悪役令嬢と氷の騎士兄弟

飴爽かに

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騎士兄弟の弟

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夜会で1度、しかも遠くから見ただけなはずなのに。
それこそ私、ココの姉、リリアほど目立っていたら嫌でも顔を覚えるのだろうけれど。

「おや嬢ちゃん、あんたも氷の騎士兄弟のファンなのかい?」
店主がにやにやと聞いてくる。
「ええ。もちろんよ。」
隣でユーリアが驚いて、座っている椅子の音を立てる。
ユーリア・クリスフォードとその兄のロシェル・クリスフォードは、2人ともこのクォーツ帝国の騎士である。

2人とも騎士としての技量が素晴らしく、特に兄のロシェルは第1王子の側近騎士でもある。
透き通る白銀の髪、その美貌から彼らは氷の騎士兄弟と呼ばれ、国民の女性の多くは、兄弟どちらかのファンだった。

兄のロシェルはファンサービスをしてくれる時もあるが、ユーリアはまったくもって女性達に無関心。
なかなか笑顔を見せないその鉄仮面が、ミステリアスだとさらに女性を騒がせていた。

私が物語を読んでいる時、1番好きな登場人物がユーリアだった。
なぜなら彼にはとてもかわいい1面があるから。

「はいユーリア、あんたのだよ。」
店主の奥さんが飲み物を渡す。
「あぁ、ありがとう。」
そう言って伸ばした手が、ほんの少し奥さんと触れた。
その瞬間、ぼっと彼の顔が赤くなる。
しかしユーリアは何事もなかったかのように飲み物を受け取った。

「あはは、ユーリア、私にまでそんな反応するなんて勘違いしちまうよ。嬉しいねえ。」
大口を開けて奥さんが笑う。
「おいおい、人の嫁だぞユーリア。まったくお前は。わはは。」
「な、なんのことだ。」
そう言って咳払いをして彼はごまかす。

「鉄仮面はウブを隠すためだなんて、世に知られたら、おまえは大変なことになるだろうなぁ。」
店主が大声で笑い、ユーリアの反対隣に座っている騎士団のリアムも笑っている。
ユーリアは、女性とあまり関わったことがなく、女性に慣れていない。それゆえに、女性と触れ合ったりしてしまうと、初心な反応をしてしまうのだ。
女性とどう関わっていいか分からないがために、冷たい反応になるという性格がとても可愛らしくて好きだった。

ひとしきり、ユーリアと店主たちの会話が終わったあと、こっそりと小声で私に話しかけてきた。
「隠密とは、いったいどのような用なのですか?私に手伝えることがあったら、お手をお貸しします。」
「えっと…」
話すかどうか少し考える。レイアとは早く会いたいし、ノアと接触しているかどうかを把握しておきたい。
「人探しをしているの。」
「人探しですか?…どのような方ですか?」
「名前は、レイア・フローレンス。藍色の髪に金色の瞳の、可愛らしくて優しい女の子よ。」
「レイア…このような場所で探しているということは貴族ではないのですね…そのような平民にいったいどんな用が。」
「…その女の子に助けてもらったことがあって、お礼がしたいの。」
その場で思いついたことではあったが嘘ではなかった。私はこの大好きな物語にたくさん救ってもらったのだから。特に主人公のあなたに夢を見させて貰ったのだから。

「そうなのですね。私も仕事の合間に探して見て見ます。」
「本当に?ありがとう。ユーリア。」
そう言ってユーリアの顔を見て笑うと、彼の頬が恥ずかしそうに紅く染った。

レイアの存在を感じられたのは想像していたよりもずっと早かった。

街から戻ったその日、王宮に行くと、伯爵令嬢との逢瀬から帰ってきたノア殿下が、1輪の花を生けていた。
この国にはどこにでも見かける、赤い5枚の花弁。

「レイア…!」
つい口に出してしまい、驚いたノア殿下が振り向く。
「ココ!来ていたのだな!なぜその名前を…」
驚いたノアがその体で花を隠そうと動いたけれどもう遅い。
その赤い花は物語の中で、レイアがノアにあげる花だったのだ。
どこにでもある花を大切そうに生けているところを見ると、レイアから貰ったに違いないのだろう。

なんて言い訳をして誤魔化そうと思いながら、その花瓶に近づく。
少し萎れている花は、付いている葉の数まで物語と同じだった。
けれどもおかしい。
物語よりずっと早い段階で、ノアはレイアに出会っている。
ほんとうならあと2、3ヶ月先のはずだ。
まるでノアが今日街に出ると分かっているかのようなタイミング。

ずっと花を見つめて何も話さない私に、ノアが慌てる。
「そ、それはある女性に貰ったのだ。だが、なぜココがその名前を…」
「えっと、衛兵からノア殿下がレイアと呼ぶ女性と一緒に居たという話を聞きまして。」
思いついた言葉をそのまま言いながら、彼の顔を見つめる。
もうすでにレイアの虜になっている彼に質問をさらに投げかける。

「会ったのは今日が初めてですよね?」
クズ男のくせに嘘をつくのが下手くそな彼の目が泳ぐ。
「…初めてではないのですか?」
「…あぁ。」
頷いたノアに驚いた。
物語の中で、レイアは初めて会った時にノアに花を渡すのだ。
しかしここでは何度目かの出会いで、こうして花を持ち帰らせている。

なんだかまるで、レイアが自分の存在を私に示唆しているみたい。
私にわざと気づいて貰いたがっているような…

あるひとつの考えが頭に浮かぶ。
この世界を狂わせようとしている、もしそんなことをしようとしている人がいるのなら…
レイア、あなたは物語の中のレイア・フローレンスではないの?

あなたも、もしかして転生者?
それなら、私に気づいてもらいたがっているあなたは一体誰?
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