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Act.22
しおりを挟む人間達に、膨大な魔力を持った俺の存在が偶然発見され、魔王と呼ばれていたと思っていたが……。
それは悪魔が、俺に大量殺戮の罪を着せるため、ただそれだけのために作り上げた必然だったのか。
「人間を虐殺した悪魔の王だと思われていたとは……癪だな」
誰にも聞こえないくらい小さく俺は呟いた。
俺とクロウドの記憶にある魔王は、残虐非道の悪の根源であり、滅ぶべき対象だと言われていた。
たが、その考えは当時と現在は大きく違う。
俺にはこの時代でやらなければならない、壮大な目標が1つ増えてしまったのかもしれない。
「さて、魔王サクヤ……どうするか決めたのか?」
クロウドはニヤリと笑い俺を見る。
「ああ、決めた。もちろん名誉挽回するつもりだ。ついでに討伐される側だったが、今度は討伐する側になるぞ」
これが俺がクロウドに対して答えた決断だ。
「クク……クハハハハハハハ――――」
それを聞いたクロウドは高笑いをした。
「……何がおかしい?」
俺はそう言い、クロウドを睨む。
「……すまんな、あまりにお前らしい答えだったもので、堪えきれなかっただけだ」
クロウドは口元に手を置いて言い、冷静になったような格好をしているが、まだ少し肩が震えていた。
「……さっきまでの緊張感が嘘みたい……」
アリアは急に空気が変わったことに驚いたようだ。
いや、アリアだけではない。正直俺も驚いた。
「ああ、緊張感など要らぬだろう。私とサクヤは悪魔を討伐する同志なのだぞ?」
そう言うクロウドの態度が今までと大きく変わってしまったため、俺は正直戸惑ってしまった。
少しばかり、クロウドに胡散臭ささえ感じてしまう。
アリアも俺と同じ気持ちのようで、どうしていいのか分からず抱きついたまま、離れようともしない。
「アンタがクソ真面目に魔王討伐を宣言した勇者クロウの記憶を引き継いだとは思えないな……」
俺は嫌味を含めて呟いた。
魔王を滅ぼして平和を手に入れると叫んだ勇者クロウが、現世ではこんな胡散臭い男になっているなど、誰が想像しただろうか。
そもそも、前世で勇者と呼ばれた男と、魔王と呼ばれた男が協力する事自体、ありえない事態だ。
「そういえば、アンタに聞いて確かめたい事があったな」
俺はクロウドに言う。
「どうした?」
クロウドは腕組みをしながら俺の方を向いた。
「勇者の特殊スキル『不死』の事だ」
あの忌々しい能力のお陰で、俺はあの男と何度顔を合わせたことやら……。
「もちろんあれも悪魔の魔法だ」
クロウドはあっさり答えたが、俺の思う範疇の答えだ。
「蘇生魔法と転移魔法を複合して、俺に追い返されたら安全な所へ転移させる……か」
俺が独学で研究していた時に開発した魔法に似ている。
「その通りだサクヤ」
クロウドはそう言って感心したのか頷いている。
「俺も過去に似たような魔法を開発しただけの事。まあ、使う機会が無かったので、没にしたのだがな」
俺は懐かしい思い出に浸りながら言った。
あの頃は魔法の事だけ考えて生活していた。
起きたら魔法の研究、寝たら夢の中まで魔法の研究。
現世の生活とはかけ離れている。
こうなるとは、前世の俺なら間違いなく考えられないだろう。
「……そういえば……授業どうなるんだろう……」
アリアの言葉で俺は現実に引き戻される。
「解せぬ。俺はカーティスに理事長室に案内されただけだからな……」
朝から呼び出されてどのくらいの時間が経ったのだろう。
「2人共、何を心配しているのだ。私が呼んだのだぞ? 理事長の特権でどうにかする」
俺とアリアに視線を送ってニヤリと微笑んだ。
「「職権乱用か……」」
俺とアリアにはそれしか返す言葉が出てこなかった。
「とりあえず学園に戻ろう。サクヤ、頼むぞ」
そう言ってクロウドは俺の肩に手を置いた。
「もちろんだ。アリアも離れるなよ」
まあ、アリアはしっかり俺に抱きついているから大丈夫だろう。
「転移魔法」
一瞬景色が歪んだかと思った時には、俺たち3人は理事長室に戻っていた。
窓に差す光の具合から、おそらく今は昼過ぎ……まだ授業は残っている時間だ。
「さて、教室に戻るとするか。行こうアリア」
そう言って背中に抱きついたままのアリアに言う。
「……うん……行こう」
アリアはそのままだと歩きにくかったのか、俺に抱きつくのをやめた。
「待て」
クロウドは俺とアリアを呼び止める。
「どうした?」
俺とアリアはクロウドの方に振り返った。
「先ほどの話なのだが……」
言いたい事は分かっている。
「正体をバレないように気をつけて悪魔について探れと言いたいのか?」
俺がそう言うと、クロウドは図星だったのか少し驚いた表情をした。
「ああ。そうしてもらえれば助かる」
クロウドは驚いた表情を誤魔化すかのように、一度咳払いをしてから腕を組んで言った。
「軽く情報を収集すればいいのか?」
俺は確認のためにクロウドに尋ねる。
「まずは、そうだな……そうしてくれ」
クロウドは何か言いたそうだったが、結局それ以上何も言わなかった。
「アリアは危ないから学園に残っていてくれるか?」
何かあった時、今までよりも危険な気がするのでそう言った。
「……わかった……」
アリアは少し不機嫌そうに返事をした。
「私も悪魔対策を練らないといけないのだが……。アリア、君も協力してくれないか?」
クロウドはアリアにも悪魔討伐の協力を依頼する。
「……サクヤも頑張ってるから、私も頑張る……」
アリアはそう言って悪魔討伐に協力する事を承諾した。
俺が悪魔に対して攻めの段取りを組み、クロウドは学園で悪魔が率いる魔族が攻め込めないよう守りの作戦を練る。
これから起こるであろう悪魔との戦い。
それは守る人間だけでは勝てない。
だが恐ろしく攻めに特化した人間の力があれば、守るだけだった人間にも勝機がある。
「頼むぞアリア……」
俺はそう言って理事長室を出た。
「悪魔だろうが何だろうが、本気を出せば一人で倒せる気がするがな……」
無意識にそんな言葉を呟いてしまったが、それを聞いた者は居なかった。
とりあえず、俺に罪を着せた悪魔を始末するか……。
「転移魔法」
俺が詠唱すると学園から景色が変わった。
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