悪役令嬢と氷の騎士兄弟

飴爽かに

文字の大きさ
5 / 25

ノアへの怒り

しおりを挟む
トントンとドアがノックされて、扉が開く。
「御歓談中失礼します。騎士団のユーリア・クリスフォードです。ユアン殿下いらっしゃいますでしょうか。」
入ってきたのは白銀の髪、無表情のユーリアだった。

私を見つけると表情も変えずにぺこりと頭を下げる。
最悪なタイミングで入ってきたなと、どこか諦めた表情で、兄のロシェルが彼を見つめる。

「ユーリア、頼んだ件は進んでる?」
「あ、はい。お話出来ることがあります。」
ノアへの憤りが達していた私は、ノアへの当てつけのようにユーリアに話しかけた。
本当はノアに一番に知られたくないことなのに、わざと目の前で彼との隠し事があることを示唆してしまう。

「ココ、私の知らない所でなぜ騎士と仲良くしているんだ?一体何を頼んでいるんだ?」
思った通りに釣れたノアに怒りをぶつける。
「私に何も言わないで遊んでいるあなたに聞く資格なんかありませんわ!」

ユーリアからしたらいきなり怒り出した私に驚きその肩がびくりと震える。

「もうほとんどあなたのせいで仮面婚約なのですよ!その立場をよくよく見返してみたらいかがですか?」
いつもの日々のストレスがひとつの決壊が崩れた拍子にどんどん溢れてくる。
こんなことを王子殿下に言うなんて不敬罪で捕まってもおかしくない。

「ココ…!」
「いい加減、自分の役目を見返して責任感を持って、ユアン殿下に協力なさってはどうですか?…いつまでもその立場に甘えていられると思わないでいただきたいわ!こんなの、こっちから、婚約破…」
そこまで言ったところで、後ろから袖をそっとひっぱられる。
ぱっと手で口を抑えて後ろを振り向くと、ユーリアがその無表情のまま、私の瞳を見て小さく首を横に振った。

やってしまった。最悪だ。
私からこの身分の低い人間から婚約破棄なんて言葉を言ってしまいそうになるなんて。

口を抑えたままノアを見ると、驚いた固まった表情で、こちらを見ていた。
ユアン殿下やロシェルの驚いた空気が伝わってくる。

もう無理だ。何を言ったって取り作れない。
どうしようもなくなって私は踵を返して、走って部屋を出た。
「ココ様!」
そう言ってユーリアが後ろからついてくる。
その言葉に振り向くことなく、私は城のはずれまで走った。



城の庭の離れまでやってきて、息を整える。
「はぁ…はぁ…」
後ろから来たユーリアは息がひとつも乱れておらずやはりさすが騎士だと感じた。
何を言えばいいのだろうかというユーリアの悩む気配がする。
気を使わせたくなくて自分から口を開いた。
「私ってとんでもない婚約者ね。」

涙が出そうで視界がぼやける。
零れないように顔を上げると、鮮やかな花々が目に入った。
いつもよりにじんだ世界でより色が溢れて見える。
見慣れてきたこの景色が急に遠く感じる。
「こんな綺麗な場所、ほんとは私に似合わないのにね。」
「ココ様?」
「ねぇ私、不敬罪で捕まるかしら。」
「それはないと思いますよ。婚約破棄なんて言葉をあなたから言い切ってしまっていたら分かりませんが。」
「止めてくれてありがとう…ユーリア。」
「いいえ。…ノア殿下の不貞には皆困っていたんです。注意すべきだったのはユアン殿下だったと思います。あなたは言うべきことを言っただけですよ。」
相変わらず無表情でそう言うユーリアを見上げる。
明らかに私が言いすぎているのにこの人は優しいな。

「本当は、ノア殿下がクズじゃないところも私は知っているのよ。」
「クズ?」
初めて聞く言葉にユーリアが首をかしげる。
「あの人は、私がどんなに彼を怒っても、自分の立場を傘に着ることはしないのよ。」
私が怒るとあまり言い返すことはなく、自分の方が身分が高いのだから自由にしていいだろう等の上からの発言をしたことがないのだ。

王族なら一番に言い訳として出てきてもおかしくない言葉だろうに。
彼のそういう気遣いにほんとは私は助けて貰っていたんだろうなと思う。
そういう所があるからこそ、主人公のレイアもきっと彼のことを好きになったのだ。

物語のなかの悪役令嬢ココ・レイルウェイズはどうしていたっけと思い出す。
彼女がノアに怒っていたところはあまり思い出せない。
もしかして私本当の悪役令嬢よりも心が狭い?
でもノアの行為にはさすがに怒っていいと思わない?

1人でもんもんと考えていると、ユーリアが口を開いた。
「ココ様、あの探している女性レイアについて、ノア殿下も関わっていたかもしれない怪しい情報があります。」
そのただならぬ真剣な表情に、驚いてユーリアの顔を見つめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

〘完〙なぜかモブの私がイケメン王子に強引に迫られてます 〜転生したら推しのヒロインが不在でした〜

hanakuro
恋愛
転生してみたら、そこは大好きな漫画の世界だった・・・ OLの梨奈は、事故により突然その生涯閉じる。 しかし次に気付くと、彼女は伯爵令嬢に転生していた。しかも、大好きだった漫画の中のたったのワンシーンに出てくる名もないモブ。 モブならお気楽に推しのヒロインを観察して過ごせると思っていたら、まさかのヒロインがいない!? そして、推し不在に落胆する彼女に王子からまさかの強引なアプローチが・・ 王子!その愛情はヒロインに向けてっ! 私、モブですから! 果たしてヒロインは、どこに行ったのか!? そしてリーナは、王子の強引なアプローチから逃れることはできるのか!? イケメン王子に翻弄される伯爵令嬢の恋模様が始まる。

処理中です...