2 / 25
物語の悪役令嬢
しおりを挟む
この物語の主人公は私では無い。
なぜそう言い切れるかというと私が別世界からの転生者だからだ。
私は前、女子大学生だった。電車に乗っていた時に交通事故に合って、気がついたらこの世界にやって来ていた。
この世界は私の大好きな少女向けの本、『レイアと星の国』の物語の中だ。
小さい頃に見つけた、本棚の奥に埃被っていた綺麗な装飾で洋書にも見える分厚い本。
どの本屋に行っても売っているところを見たことがないこの本は私にとって宝物だった。
綺麗で夢のある世界観に浸る時間が何よりも好きだった。
でもこの世界に転生してきたと分かった時私は心から素直に喜べなかった。
「なんで、ココなんだろう。」
ココ・レイルウェイズ、彼女はヒロインのライバルであり、彼女を貶める悪役令嬢だった。
何度見ても鏡に映るのは吸い込まれそうなほどの漆黒の髪にルビーのような透き通る赤い瞳。
水色のドレスを両手で持ち、くるりと回ってみる。繊細なレースがひらりと舞う。
大好きな物語だったはずなのになぜか内容を深くまで思い出せない。
私が大学生になってから忙しく、サークルやバイトばかりで、読書をしていなかったからかもしれない。
大事な物語だったのにその存在を忘れてしまっていた。もしかしたらこれは天罰なのかも。
「そうだとしてもやっぱり夢みたいだよ。」
白いカーテンを開けると城下町が広がる。
異国の街が愛おしくて、懐かしい。
「ココ様、準備にまいりましたよ。」
「ええ、お願いね。」
エリスが私の髪をくるくると巻き上げていく。
この物語では悪役令嬢のココは、ノア殿下に婚約破棄されて、遠い地でゆっくりと過ごす。
婚約破棄も、遠い地での暮らしもまったく苦ではないし、この世界に居られるだけ幸せだ。
「ココ様、先程ノア殿下が、伯爵令嬢を連れて街に出かけたらしいですよ。」
そう思っていたのに実際この立場になるとノアのクズっぷりがすごい。
「…教えてくれてありがとう。」
正直、ちょっと悪い男というのは女の子に需要がある。だから私も昔この物語を読んだ時にはノアのことが嫌いではなかったはずだ。
しかし、そういう男が本領発揮するのは特別な女の子の前でだけ。
そこまでがセットだから、かっこいいのだ。
つまり私にとってはただのクズ。
私が悪役令嬢ではなくても、婚約破棄は時間の問題。
「今日はちょっと、宮廷医師のところに第1王子の様子を聞きに行ってくるわね。」
「まあさすがココ様、お優しいですね。」
第1王子のユアン殿下は日々お務めや訓練に励んでいるけれど、小さい頃から体が弱い。
そのため、『レイアと星の国』では、国王の第1王子の補佐として、第2王子のノアも政治に大きく関わるのだ。
なのになんだか、朧気な記憶の物語の中よりもこの世界のほうが、第1王子の体調が良くない気がする。
「イーサン、今ちょっと時間大丈夫かしら。」
「ええ、なんでしょう。」
穏やかで優しい笑顔を浮かべる老人が、この城の宮廷医師である。
「ユアン殿下の今日のご様子は?」
「昨日、剣の訓練に励みすぎたようでしてね、熱をだしておられているのですよ。残っている仕事があると無理をなさっていたので、薬を処方して休息をとってもらっておるのです。」
「そうなのね。」
そんな時に私の婚約者は女の子と遊びに出ているのか。
呼び戻しに行けるのは今私だけだ。
そろそろノアにも王太子殿下としての責任を持ってもらいたい。
部屋に戻ると水色のドレスを脱いで、ベージュのワンピースに着替えた。つばの広い帽子を被って顔を隠す。
公爵令嬢が護衛無しで1人で出かけるなんて考えられないことだけど、ノアを呼び戻す以外にも、私には確かめたいことがあるのだ。
誰にも見られない秘密の出口から、ひっそりと抜け出した。
この城下町を1人で歩くのは初めて。
ヒールを鳴らして歩く街は物語のままで、綺麗な景色に目を奪わる。
街にも水晶の飾りがありとあらゆる所にあり、街全体が光を反射してきらきらしていた。
「あ、ここかしら。」
私が開けた扉は、街の酒場。この酒場が目当てだった。
「いらっしゃい。」
店主のおじさんの前にあるカウンターの隅に座る。
「お嬢さん何飲むかい?」
「あ、では、ノンアルコールカクテルで。」
「はいよ。」
実年齢は成人済みだが、この物語のココはまだ17歳だ。
届いた飲み物をちびちびと飲みながらこっそり周りを窺う。
私が探している情報はこの物語のヒロイン、レイアについてだ。
彼女はそろそろ登場していてもおかしくない。もしかしたらもうすでに私の知らないところでノアと接触しているかもしれない。
違う国からやってきたレイアは世間知らずで、この酒場で知り合いができるシーンがあった。
もしかしたら、彼女についての話を耳にできたりするかも。
しばらくすると、大きな足音が聞こえた。
ドアが勢いよく開いて、体格のいい男たちのシルエットが見える。
「いらっしゃい、リアム。」
店主が親しげに名前を呼ぶ。
「あ、」
呼ばれた彼の後ろに白銀の髪が見える。
ユーリア。
髪と同じ色のその白銀の瞳が私を捕らえると驚きの表情が浮かぶ。
そのまま口を開こうとして、思いとどまって慌てて手でその口を抑えた。
自然な動きで私の隣に座ると、不安げな表情を浮かべてぼうしをそっと覗き込んでくる。
「ココ様ですよね。なんでこんなところに。」
彼は第1王子近衛騎士団のひとり。ユーリア・クリスフォードだ。
「ちょっと用があってね。隠密なの。」
そう言って口の前に1本の指を立てる。
それにしてもわたしの顔をよく覚えていたものだ。
なぜそう言い切れるかというと私が別世界からの転生者だからだ。
私は前、女子大学生だった。電車に乗っていた時に交通事故に合って、気がついたらこの世界にやって来ていた。
この世界は私の大好きな少女向けの本、『レイアと星の国』の物語の中だ。
小さい頃に見つけた、本棚の奥に埃被っていた綺麗な装飾で洋書にも見える分厚い本。
どの本屋に行っても売っているところを見たことがないこの本は私にとって宝物だった。
綺麗で夢のある世界観に浸る時間が何よりも好きだった。
でもこの世界に転生してきたと分かった時私は心から素直に喜べなかった。
「なんで、ココなんだろう。」
ココ・レイルウェイズ、彼女はヒロインのライバルであり、彼女を貶める悪役令嬢だった。
何度見ても鏡に映るのは吸い込まれそうなほどの漆黒の髪にルビーのような透き通る赤い瞳。
水色のドレスを両手で持ち、くるりと回ってみる。繊細なレースがひらりと舞う。
大好きな物語だったはずなのになぜか内容を深くまで思い出せない。
私が大学生になってから忙しく、サークルやバイトばかりで、読書をしていなかったからかもしれない。
大事な物語だったのにその存在を忘れてしまっていた。もしかしたらこれは天罰なのかも。
「そうだとしてもやっぱり夢みたいだよ。」
白いカーテンを開けると城下町が広がる。
異国の街が愛おしくて、懐かしい。
「ココ様、準備にまいりましたよ。」
「ええ、お願いね。」
エリスが私の髪をくるくると巻き上げていく。
この物語では悪役令嬢のココは、ノア殿下に婚約破棄されて、遠い地でゆっくりと過ごす。
婚約破棄も、遠い地での暮らしもまったく苦ではないし、この世界に居られるだけ幸せだ。
「ココ様、先程ノア殿下が、伯爵令嬢を連れて街に出かけたらしいですよ。」
そう思っていたのに実際この立場になるとノアのクズっぷりがすごい。
「…教えてくれてありがとう。」
正直、ちょっと悪い男というのは女の子に需要がある。だから私も昔この物語を読んだ時にはノアのことが嫌いではなかったはずだ。
しかし、そういう男が本領発揮するのは特別な女の子の前でだけ。
そこまでがセットだから、かっこいいのだ。
つまり私にとってはただのクズ。
私が悪役令嬢ではなくても、婚約破棄は時間の問題。
「今日はちょっと、宮廷医師のところに第1王子の様子を聞きに行ってくるわね。」
「まあさすがココ様、お優しいですね。」
第1王子のユアン殿下は日々お務めや訓練に励んでいるけれど、小さい頃から体が弱い。
そのため、『レイアと星の国』では、国王の第1王子の補佐として、第2王子のノアも政治に大きく関わるのだ。
なのになんだか、朧気な記憶の物語の中よりもこの世界のほうが、第1王子の体調が良くない気がする。
「イーサン、今ちょっと時間大丈夫かしら。」
「ええ、なんでしょう。」
穏やかで優しい笑顔を浮かべる老人が、この城の宮廷医師である。
「ユアン殿下の今日のご様子は?」
「昨日、剣の訓練に励みすぎたようでしてね、熱をだしておられているのですよ。残っている仕事があると無理をなさっていたので、薬を処方して休息をとってもらっておるのです。」
「そうなのね。」
そんな時に私の婚約者は女の子と遊びに出ているのか。
呼び戻しに行けるのは今私だけだ。
そろそろノアにも王太子殿下としての責任を持ってもらいたい。
部屋に戻ると水色のドレスを脱いで、ベージュのワンピースに着替えた。つばの広い帽子を被って顔を隠す。
公爵令嬢が護衛無しで1人で出かけるなんて考えられないことだけど、ノアを呼び戻す以外にも、私には確かめたいことがあるのだ。
誰にも見られない秘密の出口から、ひっそりと抜け出した。
この城下町を1人で歩くのは初めて。
ヒールを鳴らして歩く街は物語のままで、綺麗な景色に目を奪わる。
街にも水晶の飾りがありとあらゆる所にあり、街全体が光を反射してきらきらしていた。
「あ、ここかしら。」
私が開けた扉は、街の酒場。この酒場が目当てだった。
「いらっしゃい。」
店主のおじさんの前にあるカウンターの隅に座る。
「お嬢さん何飲むかい?」
「あ、では、ノンアルコールカクテルで。」
「はいよ。」
実年齢は成人済みだが、この物語のココはまだ17歳だ。
届いた飲み物をちびちびと飲みながらこっそり周りを窺う。
私が探している情報はこの物語のヒロイン、レイアについてだ。
彼女はそろそろ登場していてもおかしくない。もしかしたらもうすでに私の知らないところでノアと接触しているかもしれない。
違う国からやってきたレイアは世間知らずで、この酒場で知り合いができるシーンがあった。
もしかしたら、彼女についての話を耳にできたりするかも。
しばらくすると、大きな足音が聞こえた。
ドアが勢いよく開いて、体格のいい男たちのシルエットが見える。
「いらっしゃい、リアム。」
店主が親しげに名前を呼ぶ。
「あ、」
呼ばれた彼の後ろに白銀の髪が見える。
ユーリア。
髪と同じ色のその白銀の瞳が私を捕らえると驚きの表情が浮かぶ。
そのまま口を開こうとして、思いとどまって慌てて手でその口を抑えた。
自然な動きで私の隣に座ると、不安げな表情を浮かべてぼうしをそっと覗き込んでくる。
「ココ様ですよね。なんでこんなところに。」
彼は第1王子近衛騎士団のひとり。ユーリア・クリスフォードだ。
「ちょっと用があってね。隠密なの。」
そう言って口の前に1本の指を立てる。
それにしてもわたしの顔をよく覚えていたものだ。
0
あなたにおすすめの小説
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
〘完〙なぜかモブの私がイケメン王子に強引に迫られてます 〜転生したら推しのヒロインが不在でした〜
hanakuro
恋愛
転生してみたら、そこは大好きな漫画の世界だった・・・
OLの梨奈は、事故により突然その生涯閉じる。
しかし次に気付くと、彼女は伯爵令嬢に転生していた。しかも、大好きだった漫画の中のたったのワンシーンに出てくる名もないモブ。
モブならお気楽に推しのヒロインを観察して過ごせると思っていたら、まさかのヒロインがいない!?
そして、推し不在に落胆する彼女に王子からまさかの強引なアプローチが・・
王子!その愛情はヒロインに向けてっ!
私、モブですから!
果たしてヒロインは、どこに行ったのか!?
そしてリーナは、王子の強引なアプローチから逃れることはできるのか!?
イケメン王子に翻弄される伯爵令嬢の恋模様が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる