスは随一、トークの力も大きいので期待できると思います。特に四月から高校生になる四人はかなり仲がいいみたいで、もうプライベートで遊びに行ってるみたいですよ。そういう点でもこれからが楽しみだなと思って見ています。続いて、栞崎ひとみ。採用の決め手はやる気です。持ち前の能力にも光るものがあるんですが、親友のましろに勝ちたいというはっきりした目標を持っているため、デビュー後もブレることなく活動できると思い採用しました。能力面では、千里と並んで歌が上手いんですが、それ以上に目を見張るのは分析能力ですね。自分だけじゃなく、他人のレッスンもよく見てデータを集めてるみたいで、自分の強みと弱みをしっかり把握してるだけでなく、周りを見る目も持っています。トレーナーからも指摘した点の改善は随一で早いと言われてますから、自分から苦手を補って一定の成績を残していける才能の持ち主です。そして、菓蘭子ですね。この子はすぐに採用しようと思いました。振りと歌を本当に細かいところまで覚えていること、アイドルそのものへの熱意、そしてキャラクター性が非常に強いところから、火がつけば爆発的に人気になれるんじゃないかと思っています。レッスンも上手くこなしてるようで、ひとみと同じく分析も怠っていないみたいです。元々アイドルオタクで細かいところに目を配るのが得意だからか、ゼロ期生のレッスンに同席して、いいとこ取りをしようとノートをとってると聞きました。総じて、一番現実的にアイドル業界を見ながら、本気で売れようとしているのが伝わってきます」
長くなりすぎないよう一旦言葉を切って、右城は周囲の反応を見る。特に言葉を返すものがいないことを確認してから、左枝に視線を送った。
「愛内深冬に関しては私から。彼女は他の事務所のオーディションに参加していたところをスカウトしました。人と話せないのを直したくてアイドルを目指したけど、話せないためにオーディションを突破できない、という悩みを抱えてリタイアしたみたいで、体調不良かと思って声をかけたんです。事情を聞いたうえで、一応本当にまったく話せないわけではないことが確認できたのと、目標に向かって努力する意志を感じたためにこちらでオーディションの枠を用意させてもらいました。能力的にはかなり高い方で、印象とは裏腹に体力もけっこうあったため、キャラクター性とスキルを見込んで採用した形です。早速、一期生の同期に揉まれているみたいですが、現時点では人間関係にも問題ないように見えます。一番年下なのでうまくケアしていく必要があるとは感じており、頻繁に目を向けていますが、このままいけば彼女自身の目標も達成できるようになるんじゃないかなと」
左枝の説明を受けて、宝多と後藤が頷く。その様子を確認してから、右城が続けた。
「では、続けて堤弦音から。彼女を見て印象に残ったのは、臆さずにアピールができるタイプであるという点です。一応は審査であるはずのオーディションも、緊張しながらとは言え楽しんでいるように見えたことが決め手となって採用しました。音路とは違うジャンルで、ギターとベースが弾けるという点も大きいですね。本人も演奏を武器にしていきたいようで、レッスンに加えて自主的にギターの練習を重ねているようです。また、明るく快活なところも強みだと思っており、ファンと積極的に触れ合っていく方針で打ち出そうと考えています。そして、貴宝院千里。彼女はちょっと事情が特殊で、オペラ歌手として著名な母親の二世として見られるのが嫌だから、無名新人としてデビューしたい、と。合意の上でその方針に従ってデビューさせる手筈です。本人曰く、母親の影響はあっても何も教わってないそうですが、とてつもない才能の持ち主ですね。ヴァイオリンも歌も既にプロ級と言っていいレベルです。ただ、ダンスレッスンでは遅れが見えます。どうしても早く動くのが苦手なようで、ソロで活動するうちはダンスの控えめなパフォーマンスで売っていった方が良さそうです。まったくついていけてない訳ではないので、トレーナーからは個人レッスンの追加などでコツを掴めれば、その問題も解決できそうと聞いています」
「あ、ついでに。別にお母さんが嫌いとかじゃなくて、むしろかなり仲良しらしいよ。比べられるのが嫌ってだけなんだと」
後藤の付け加えた一言に反応する声がちらほらと上がる。
「最後に、出羽彩乃ですね。彼女を採用した理由は、運動能力の高さと明るさです。家がスポーツ一家で、三人いる兄妹が全員プロ選手やその候補生ということもあって、ほとんどの運動ならすぐにコツを掴んでこなせるのが長所だと、本人も自覚しているようです。そのためダンス主体で売り出していくほか、性格も明るく友達も多いようで、弦音と同じくファンと交流する場を多く持たせられればと考えています。家族のことも考えると、バラエティ方面で売っていく線も大いにありだなと」
所属アイドル全員の説明を終え、右城が水を飲む。二人のプロデューサーが着席して、議題となる部分は終わった。
宝多は一度頷くと、全員に向き直る。
「以上の現状と方針を忘れないよう、これからのプロデュースに活かして欲しい。そしてもうひとつ。これはまだ企画もされていない話ではあるが……私の知人が、来年の今頃に新人アイドルを集めたオーディションを行いたいという話をしていてね。合格すれば新年に局の歌番組で歌えるようにしたいそうだ。もしその企画が通り、想定通りの規模になるのであれば」
眼を鋭く光らせて、宝多は宣言する。
「そのオーディションに十人全員を挑戦させるつもりでいる」
「全員を、ですか……」
「ああ。大きな舞台に出るわかりやすいチャンスだ。活動のモチベーションにもつながるし経験も積めるだろう。早いうちから挑戦することを、彼女たちには知って欲しい。さて、私からは以上だ。各人から何も無ければ解散としよう」
何もないことを確認すると、宝多は資料を手に会議室を出る。
大きなことが始まる。確証も根拠もない挑戦だ。それに、十人の少女たちの人生と運命をかけさせている。
「さあ、どこまで行けるのか……見せてもらおう」
真剣な面持ちで着席する面々を前に、社長の宝多は話を切り出す。
「今回の議題は他でもない。一期生のデビューまでひと月を切った今、各アイドルの状況と方針を明瞭にし、各人に共有することだ」
二人の男が立ち上がり、タブレットを手に用意されたホワイトボードの前に出る。先に口を開いたのは、スカウトを担当していたプロデューサーの左枝だ。
「まず、一期生に先立ってデビューしたゼロ期生の現状報告からさせていただきます。天宮月乃、音路恭香、明星稔、ソロ活動中の三名ともに経過は順調ですね。評価点としては天宮が容姿とパフォーマンスの完成度、特にダンスは自主レッスンも含めて本人も伸ばしたいようです。SNSや公演の集客数を見ても三人の中で最も伸びてます。”クールでストイックな努力家アイドル”の方針で成功してると言っていいでしょう。音路は楽器が弾けることとファンサービスの精神が評価されています。ファンの顔や会話の内容をしっかりと覚えているため、着実にファン数、特に女性ファンが増えていってます。ただ、先日のピアノパフォーマンスはあまり受けがよくなかったようなので、しばらくはギター一本で進めていく予定です。”ロックをエンジョイするイケイケ系アイドル”として軌道に乗っています。明星はその独特な雰囲気と歌声が人気です。天宮には一歩劣りますが、音路と並んで確実にファンを獲得しています。フレンドリーな音路に対して、丁寧にサービスするところから比較的男性ファンが多いですね。レッスンも延長を要求するくらいには突き詰めているようで、当人のやる気も十分です。”ミステリアスでハイスペックな天才系アイドル”の方針のまま推し進めていけると判断しています」
資料片手にスムーズな話運びで現状を報告してから、左枝は各人の顔を見渡す。しばらくの沈黙を経て、宝多が思い出したように言った。
「ああ、硬くなりすぎたな。すまないすまない、数字の話はよくわかった。左枝くんと話し合った通り進んでいて安心したよ。それじゃあ、次は君の個人的な視点で彼女らについて教えてくれるかな? ちょっと砕けた感じで構わない。できれば、スカウトした時の様子や話も聞きたいな」
少し砕けた雰囲気を出して、場を和らげる。人によっては失敗する方法だが、この場においては功を奏したようだ。
話を振られた左枝は、ペンを立てて悩みながら少しずつ話し出す。
「そうですね……月乃に関しては、仕事の面では問題ないですね。ストイックではあるんですが、ちゃんと引き際はわかっているというか、無理と努力のボーダーラインはしっかり見えてるみたいです。ただまあ、ちょっと頑固でプライドが高いきらいがあるかなと。クールっていう方針には合ってますが、バラエティ系には少し向かないかもしれませんね」
「そーだねー。つきのん顔に出やすいから、少なくとも仕事ではそういうの減らしていくよう言っとこうと思う。ただファンの方はたまにムッとするのが等身大でかわいいって声も上がってるから、まあこれからじゃないかな。問題はないよ」
左枝の言葉を引き継いで、マネージャーの後藤が語る。周囲が頷くのを確認してから、左枝は話を再開した。
「スカウトした時は、純粋に綺麗だなと思って声をかけました。でも、話してみてすぐに、眼光が引っかかったんですよね。何ていうか、負けず嫌いなんだろうなって感じがして。それを率直に伝えたらOKをもらえたってところです。続いて恭香は、言うことなしって感じです。あらゆる面で優等生と言うか、元気もあって話し上手なので現場スタッフからよく褒められてます。後輩への気配りもできてるし、一番安定してると僕は思ってますね。公演の演出やパフォーマンスにも積極的に意見を言ってくれるので、成長性にも期待できます。一期生がデビューしたら、全体のリーダーを任せてもいいんじゃないでしょうか。どう、前野さん」
「うん。恭香は本当にいい子だけど、私としては逆にそこが心配。一応オフはちゃんと休んでるみたいだし、無理してるって様子じゃないけど、あそこまで世話焼きだとちょっとね。仕事に関しては一個一個じっくり考えてるし、左枝くんの言う通り現場人気もすごいから、何か変えたり注意する必要はないと思う」
恭香のマネージャーを務める前野に続いて、スタイリストの下野が手を挙げた。
「全体のリーダーって話、私は賛成だよ。スタイリングの時、恭香ってずっと後輩の話するんだよね。ひとりひとりに声かけて、ちゃんと仲良くなってるみたいで凄いなって思った」
なるほど、と複数人から声が上がる。
「恭香と会った時は、暑い日だったんで日陰のベンチで涼もうとしたら、偶然同じタイミングで座ったから会話が始まったんですよね。向こうから暑いですよね~って話しかけてくれて、話し上手で物怖じしない、美容やファッションにも気を使ってるなと思って、そのままスカウトさせてもらった形です。稔も優等生って感じで問題があるようには見えませんが……一つ懸念点があるとすれば、ほか二人と比べて少しキャラクター面で弱いかなと。持ち前の雰囲気というかオーラはあるんですけど、それをしっかりと見せていける場所が必要かなと思います。露出する先を増やすとか、少し活動に変化を加えたいというのが僕の意見ですね。後藤さんは何かある?」
「ほぼほぼ同意見。みのりん本人もちょっと気にしてんのかわからんけど、幅広く仕事受けたいって話はされたね。できるなら演技とかの女優業に手出してみたいらしいけど、左枝っちこれ聞いた?」
聞き返された言葉に、左枝は首を横に振る。後藤は手に持ったボールペンのノックを顎に当てながら手帳を睨んだ。
「ん、じゃああれ雑談の範囲か。でもだいぶ本気っぽかったから、できるようならWebCMとかからそっちの道に行けるように仕事探したいと思ってるんですけど、どうですか社長」
話を振られた宝多はふむ、と腕を組んで少し悩む様子を見せる。
「一期生の経過次第ではいいだろう。現状すぐにOKを出すことはできないが、後進のプロデュースが順調なようであれば、先駆けてゼロ期生の彼女に仕事の幅を増やしてもらうというのは理想的だ」
「ありがとうございます」
左枝と後藤が、揃って頭を下げる。
「スカウトした時は、一目見て急いで声をかけましたね。直感的に、逸材だ! って思ったんです。話してみたら普段は表の通りに来ないって言うから、声かけてよかったなと思いながら必死に説得しました。三人とも、無事来てくれてよかったです」
「なるほど、ゼロ期生に関しては把握できた。個々のケアを怠らないよう、後輩たちのデビューまでは現状と変わらない方向で続けてくれ。では次に、一期生の現状について教えてもらえるかな」
話を振られたのは、左枝と共にホワイトボード脇に立つプロデューサーの右城。オーディションにおいて特に強い決定権を持たされていた男だ。
「はい。現状、一期生においてはボーカル・ダンスのレッスンを受けてもらいつつ、ビジネスマナーの講習等も行っています。まず最初に、性格や人間性が活動に向いていない、問題があるといったメンバーはいなかったことを報告させていただきます。その点においてはこのままの予定でデビューさせて大丈夫です。そして」
「おっと、ひとついいかな右城くん。個々人の報告に、君がオーディションで見てどう思ったか、も付け加えてくれると嬉しい」
先ほどと似たような要求に、右城はわかりました、と答えて続ける。
「まずは悠姫ましろ。彼女を採用した決め手はズバリオーラですね。付き合いの長いひとみも言ってたんですが、人を惹きつける天然の才能を持ってます。ちょっと抜けてるところはあるけど、ダンスも上手く息切れも見られなかったし、誰とでも話せる独特の雰囲気があったんで即採用に決めました。レッスンでも彩乃と並んでダンスは随一、トークの力も大きいので期待できると思います。特に四月から高校生になる四人はかなり仲がいいみたいで、もうプライベートで遊びに行ってるみたいですよ。そういう点でもこれからが楽しみだなと思って見ています。続いて、栞崎ひとみ。採用の決め手はやる気です。持ち前の能力にも光るものがあるんですが、親友のましろに勝ちたいというはっきりした目標を持っているため、デビュー後もブレることなく活動できると思い採用しました。能力面では、千里と並んで歌が上手いんですが、それ以上に目を見張るのは分析能力ですね。自分だけじゃなく、他人のレッスンもよく見てデータを集めてるみたいで、自分の強みと弱みをしっかり把握してるだけでなく、周りを見る目も持っています。トレーナーからも指摘した点の改善は随一で早いと言われてますから、自分から苦手を補って一定の成績を残していける才能の持ち主です。そして、菓蘭子ですね。この子はすぐに採用しようと思いました。振りと歌を本当に細かいところまで覚えていること、アイドルそのものへの熱意、そしてキャラクター性が非常に強いところから、火がつけば爆発的に人気になれるんじゃないかと思っています。レッスンも上手くこなしてるようで、ひとみと同じく分析も怠っていないみたいです。元々アイドルオタクで細かいところに目を配るのが得意だからか、ゼロ期生のレッスンに同席して、いいとこ取りをしようとノートをとってると聞きました。総じて、一番現実的にアイドル業界を見ながら、本気で売れようとしているのが伝わってきます」
長くなりすぎないよう一旦言葉を切って、右城は周囲の反応を見る。特に言葉を返すものがいないことを確認してから、左枝に視線を送った。
「愛内深冬に関しては私から。彼女は他の事務所のオーディションに参加していたところをスカウトしました。人と話せないのを直したくてアイドルを目指したけど、話せないためにオーディションを突破できない、という悩みを抱えてリタイアしたみたいで、体調不良かと思って声をかけたんです。事情を聞いたうえで、一応本当にまったく話せないわけではないことが確認できたのと、目標に向かって努力する意志を感じたためにこちらでオーディションの枠を用意させてもらいました。能力的にはかなり高い方で、印象とは裏腹に体力もけっこうあったため、キャラクター性とスキルを見込んで採用した形です。早速、一期生の同期に揉まれているみたいですが、現時点では人間関係にも問題ないように見えます。一番年下なのでうまくケアしていく必要があるとは感じており、頻繁に目を向けていますが、このままいけば彼女自身の目標も達成できるようになるんじゃないかなと」
左枝の説明を受けて、宝多と後藤が頷く。その様子を確認してから、右城が続けた。
「では、続けて堤弦音から。彼女を見て印象に残ったのは、臆さずにアピールができるタイプであるという点です。一応は審査であるはずのオーディションも、緊張しながらとは言え楽しんでいるように見えたことが決め手となって採用しました。音路とは違うジャンルで、ギターとベースが弾けるという点も大きいですね。本人も演奏を武器にしていきたいようで、レッスンに加えて自主的にギターの練習を重ねているようです。また、明るく快活なところも強みだと思っており、ファンと積極的に触れ合っていく方針で打ち出そうと考えています。そして、貴宝院千里。彼女はちょっと事情が特殊で、オペラ歌手として著名な母親の二世として見られるのが嫌だから、無名新人としてデビューしたい、と。合意の上でその方針に従ってデビューさせる手筈です。本人曰く、母親の影響はあっても何も教わってないそうですが、とてつもない才能の持ち主ですね。ヴァイオリンも歌も既にプロ級と言っていいレベルです。ただ、ダンスレッスンでは遅れが見えます。どうしても早く動くのが苦手なようで、ソロで活動するうちはダンスの控えめなパフォーマンスで売っていった方が良さそうです。まったくついていけてない訳ではないので、トレーナーからは個人レッスンの追加などでコツを掴めれば、その問題も解決できそうと聞いています」
「あ、ついでに。別にお母さんが嫌いとかじゃなくて、むしろかなり仲良しらしいよ。比べられるのが嫌ってだけなんだと」
後藤の付け加えた一言に反応する声がちらほらと上がる。
「最後に、出羽彩乃ですね。彼女を採用した理由は、運動能力の高さと明るさです。家がスポーツ一家で、三人いる兄妹が全員プロ選手やその候補生ということもあって、ほとんどの運動ならすぐにコツを掴んでこなせるのが長所だと、本人も自覚しているようです。そのためダンス主体で売り出していくほか、性格も明るく友達も多いようで、弦音と同じくファンと交流する場を多く持たせられればと考えています。家族のことも考えると、バラエティ方面で売っていく線も大いにありだなと」
所属アイドル全員の説明を終え、右城が水を飲む。二人のプロデューサーが着席して、議題となる部分は終わった。
宝多は一度頷くと、全員に向き直る。
「以上の現状と方針を忘れないよう、これからのプロデュースに活かして欲しい。そしてもうひとつ。これはまだ企画もされていない話ではあるが……私の知人が、来年の今頃に新人アイドルを集めたオーディションを行いたいという話をしていてね。合格すれば新年に局の歌番組で歌えるようにしたいそうだ。もしその企画が通り、想定通りの規模になるのであれば」
眼を鋭く光らせて、宝多は宣言する。
「そのオーディションに十人全員を挑戦させるつもりでいる」
「全員を、ですか……」
「ああ。大きな舞台に出るわかりやすいチャンスだ。活動のモチベーションにもつながるし経験も積めるだろう。早いうちから挑戦することを、彼女たちには知って欲しい。さて、私からは以上だ。各人から何も無ければ解散としよう」
何もないことを確認すると、宝多は資料を手に会議室を出る。
大きなことが始まる。確証も根拠もない挑戦だ。それに、十人の少女たちの人生と運命をかけさせている。
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