悪役令嬢と氷の騎士兄弟

飴爽かに

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美しい国

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見渡す限り視界いっぱいにほころぶ花々。気候は過ごすのに丁度よく、綺麗な模様のステンドグラスの窓が日を受け止める。

色とりどりの光を体に受けながら目を細めた。

この大好きな世界の中に私がいるなんて。
夢見たい。

「ココ・レイルウェイズ穣、お茶会の時間でございます。」
「ええ、今行くわ。」
「何を見てらっしゃったのですか?」
「いえ、ただ…この国は綺麗な国だなと思って。」
「それはそうでしょう。」
侍女のエリスが自慢げに言う。
「なにせこのクォーツ帝国は今年度も観光客の訪れる国1位を獲得しましたからね。」
「…そうね。」
長い廊下の天井には夜空の絵が描かれていて、星座の星の位置に高価な水晶が飾られている。

窓から入ってきた太陽の光を反射して赤いカーペットに模様をつける。
視界は文字通りきらきら光っていて、その光の筋の中を歩く人はどんな人だってプリンセスの気持ちになれるだろう。
どこまでも人を楽しませる精神のある美しく豊かなこの国が私はとても好きだった。

「ここまででいいわ。」
「はい分かりました。ではごゆっくり楽しんで来てください。」
そう言ってエリスは長い廊下を戻っていく。
扉に手をかけ、ひとつため息をつく。
意を決してコンコンと2回ノックした。
「ご機嫌よう。ノア殿下。ココです。」
「おぉ、やっと来たか。入ってくれ。」

扉を開けると色とりどりのそれに目が眩む。
ステンドグラスの光でもない、綺麗な花々でもない。
原因はノア殿下の周りに侍る何人もの令嬢の華やかなドレスだった。

「今日のお調子はどうですか?ノア様。」
「あぁココが来てくれるのならば私は何日だって調子がいいのだよ。」
「そうおっしゃって下さるわりには今日もおともだちが多くいらっしゃるのですね。」
ノア・ルートリッヒ王太子殿下。私の仮婚約者である彼は、この国の第2王子である。

「せっかく準備していただいて、恐縮なのですが…ノア殿下、場所を変えませんか?」
「あぁ、ココが言うならそれでいいぞ。」
ノア殿下の側近がテーブルに並べられていた、ティーセットを片づける。
お茶会の移動先は私のお気に入りのたくさんの花を愛でられる温室にした。

水晶が縁に飾り付けられた丸いテーブルに白いティーカップが並べられる。
希少な綿で作られたクッションに腰を下ろした。
先ほどの令嬢たちはさすがにここまでは着いてこない。
「ノア殿下、今日のお務めはもう全て終わらせたのですか?」
「あ、あぁもちろんだ。ココに会うために努力は惜しまないからな」
「へえ。」
そう言う割には目が泳いでいる。

女性が大好きで、仕事も録にしない。
他責本願の毎日遊び呆けている、甘やかされて育った第2王子。

彼はいわゆるクズ男だ。

クォーツ帝国という名にちなんで、この国には水晶の飾りがどこかしらに置かれている。
窓際に置かれていたきらきらと光を反射する硬貨くらいのサイズの飾りを手に取る。

名探偵が覗くルーペのごとく、その水晶をノアにかざして彼を見た。

「いったいいつまであなたは遊び呆けているのですか?」
「…ココ、私は…」
「見習うべき第1王子は今日もあんなに訓練に励んでいるというのに。」
手にもつ水晶を窓の外に向けると、そこにはノアによく似た金髪碧眼の美青年が写る。
剣を捌く姿、流れる汗が宝石のように綺麗でうっとりしてしばらく見つめる。

「婚約者がいる身分で、そんなに他の男を見つめられると困る。」
自分と比べられたのが不快なのか私のかざしていた水晶をその手のひらに包み込んだ。
「婚約者がいる身分で女性遊びにお忙しいあなたに言われる筋合いないわ。」
そう言って睨むとノアは居心地が悪そうにはぁとため息をついた。

小さい頃から婚約者として交流してはいるものの今となっては形だけで、会うと言い合いばかりしていた。
この人と結婚する未来なんて見えない。
まあ、実際物語の中ではしないのだが。

「会う人皆、兄さんの話ばかりだ。」
そりゃあそうだろう。次期クォーツ帝国の国王候補なのであるし、あの容姿の上、努力も怠らない姿勢は誰だって好感を抱く。

私から奪い取った水晶を太陽にかざしながら、ノアは長いソファに横になる。
水晶をうらめしそうに目を細くして見つめる。
「この国の者は皆派手好きだな。…好きになれない。」
「私にはあなたがこの国で1番、派手に見えていますわよ。」
歩く度に光が舞う、大ぶりの宝石がたくさん着いたコートを着ている彼を見る。

その言葉を聞こえない振りをして彼は続ける。
「豊かになり、派手になり、人の欲望がどんどん膨らんでいくこの国を治めたいとよく兄さんは思えるものだ。」
なにか皮肉を返そうと思ったが、少し考えて口を噤んだ。
どんどん大きくなっていくこの国に私も時々不安を感じる。
何も考えていないように見えてこの人だって本当はこの国のことを考えているんじゃない。

こんな時に出会ったから彼は恋に落ちたのだろうか。この物語のヒロイン、レイア・フローレンスと。
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