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Act.23
しおりを挟む俺は転移魔法を発動して、学園から世界の僻地へ戻ってきた。
ここ数日、俺は何度もここへ行き来しているが、今回はまだ誰も連れてきた事がないある場所へ向かう。
俺は巨大な城がある位置から約五〇メートル程離れたところで跪き、目の前の更地に手を当てる。
「俺の生きた証を此処へ遺さん」
地面に向かって唱えると更地だった地面に突如地下へと続く階段が現れた。
この先は、前世の俺が魔法を研究し開発した際に錬成した魔法具を保管する隠し部屋。
無論、俺以外には開くことができない空間。
「やはり、ここは魔法磁場の影響を受けてはいなかったか」
俺はそう呟きながら階段を降りてゆくと、地表は何事もなかったかのように元の更地に戻る。
当時の入口の魔法は完全に残っていたようだ。
階段を降りてゆくと明るい日差しが差してくる。
ここは世界の僻地の地下なのだが、俺が作り上げた地上と遜色ない環境を持つ箱庭。
ちなみに俺が転生した際、魔族の身体を失ってもこの場所が消滅せずに残っていたのは魔石のおかげだ。
学園の入学試験の際にも用いられた物を、遥かに凌ぐ大きさの魔石がここの核に使われている。
魔石は魔法攻撃を与えることで簡単に破壊する事ができる。
だが、それ以外の魔法を使う際には触媒として利用できる。
魔法磁場から流れる魔力を貯蓄して供給、循環させる事で永続的に当時の魔力を維持できる。
俺がこの箱庭を創造した際に、維持する魔力に対して、何かあった時のためにと保険を掛けて、大きすぎるくらいの魔石を選んでいた。
それが功を奏して、魔法磁場の歪みにも耐えたうえ、現にこの空間が当時のままの状態で現存していたのだ。
そのおかげで箱庭の魔法は消失する事なく、昼夜の概念もあるうえに、時折そよ風が吹く快適な環境になっている……という訳だ。
俺は箱庭の中に建てた魔法具を保管する建物へと向かう。
魔法の研究や開発は多岐に渡っていたので、色々な状況に対応できるように錬成した魔法具が、その建物の中に置かれている。
建物に入ると、維持魔法の力で埃や塵を被ることなく、魔法具が綺麗な状態を維持して保管されていた。
「ここへ巨大な魔石を置いた事が、まさか役に立つとはな……」
俺はそう呟きながら、自ら錬成した数々の魔法具を眺める。
そして、壁に立てかけられた、黒く鈍い光を放つ剣の前で立ち止まった。
「冗談半分に作った俺の黒歴史……。こいつが役に立つとはな……」
これは、もし俺が魔族に襲われたら……という、当時ではありえない状況を想定して作った特殊な魔剣。
この魔剣は、斬った相手の魔力を吸収し、斬れ味を良くしたり強度を増やしたりと、剣自体の付与魔法に変換させる特殊効果を持たせている。
人間の体内には血液が流れているが、魔族には血液がない。
身体に流れる魔力こそが血液の代わりなのだ。
だからこそ、この魔剣が役に立つという訳だ。
本来の強度も切れ味も剛剣鋭化によってかなりの高水準ではあるが、それを更に強化する事が出来るのだ。
俺は魔剣を鞘に戻し持ち出す準備をした。
そしてもう一つ必要なものを探す事にした。
懐かしい魔法具が幾つもあり、研究していた頃の事を思い出しそうになってしまう。
だが、今はその時間さえ勿体無い。
魔法が昔のように使え、幸せな未来の礎が築かれる頃までは、思い出すのは止めておこう。
さらに建物の奥へ進むと、俺は黒い金属に赤い魔石が埋められたネックレスを見つけた。
「魔法に法律があるのなら、間違いなく違法な代物だな……」
俺はネックレスを手に持って呟いた。
このネックレスは、俺が錬成した魔法具の中でもぶっ飛んだ代物だ。
過ぎてゆく時間に対して、装着した者を最大で三〇分程度過去へ戻す事ができるのだから。
魔法で出来たのは過去に戻すことだけ。未来へ進めることはできなかったが、持って行く価値は十分にあるだろう。
俺はネックレスを首に巻いて留めた。
そして俺は、ネックレスの隣に置いてあった服を見た。
ついでに学園の人間だと分かりにくい格好にしておくか……。
剣や槍、矢のような物理攻撃に対しての防御皮膜を施した、魔王と呼ばれた当時の服。
今着ている物と比べれば、その防御性能は雲底の差。
俺は一着だけ残していた当時の服に着替え、今まで着ていた服を収納魔法で収めた。
艶を消した、闇に溶けてしまいそうな黒い服……また着れるとは思ってもいなかった。
「待てよ、もしかしたら……」
俺は箱庭を出ようとした時に、ある事を思い出した。
「魔力を増幅させる錠剤……確かここに隠したよな……」
それを探すため、俺は建物の中を物色する。
「……あった!」
魔力が増える魔法が奇跡的に出来たので、その効果を含有した錠剤を作り、それを残しておいた。
効き目は直に魔法を発動するのに比べると、多少なりとも劣ってしまうかもしれないが、未知数の効果が期待できる筈だ。
その錠剤は建物の一番奥にある、小さなケースに並べて置かれていた。
「……試しに一錠飲んでおくか」
俺は手に取った錠剤を飲み、残りを収納魔法で収めて、魔法具が隠された建物を後にした。
錠剤の効果が出るまでは、一旦アリアとクロウドの所へ戻ろう。
それに、よく考えたら悪魔に対する情報を、クロウドからまだまだ聞き出す必要がある。
「転移魔法」
俺の視界は一瞬で理事長室に変化した。
どうやらアリアとクロウドは、悪魔が侵攻してきた際の対策を練っている途中のようだ。
さて……俺もクロウドに情報を教えてもらおうか。
「あっ……サクヤ、おかえ……り?」
アリアが俺に気付いて……固まった。
「早かったな……?」
クロウドも俺と目を合わせて固まった。
そして二人共不自然な疑問形の語尾。
考えられる可能性は、俺が錠剤を飲んだ副作用で、二人が気付く程の能力に目覚めた。
そういう事なのだろうか!?
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