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ユアン殿下とのお茶会
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今日は、第1王子のユアン殿下にお茶会に誘われている。
定期的にお茶会はあるものの、その内容は、だらしがないノア殿下に注意する会になっており、さらに心優しくあまり強く発言できないユアン殿下に変わって、私がお小言を言う会へと変わっていた。
つまり、ノアにとっては、兄の前で婚約者に怒られるという、いつも気の乗らない会なのである。
細かい装飾の着いた綺麗な紫色のドレスを着る。
テーブルには、ドレスに合わせた金色の水晶のアクセサリーが用意されている。
鏡を見て、水晶のイヤリングを耳に当て、付けようと思ったその手を下ろした。
『この国の者は皆派手好きだな…』
そういえばノアがそんなことを言っていた。
今日は付けないでいいかなと思い、イヤリングをテーブルに戻した。
「お待たせいたしました。」
応接間に行くと、もうすでにユアン殿下はやって来ていた。
しかし、ノアの姿がない。
まだ準備に手間取っているのだろうか。
「ごめんね。ノアがまだみたいで。」
「いえ。」
金色の髪を耳にかけているユアン殿下は近くで見るとより美しい。
綺麗な青い瞳がノアによく似ているのに、性格がこんなにも正反対だ。
「いつも君には弟が迷惑をかけているよね。申し訳ない。」
「ユアン殿下がそのようなことをおっしゃる必要はまったくありませんわ。」
いつも彼の前でノアに文句を言っているのだから
今更その言葉に説得力はないだろうが。
「あぁ、今日は、近衛騎士のロシェルも居るんだ。」
そう言って手招きすると、奥からユーリアと同じ白銀の美男子が現れる。
涼し気な瞳はユーリアよりも愛想があって、どこか余裕が感じられる。
「ココ・レイルウェイズ様、お久しぶりです。ロシェル・クリスフォードでございます。」
「ええ。お久しぶりね。」
このお茶会に騎士がやってくるのは初めてだ。
ユアンの前ではノアに小言を言うのはいつものことだが、あまり話したことの無いロシェルに細かくてうるさい女だと思われるのは憚られる。
今日はいつもより口数を減らすようにしよう、とこっそり決めた。
「遅くなってすまない!」
そう言って大きな音を立ててドアを開き入ってきたのは、やっとやってきたクズ男ノアである。
「ノア殿下、何をなさっていたのですか?こんなにもユアン殿下を待たせて。」
「本当に申し訳ない。急に連絡が来て。」
それもどうせどこかの令嬢からの連絡なのだろう。
「まあまあ、ノアもこちらに座りなさい。」
「はい、すみません殿下。」
そそくさと私の隣の椅子に座るノアに冷たい視線を送る。
「いつもの通り兄さんでいいよ、ノア。」
「あ、では分かった。兄さん。」
ノアは私とユアン殿下だけの時はユアン殿下のことを兄さんと呼ぶ。
今日は、ロシェルが居たから殿下と呼んだのだろう。
「あ、そうだ。ココ、侍女がイヤリングを忘れていたと言っていたぞ。付けてくるか?」
「あぁ、それはわざと置いてきたのです。ノア殿下が派手好きが嫌いと言っていたので。」
「…覚えていたのか?」
「え?えぇまあ。」
びっくりした表情で私の顔をまじまじと見つめてくる。
「自分でいうのもなんだが、ココは私にあまり興味が無いのだろうと思っていたから、嬉しいな。」
ふふ、と言うような初めて見る可愛らしい照れ笑いをする。
こんな表情もするのね、と今度は私がノアの顔をまじまじと見た。
こんなことでこんな表情をされるなんてこの人が可愛くなってきてしまうじゃない。
顔を上げると、ユアン殿下が我が子を慈しむような顔でこちらを見ていた。
「2人は仲がいいな。なぁ、ロシェル。」
「ええ、そうですね。」
ロシェルまでもがにこやかな笑みを浮かべている。
そんなふうに思われるのは恥ずかしいのだけど、
と思うと同時に、私はノアに興味が無いと思われているほど、彼に歩みよっていなかったのかなと考えた。
この人が救いようもないクズなのは置いておいて私だってもっと努力すべきところがあったのかな。
「それにしても、今日はロシェル殿もご一緒なのですね。」
ノアがロシェルに向かってそう言うと、彼は少し曇った表情を見せた。
「最近、ユアン殿下が仕事中に倒れることが多くなってしまったのです。」
「え?」
ユアン殿下を見ると彼は少し悲しそうな顔で言う。
「最近なんだかとくに体がついてこなくてね。薬も合ってきたし、今だけだとは思うのだけど。」
「そんな…」
「最近特に街のもめごとが多くなってきて、問題を治めるのに苦労するのですよ。」
ロシェルが気遣うような表情でユアン殿下を見る。
そんな大変な時でもノアは遊び歩いているのか。
我慢ならなくなって私はノアに顔を向けた。
「ノア殿下、ユアン殿下のお仕事のお手伝いをされたらどうでしょう。」
「あぁ…そうだな。」
そう言いながら彼は顔を背ける。
こんな状況でも自分から助けると言い出さないこの人が理解できない。
「一体、あなたはなぜこんなに協力的ではないのです?なにか理由があるのですか?」
口調が強くなった私に、ユアン殿下とロシェルがたじろぐ。
「いや、ただ…」
言い淀むノアにイライラする。
物語が好きな私はノアの葛藤が分かってはいた。
いつも剣術も政治もできる兄に比べられ、自分が兄に勝てる部分を探している。
彼はわがままで全てを自分のものにしていたい。
そんな欲求が女性を多く惹き付けた。だから実際彼はユアンより女性にモテるのだ。
そこを自分の強みだと思って彼はやっとユアンに勝てると思い、見せつけるように女性遊びが激しくなった。
むしろ今はそこしか兄に勝てる部分がないと思い込んでいるのだろう。
兄を助けることは彼の中のなにかの敗北になるのだろうか。
定期的にお茶会はあるものの、その内容は、だらしがないノア殿下に注意する会になっており、さらに心優しくあまり強く発言できないユアン殿下に変わって、私がお小言を言う会へと変わっていた。
つまり、ノアにとっては、兄の前で婚約者に怒られるという、いつも気の乗らない会なのである。
細かい装飾の着いた綺麗な紫色のドレスを着る。
テーブルには、ドレスに合わせた金色の水晶のアクセサリーが用意されている。
鏡を見て、水晶のイヤリングを耳に当て、付けようと思ったその手を下ろした。
『この国の者は皆派手好きだな…』
そういえばノアがそんなことを言っていた。
今日は付けないでいいかなと思い、イヤリングをテーブルに戻した。
「お待たせいたしました。」
応接間に行くと、もうすでにユアン殿下はやって来ていた。
しかし、ノアの姿がない。
まだ準備に手間取っているのだろうか。
「ごめんね。ノアがまだみたいで。」
「いえ。」
金色の髪を耳にかけているユアン殿下は近くで見るとより美しい。
綺麗な青い瞳がノアによく似ているのに、性格がこんなにも正反対だ。
「いつも君には弟が迷惑をかけているよね。申し訳ない。」
「ユアン殿下がそのようなことをおっしゃる必要はまったくありませんわ。」
いつも彼の前でノアに文句を言っているのだから
今更その言葉に説得力はないだろうが。
「あぁ、今日は、近衛騎士のロシェルも居るんだ。」
そう言って手招きすると、奥からユーリアと同じ白銀の美男子が現れる。
涼し気な瞳はユーリアよりも愛想があって、どこか余裕が感じられる。
「ココ・レイルウェイズ様、お久しぶりです。ロシェル・クリスフォードでございます。」
「ええ。お久しぶりね。」
このお茶会に騎士がやってくるのは初めてだ。
ユアンの前ではノアに小言を言うのはいつものことだが、あまり話したことの無いロシェルに細かくてうるさい女だと思われるのは憚られる。
今日はいつもより口数を減らすようにしよう、とこっそり決めた。
「遅くなってすまない!」
そう言って大きな音を立ててドアを開き入ってきたのは、やっとやってきたクズ男ノアである。
「ノア殿下、何をなさっていたのですか?こんなにもユアン殿下を待たせて。」
「本当に申し訳ない。急に連絡が来て。」
それもどうせどこかの令嬢からの連絡なのだろう。
「まあまあ、ノアもこちらに座りなさい。」
「はい、すみません殿下。」
そそくさと私の隣の椅子に座るノアに冷たい視線を送る。
「いつもの通り兄さんでいいよ、ノア。」
「あ、では分かった。兄さん。」
ノアは私とユアン殿下だけの時はユアン殿下のことを兄さんと呼ぶ。
今日は、ロシェルが居たから殿下と呼んだのだろう。
「あ、そうだ。ココ、侍女がイヤリングを忘れていたと言っていたぞ。付けてくるか?」
「あぁ、それはわざと置いてきたのです。ノア殿下が派手好きが嫌いと言っていたので。」
「…覚えていたのか?」
「え?えぇまあ。」
びっくりした表情で私の顔をまじまじと見つめてくる。
「自分でいうのもなんだが、ココは私にあまり興味が無いのだろうと思っていたから、嬉しいな。」
ふふ、と言うような初めて見る可愛らしい照れ笑いをする。
こんな表情もするのね、と今度は私がノアの顔をまじまじと見た。
こんなことでこんな表情をされるなんてこの人が可愛くなってきてしまうじゃない。
顔を上げると、ユアン殿下が我が子を慈しむような顔でこちらを見ていた。
「2人は仲がいいな。なぁ、ロシェル。」
「ええ、そうですね。」
ロシェルまでもがにこやかな笑みを浮かべている。
そんなふうに思われるのは恥ずかしいのだけど、
と思うと同時に、私はノアに興味が無いと思われているほど、彼に歩みよっていなかったのかなと考えた。
この人が救いようもないクズなのは置いておいて私だってもっと努力すべきところがあったのかな。
「それにしても、今日はロシェル殿もご一緒なのですね。」
ノアがロシェルに向かってそう言うと、彼は少し曇った表情を見せた。
「最近、ユアン殿下が仕事中に倒れることが多くなってしまったのです。」
「え?」
ユアン殿下を見ると彼は少し悲しそうな顔で言う。
「最近なんだかとくに体がついてこなくてね。薬も合ってきたし、今だけだとは思うのだけど。」
「そんな…」
「最近特に街のもめごとが多くなってきて、問題を治めるのに苦労するのですよ。」
ロシェルが気遣うような表情でユアン殿下を見る。
そんな大変な時でもノアは遊び歩いているのか。
我慢ならなくなって私はノアに顔を向けた。
「ノア殿下、ユアン殿下のお仕事のお手伝いをされたらどうでしょう。」
「あぁ…そうだな。」
そう言いながら彼は顔を背ける。
こんな状況でも自分から助けると言い出さないこの人が理解できない。
「一体、あなたはなぜこんなに協力的ではないのです?なにか理由があるのですか?」
口調が強くなった私に、ユアン殿下とロシェルがたじろぐ。
「いや、ただ…」
言い淀むノアにイライラする。
物語が好きな私はノアの葛藤が分かってはいた。
いつも剣術も政治もできる兄に比べられ、自分が兄に勝てる部分を探している。
彼はわがままで全てを自分のものにしていたい。
そんな欲求が女性を多く惹き付けた。だから実際彼はユアンより女性にモテるのだ。
そこを自分の強みだと思って彼はやっとユアンに勝てると思い、見せつけるように女性遊びが激しくなった。
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